東京スタジアム (野球場)

東京スタジアム

かつて東京都荒川区南千住に存在した野球場です。「東京球場」の通称でも親しまれ、現在のプロ野球球団、千葉ロッテマリーンズの源流となる毎日大映、東京、そしてロッテオリオンズが本拠地として使用しました。運営は、大映の子会社であった株式会社東京スタジアムが担っていました。1962年に華々しく開場しましたが、経営難などからわずか11年後の1972年限りで閉鎖。その後、1977年に解体されました。

誕生の背景と歴史

東京スタジアムが建設された南千住の地は、もともと明治時代に官営の千住製絨所が操業を開始した場所でした。戦後、工場は大和毛織に払い下げられましたが、1950年代には業績不振や様々な問題が重なり、1960年に閉鎖。その広大な跡地の一部が、スタジアム建設の候補地となりました。

当時のプロ野球界では、後楽園球場を読売ジャイアンツ、国鉄スワローズ、毎日大映オリオンズの3球団が共用しており、日程消化が困難な状況でした。大毎オリオンズのオーナーであった永田雅一氏は、この状況を解消するため、私財を投じて自前の本拠地球場建設を計画。都内各地を視察した末、一度は深川への建設が有力視されたものの破談となり、南千住の大和毛織工場跡地が新たな建設地として選ばれました。永田氏は以前から「下町に自分の球場を持ちたい」という希望を持っており、工場閉鎖前からこの地への関心を寄せていたと言われています。

大映自体が斜陽化する映画産業の影響で経営が苦しくなる中、永田氏は約10億円を投じて用地を取得。1961年7月に着工した建設工事は約20億円の総工費をかけ、わずか1年足らずで完了。1962年5月31日に「東京スタジアム」として竣工しました。6月2日には、パ・リーグ全6球団が集結し、開場式が盛大に行われました。満員に膨れ上がったスタンド（公称35,000人収容）を前に、永田オーナーは「皆さん、パ・リーグを愛してやって下さい！」と熱く呼びかけました。「大リーグのボールパークのように最新の設備を備えつつ、庶民が下駄履きで気軽に通える」という永田氏の理想が形となった、まさに彼の「夢の球場」でした。

開場当日の夕方には、こけら落としとなる毎日大映オリオンズ対南海ホークスの公式戦が開催され、この試合で野村克也選手が球場第1号となる本塁打を記録しました。

オリオンズの本拠地として稼働した東京スタジアムですが、神宮球場を大学野球に優先的に使用されていた事情などから、東映フライヤーズ（1962年、63年）や国鉄スワローズ（後のサンケイ、ヤクルト、1964年以降）も限られた試合ながら本球場を利用しました。また、大洋ホエールズなど他球団の主催試合も開催されることがありました。

永田オーナーは1964年シーズンから球団名を「東京オリオンズ」に変更。都市名を冠したことで、「東京」を名乗る唯一のプロ野球チームであると自慢していました。しかし、当時のオリオンズはリーグ下位に低迷し、開場年の4位以降も5位、4位、5位と苦戦が続きました。さらに、同時期に読売ジャイアンツがV9時代を築いていたこともあり、プロ野球人気はセ・リーグに集中する傾向が強まりました。開場初年度こそ年間70万人を超える観客を集め盛況でしたが、その後は観客動員が減少。スタジアム建設にかかった巨額の費用を回収できない経営状態が続きました。中には観客が200人程度という試合もあったと記録されています。

1969年には菓子メーカーのロッテを冠スポンサーに迎え、「ロッテオリオンズ」に改称。そして1970年10月7日、ロッテは東京スタジアムで10年ぶりのリーグ優勝を決めました。試合終了直後、喜びあふれるファンがグラウンドになだれ込み、選手に先立って永田オーナーを胴上げするという印象的な場面が見られました。

翌1971年、経営が悪化した大映は球団経営権をロッテに譲渡し、本社再建を図るも倒産に至ります。スタジアムを運営する株式会社東京スタジアムも約15億円の累積赤字を抱え、1972年には国際興業の小佐野賢治氏に経営権が移りました。小佐野氏はスタジアムを賃貸するだけでは採算が取れないとし、ロッテにスタジアムの買い取りを求めましたが、ロッテ側はこれを拒否し、賃借契約の継続を希望。交渉は難航し、1972年11月22日には事実上決裂しました。小佐野氏はスタジアムの廃業を宣言。こうして、東京スタジアムは開場からわずか11年で閉鎖されることが決定しました。この年、ロッテの年間観客動員は65試合で約31万人にとどまっていました。最後のプロ野球公式戦は10月15日のヤクルト対阪神戦でした。

本拠地を失ったロッテは、1973年から1977年まで仙台の宮城球場を暫定本拠地とし、その後は川崎球場を主としながらも、首都圏や静岡県草薙球場などを転々としながら主催試合を行いました。この放浪期間中、1974年にはリーグ優勝、そして日本シリーズも制し日本一に輝いています。

閉鎖された東京スタジアムの運営会社である株式会社東京スタジアムも、1973年6月1日に法人格を解散しました。同年末には竹中工務店が土地と施設を取得。社内の野球大会に利用されたこともありましたが、パ・リーグ球団からの利用要請は受け入れられませんでした。一部でロッテの再利用が噂されましたが実現せず、1977年3月には東京都が跡地を取得し、4月からスタンドの解体が進められました。スタジアム跡地の大部分は、現在「荒川総合スポーツセンター」となっており、体育館や軟式野球場などが整備されています。また、一部は南千住警察署や都民住宅の敷地となっています。東京スタジアムの解体以降、東京23区東部地域には、2024年現在まで1万人以上を収容できる規模のスタジアムは存在していません。

「光の球場」としての特徴

東京スタジアムの設計は、アメリカのキャンドルスティック・パークやコミスキー・パークといった当時の大リーグ球場をモデルにしていました。特に目を引いたのは照明設備で、当時日本の球場で一般的だった送電塔のような無骨な構造ではなく、2本のポール型鉄塔がサーチライトを支えるモダンなデザインでした。高照度を誇るこの照明設備は、開場前の点灯テストで永田オーナーが「後楽園球場もビックリだろ」と誇示したほどでした。

スタジアムは二層式の内野スタンドを持ち、強化プラスチック製の座席はエリアごとに色分けされていました（青：外野・自由席、黄：内野指定B、赤：内野指定A）。シートピッチが広めに取られていたため、「ゆったり座れる」と好評でした。また、1階と2階スタンドの間には、日本の野球場としては初めてとなるゴンドラ席（67席）が設けられました。

スコアボードはパネル式でしたが、本塁打が出ると「HomeRun」と電光表示が点灯する演出や、デジタル表示式の時計など、当時としては先進的な設備を備えていました。グラウンドは外野だけでなく、内野のインフィールド部分にも天然芝が敷設されていました。敷地が狭隘だったため、ファウルエリアはやや狭く、内野フェンスも低い構造でしたが、「選手がすぐ近くで見える」と観客からは好評でした。しかし、天然芝の手入れが行き届いていないと感じた選手もいたようです。

エントランス部には、キャンドルスティック・パークでも採用されていたスロープ式の通路が設けられ、観客をスムーズにスタンド下の通路へ誘導する工夫がなされていました。これは観客と選手・関係者の動線を分離する目的で設計されたもので、現代でいうバリアフリーにも通じる先駆的な考え方と評価されています。

スタンド下には選手用の設備も充実しており、特に幅約6mの広い屋内ブルペンや、トレーナー室、医療室などが整備されていました。選手の評価が特に高かったのはロッカールームで、オリオンズの選手は、後楽園球場などと比べて広々としており、快適に過ごせたと語っています。また、選手専用食堂も広く内装も良く、メニューも充実していたため、「銀座の一流料理店みたいだ」と評判でした。これらの設備は現在では一般的ですが、当時は画期的で、特にパ・リーグ他球団の選手からは羨望の的でした。

安全面では、当初コンクリート製だった外野フェンスに選手が衝突して負傷する事故が発生したため、1966年3月には日本の球場では初めてラバーフェンスが導入されました。

一方で、敷地が狭かった影響で、フィールド自体も狭隘でした。両翼90m、中堅120mというサイズは当時の後楽園球場と同じ公称値でしたが、左中間・右中間の膨らみがほとんどない一直線の形状だったため、「本塁打量産球場」とも揶揄され、投手には不利な球場とされました。しかし、永田オーナーは「打たれたらウチも打ち返せ」とこの点を気にも留めなかったようです。

このような狭さにもかかわらず、見事な成績を残したのが小山正明投手です。抜群の制球力を持ち味とする小山投手は、1963年オフに阪神からオリオンズに移籍した当初、狭い東京スタジアムへの対応に不安視する声もありました。しかし、小山投手はパームボールなどを駆使してこの球場を攻略し、移籍初年度の1964年に30勝を挙げ最多勝を獲得。その後もオリオンズのエースとして活躍しました。

スタジアム周辺は当時、低層の住宅が立ち並ぶ下町の風景でした。そこに忽然と現れた巨大なスタジアムが、夜になるとナイター照明で明るく照らされる様子から、「光の球場」とも呼ばれていました。しかし、ナイター終了後に照明が消えると大量の夜蛾が周辺の民家に押し寄せるという、思わぬ公害も発生していました。

多様な利用と記憶

東京スタジアムは野球以外にも多目的に利用されました。左翼スタンド下にはボウリング場が併設され、野球のオフシーズンには内外野のスタンド席上に巨大な屋外スケートリンクが設置されました。フィギュア用リンクとスピードスケート用400m周回路が設けられ、多くの人々に利用されましたが、このため春と秋のオリオンズの練習はグラウンドが使えず、軽い内容に限られたという逸話も残っています。

開場当初、永田オーナーは球場地下への地下鉄乗り入れ、映画館やデパート併設など、総合レジャー施設化という壮大な構想を抱いていましたが、これらは実現しませんでした。しかし、その先駆的な設計手法は、その後の日本の野球場建設に多大な影響を与えたと評価されています。

また、開場式当日には無料入場券が大量に配布されたことで、場外に入りきれないほどの観客が押し寄せたというエピソードや、関東地方で初めてカップヌードルの試験販売が行われた場所であることなども知られています。プロレス興行も開催され、ジャイアント馬場とアブドーラ・ザ・ブッチャーのシングル初対決がこの球場で行われたことも特筆されます。

短命に終わった東京スタジアムですが、その先進的な設備や「光の球場」としての存在は、多くの人々の記憶に残り、映画やテレビドラマ、漫画などの作品にもたびたび登場しています。解体から半世紀近く経った現在も、その跡地は市民の憩いの場として活用されつつ、かつての球場の記憶は語り継がれています。

施設概要

敷地面積: 34,321m²
グラウンド面積: 12,180m²
両翼: 90m
中堅: 120m
照明設備: 鉄塔6基
収容人員: 35,000人（公称）
* 交通アクセス: 常磐線南千住駅、東京メトロ日比谷線南千住駅・三ノ輪駅、都電荒川線荒川区役所前・三ノ輪橋停留場などが最寄りでした。

（※本文は提供情報を基に、読みやすさを考慮して再構成・記述したものです。数値データなどは当時の公称値や文献によるものです。）

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