東大紛争

東大紛争

東大紛争は、1968年から1969年にかけて東京大学で発生した大学紛争です。医学部におけるインターン制度廃止運動を契機に、大学運営の民主化を求める学生たちの運動が全学に拡大し、大学当局との間で激しい対立が繰り広げられました。

背景

1960年代後半、全国の医学部では、インターン制度の廃止と研修医の待遇改善を求める運動が活発化していました。東京大学医学部は、この運動の中心的な拠点の一つでした。1968年1月、医学部学生大会は、登録医制度導入阻止や附属病院の研修内容改善などを求め、無期限ストライキに突入しました。これにより、医学部は紛争状態に突入しました。

紛争の激化

1968年2月、学生と医局員の衝突事件が発生し、大学当局は学生・研修医17名を処分しました。しかし、その処分者の中に誤認の疑いが浮上し、学生側は処分撤回を求めました。大学側はこれに応じず、紛争は膠着状態に陥りました。

6月中旬には、一部の急進的な学生が自治会の統制を離れて安田講堂を占拠しました。これに対し、大学側は大河内一男総長の判断で警視庁機動隊を導入し、占拠学生を排除しました。この機動隊導入は、大学自治の放棄であるとして、多数の学生と教職員の反発を招き、紛争は全学に拡大しました。

1968年7月上旬には、各自治会執行部よりも急進的な一部の大学院生らによって安田講堂が再び占拠され、新左翼セクトも加わり、東大闘争全学共闘会議（全共闘）が結成されました。全共闘は、医学部処分撤回や機動隊導入の自己批判などを求める「七項目要求」を掲げ、学生の支持を集めました。

紛争の収束

大学当局は8月10日に七項目要求のうち6項目を受け入れる解決案を提示しましたが、全共闘はこれを拒否し、紛争は長期化しました。10月上旬には、全共闘主導で全学部自治会が無期限ストに入りました。

1968年秋に入ると、全共闘が「東大解体」を主張し、戦術を過激化させたことに加え、ストの長期化や民青系の巻き返しにより、学生の間で全共闘と民主化行動委員会（民青系）などのグループが対立を深めました。

大学側は1[[1月1日]]に大河内総長以下学部長全員が辞任し、加藤一郎を総長代行とする新執行部が発足しました。加藤代行は、学生側へ紛争解決のための全学集会開催を呼びかけ、七者協や民主化行動委がこれに応じました。各学部・院系から「統一代表団」を選出し、1969年1月10日、全学集会で加藤代行と統一代表団は「確認書」を取り交わしました。確認書は、医学部処分の白紙撤回や自治活動の自由化、今後の大学改革の方向性などを定めていました。

全学集会後、各学部・院系のストは相次いで解除されましたが、少数派となった全共闘は闘争継続を主張し、安田講堂等の占拠を続けました。大学側は、1969年1月18日から19日にかけて警視庁機動隊を導入し、安田講堂の封鎖解除と全共闘学生の大量検挙を行いました。これにより、全共闘は大きな打撃を受け、紛争は収束に向かいました。1969年度の東大入試は中止となりました。

東大紛争のその後

東大紛争では、767人が逮捕され、616人が起訴されました。一審判決で133人に実刑判決、400人超が執行猶予付き有罪判決、無罪判決12人となりました。

東大紛争は、日本の学生運動史上において重要な出来事であり、その後の大学運営や学生運動に大きな影響を与えました。この紛争を契機として、大学運営の民主化や学生自治の確立に向けた議論が活発化しました。

年表

1968年1月29日：東大医学部の学生がインターン制度に代わる登録医制度に反対し、無期限ストに突入。
1968年3月12日：医学部は、2月19日の医局長缶詰事件で17人の処分を発表。
1968年3月26日：処分された学生のうち1人につき、東大側の誤認の可能性があると教授懇談会で医学部講師2名が報告。
1968年3月28日：医学部全闘委の学生が安田講堂での卒業式実力阻止を図った為、大学側は卒業式を中止。
1968年4月12日：入学式強行。
1968年6月15日：医学部全闘委の学生が安田講堂を占拠。
1968年6月17日：大河内総長の要請で、警視庁機動隊1200人が同大学構内に出動し、学生らは退去。
1968年6月18日：全学闘争連合(全斗連)が結成。(大学院生を中心とした組織)
1968年6月20日：警察導入に抗議して、法学部を除く9学部が一斉に一日スト。1960年の安保闘争時以来初。
1968年6月26日：東大文学部無期限ストに突入。
1968年6月28日：大河内一男総長出席の安田講堂での「総長会見」。約3000人が参加し、溢れた2000人もの学生はテレビ中継した別の教室集会に参加という形式を採った。
1968年7月2日：反日共（反共産党）の日本の新左翼系の学生ら、250人が安田講堂をバリケードで封鎖。
1968年7月5日：東大闘争全学共闘会議（東大全共闘）結成（全共闘議長・山本義隆）。教養学部も無期限ストに突入。
1968年7月9日：テント村開設
1968年7月16日：全共闘、七項目要求確認。
1968年7月24日：東大全学助手共闘会議結成。
1968年8月10日：『8・10告示』といわれる大学側最終案が出されるが、一方的な告示という形式で成された事に反発を買う。
1968年8月28日：全学共闘会議の学生約200人が医学部本館を占拠。
1968年9月7日：病院封鎖反対を叫んで学外の民青同盟が行動。
1968年9月9日：医学部卒業試験が極秘で行われ、受験対象者の内過半数に満たない45名のみが受験。残り60名はボイコット。
1968年9月16日：本郷構内の5学部で学生大会、学部大会を開く。医学部の学部集会には教官、学生約1300人が参加。9月9日の試験は延期と提唱し、その試験を受験した45名はショックを受ける。
1968年9月18日：医学部緊急教授会で、卒業試験を一時延期、当分休講を発表。
1968年9月22日：全共闘の学生約250人が医学部附属病院外科系医局・研究棟にバリケードを築き、封鎖する。
1968年9月27日：医学部赤レンガ館封鎖。初の自主封鎖。
1968年10月12日：法学部無期限スト突入。開校以来初の10学部「無期限スト」
1968年10月18日：東大医学部神経内科の医局員15人全員が教授会に抗議し、25日以降スト終了まで一切の診察を有給者のみで行うと決議。無給医診療拒否。
1968年1[[1月1日]]：東大評議会で大河内一男総長の辞任を承認。紛争の発端となった医学部の豊川行平前医学部長、上田英雄前東大病院院長の東大教授退官を承認。10学部の当時の学部長全員も辞任。
1968年1[[1月4日]]：新学部長会議で加藤一郎法学部長を学長事務取扱（代行）に選出。文学部の法文2号館で文学部学生の処分を巡る「大衆団交」が始る。
1968年11月6日：林健太郎文学部長、岩崎、堀米両評議員の3人は禁足。成瀬助教授は疲労で退場。教授側は「不法監禁」と掲示。
1968年11月8日：100時間を超え、教官有志は「基本的人権の重大な侵害。大学を無法地帯とする愚挙。」と声明を発表。35名が署名。三島由紀夫、阿川弘之ら学者・文化人グループは「緊急の訴え」を出す。
1968年11月12日：林文学部長はドクターストップのため、173時間ぶりに解放。緊急入院をする。総合図書館前で全共闘と民主化行動委員会（民青系）（議長：三浦聡雄医学部生）が全学封鎖を巡り乱闘。
1968年1[[1月14日]]：法学生大会、全学封鎖反対決議。全共闘側の敗色が濃厚となる。
1968年1[[1月18日]]：全学集会で東大当局と全共闘との予備折衝物別れとなる。
1968年1[[1月19日]]：工学生大会、全学バリ封鎖反対可決。総長代行らと統一代表団準備会（日共系）との予備折衝。この頃から他大学の活動家が全共闘に参加するようになった。
1968年11月22日：「東大・日大闘争勝利全国学生総決起大会」開催。東大闘争の天王山、全学バリケード封鎖の強行の挫折。図書館封鎖。学生側は自主管理で駒場祭開催。
1968年12月29日：加藤学長代行と坂田道太文相が会談、「現状のままでは入試中止。1969年1月15日までにスト解除・授業再開の見通しが立てばその時点で再考」とすることで意見が一致した。文部省（当時）が、大学側の意向を無視し1969年度の東大入試中止を発表する。東京教育大学も体育学部を除く入試中止を決定。
1968年12月31日：大晦日の夜、解放講堂から「歓喜の頌歌」が時計台放送により同時放送される。
1969年1月1日：元旦の朝、教育学部・赤門周辺で民青同盟による「暁の大合唱」が催される。
1969年1月4日：加藤総長「非常事態」宣言。
1969年1月9日：全共闘、教育・経済学部の民青を攻撃。加藤総長の要請で機動隊が大学構内に入る。
1969年1月10日：秩父宮ラグビー場で7学部代表団と大学側の集会。十項目確認書作成。駒場共闘100人以上逮捕。
1969年1月14日：駒場共闘、駒場キャンパス第8本館に籠城。民青、一般学生、教官、機動隊と攻防。(21日撤収)
1969年1月15日：「全都労学決起集会」開催。
1969年1月16日：加藤総長が機動隊に本郷キャンパスのバリケード撤去を要請する。
1969年1月18日から翌19日にかけて、封鎖解除実行（安田講堂攻防戦）。東大内での逮捕者は600名以上。学生支援のため神田・本郷界隈で神田カルチェ・ラタン闘争発生。
1969年1月20日：東大当局が入試中止を受け入れる。
1969年3月3日：学生と学校側の団交中に佐藤重平がふざけた態度をしたとして、柏崎千枝子が佐藤を殴る。4月22日、監禁容疑で柏木は目黒署に逮捕される。

関連項目

全学共闘会議
東大安田講堂事件
林健太郎監禁事件
神田カルチェ・ラタン闘争
自治医科大学#沿革
造反有理 - 毛沢東思想
東大医学部紛争史
尾身茂

外部リンク

『東大紛争』 - 朝日新聞

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