東インド艦隊 (アメリカ海軍)

東インド艦隊

東インド艦隊は、19世紀にアメリカ海軍がアジア地域に展開していた艦隊です。1835年に設立され、1868年にアジア艦隊と改称されるまで、この地域におけるアメリカの権益保護や外交交渉に重要な役割を果たしました。当初、アメリカ海軍には「フリート（fleet）」という概念がなく、「スコードロン（Squadron）」が最大の戦闘艦グループであり、日本語では「戦隊」と訳されることもありますが、実質的には艦隊と同等の規模と活動範囲を持っていました。

歴史

設立と日本開国の試み

1830年代、アメリカとアジア諸国との貿易は増加傾向にありましたが、公式な外交関係はほとんどありませんでした。アンドリュー・ジャクソン大統領は、1832年にエドマンド・ロバーツを特使として派遣し、戦闘スループ「ピーコック」をアジアに送り込み、東南アジアや東アジア諸国との条約締結を目指しました。ロバーツはシャムとマスカットとの条約締結に成功したものの、中国や日本との交渉は困難と判断し、帰国しました。1835年、ロバーツは再びアジアに派遣されますが、中国で病死。その後、エドマンド・ケネディ代将が艦隊を率いることになり、ここに東インド艦隊が正式に発足しました。しかし、ケネディ代将も日本との交渉は自身の権限外と考え、帰国を決断します。

アヘン戦争

1839年、イギリスと清の間でアヘン戦争が勃発すると、アメリカは中立を維持しつつも、自国民の保護のためにローレンス・カーニー代将を司令官とする艦隊を派遣しました。カーニーは、南京条約の情報を得て、アメリカも同様の条約を結ぶべきと考え、巧みな交渉の末、望厦条約の締結に成功しました。しかし、この時、日本との交渉は具体的には進みませんでした。

ビドルの日本訪問

1845年、ジェームズ・ビドルが東インド艦隊司令官に任命されると、望厦条約の批准書交換のため中国へ向かい、同時に日本との条約締結を目指しました。1846年、ビドルは戦列艦「コロンバス」と戦闘スループ「ヴィンセンス」を率いて浦賀に来航しますが、浦賀奉行に交渉を拒否され、数日の滞在で退去せざるを得ませんでした。

グリンによるアメリカ人捕鯨船員の救出

1846年、日本近海で難破したアメリカ捕鯨船の船員や、日本に英語を教えたいと入国したラナルド・マクドナルドが長崎に抑留されました。東インド艦隊のデビッド・ガイシンガー司令官は、この情報を得て、ジェームス・グリンに救出を命じました。1849年、グリンは戦闘スループ「プレブル」を率いて長崎に到着。強硬な態度で船員らの解放を要求し、オランダ商館の協力も得て、彼らを無事救出することに成功しました。この成功は、後のマシュー・ペリーによる日本開国への道筋をつけることになりました。

ペリーによる日本開国

1851年、フィルモア大統領は日本の開国を目指し、ジョン・オーリックを東インド艦隊司令官に任命。しかし、オーリックは病気のため、マシュー・ペリーが後任となり、1853年に4隻の艦艇を率いて日本を訪問。翌1854年には9隻の艦隊でいわゆる砲艦外交を展開し、日米和親条約を締結させ、日本の開国に成功しました。

アロー号事件

1856年から1860年にかけてのアロー戦争（第二次アヘン戦争）中、東インド艦隊の艦艇も二度の戦闘に関与しました。最初の戦闘では、「サン・ジャシント」などの艦艇が珠江沿いの清の要塞を攻撃。二度目の戦闘では、ジョサイア・タットノール代将がイギリスとフランス軍に協力して大沽砲台を攻撃しました。この際、タットノールは「血は水よりも濃し」と述べたとされています。

下関戦争

日本の開国後も攘夷運動を続けていた長州藩は、1863年と1864年の二度にわたり列強諸国と武力衝突を起こしました。当時、アメリカは南北戦争の最中であり、大規模な艦隊をアジアに展開できませんでした。1863年の戦闘では、デヴィッド・マクドゥガル中佐が率いる「ワイオミング」が参加。1864年の戦闘では、シセロ・プライス代将が率いる「ジェームスタウン」が、チャーターした商船「タ・キアン」に武装を施して参加しました。

主な所属艦艇

東インド艦隊には、以下のような艦艇が所属していました。

ピーコック（USS Peacock）：帆走戦闘スループ
エンタープライズ：帆走スクーナー
コンステレーション（USS Constellation）：帆走フリゲート
ボストン（USS Boston）：帆走戦闘スループ
コロンバス：戦列艦
ヴィンセンス：帆走戦闘スループ
ドルフィン（USS Dolphin）：帆走ブリッグ
サラトガ（USS Saratoga）：帆走戦闘スループ
サスケハナ：蒸気外輪フリゲート
ミシシッピ：蒸気外輪フリゲート
ポーハタン：蒸気外輪フリゲート
マケドニアン（USS Macedonian）：帆走フリゲート
サン・ジャシント（USS San Jacinto）：蒸気スクリューフリゲート
ポーツマス（USS Portsmouth）：帆走戦闘スループ
レバント（USS Levant）：帆走戦闘スループ
ジャーマンタウン（USS Germantown）：帆走戦闘スループ
サギノー（USS Saginaw）：蒸気スクリュー砲艦
ハートフォード（USS Hartford）：蒸気戦闘スループ
ワイオミング：蒸気スクリュー戦闘スループ
ジェームスタウン（USS Jamestown）：帆走戦闘スループ
タ・キアン：スクリュー改装軍艦

歴代司令官

東インド艦隊の歴代司令官は以下の通りです。

初代：エドマンド・ケネディ（1835-1837）
第2代：ジョージ・リード（1837-1840）
第3代：ローレンス・カーニー（1841-1843）
第4代：フォックスホール・パーカー（1843-1845）
第5代：ジェームズ・ビドル（1845-1848）
第6代：ウィリアム・シュブリック（1848）
第7代：デビッド・ガイシンガー（1848-1850）
第8代：フィリップ・ヴォーヒーズ（1850-1851）
第9代：ジョン・オーリック（1851-1852）
第10代：マシュー・ペリー（1852-1854）
第11代：ジョエル・アボット（1854-1855）
第12代：ジェームス・アームストロング（1855-1858）
第13代：ジョサイア・タットノール（1858-1859）
第14代：コーネリアス・ストリブリング（1859-1861）
第15代：フレデリック・エングル（1861-1862）
第16代：シセロ・プライス（1862-1865）
第17代：ヘンリー・ベル（1865-1868）

ヘンリー・ベルは最初の少将司令官であり、彼の任期中に東インド艦隊はアジア艦隊へと名称が変更されました。

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