東部戦線 (第一次世界大戦)

第一次世界大戦東部戦線

第一次世界大戦（1914年-1918年）において、中央ヨーロッパから東ヨーロッパにかけて展開された戦線を東部戦線と呼びます。西部戦線が塹壕戦で膠着したのに対し、東部戦線は終始、戦況が大きく変動しました。

開戦と初期の戦い（1914年）

1914年8月、ロシア軍はドイツ領東プロイセンとオーストリア領ガリツィアへ進攻を開始しました。

東プロイセン方面
ドイツ軍のシュリーフェン・プランはロシア軍の動員遅延を想定していましたが、実際にはロシア軍は迅速に動員を完了しました。ロシア軍は2個軍を投入して東プロイセンに侵攻しましたが、ドイツ軍はヒンデンブルク将軍の指揮下で、ロシア軍の連携の甘さを突き、各個撃破を狙いました。
タンネンベルクの戦い：ドイツ軍は、ロシア第2軍を包囲殲滅し大勝しました。一方、北方にいたロシア第1軍は第2軍を救援せず、その理由は「正面軍司令部の誤った状況判断と時機を逸した命令部署」によるものだとされています。この敗北により、ロシア軍は東プロイセンからの撤退を余儀なくされました。
第一次マズーリ湖攻勢：タンネンベルクの勝利後、ドイツ軍はロシア第1軍を殲滅しようとしましたが、ロシア軍は第2軍の二の舞を恐れて自国へ撤退しました。

東ガリツィア方面
オーストリア＝ハンガリー帝国軍は、ロシア軍の主力である第3軍、第8軍と激戦を繰り広げましたが、リヴィウ東方でロシア軍に押され、ガリツィアの首都レンベルク（リヴィウ）を放棄しました。
オーストリア軍はリヴィウ方面で攻勢に出ましたが、ロシア軍に包囲され敗退しました。ロシア軍はプシェムィシル要塞を包囲し、要塞に約5万の兵を残してオーストリア軍は退却しました。

ポーランド方面
ロシア軍はオーストリア軍主力を撃破し追撃しましたが、ドイツ軍はポーランド方面に兵力を集結させていました。
ロシア軍はガリツィア方面の諸軍を後退させ、ドイツ軍と激戦を繰り広げましたが、作戦は進展しませんでした。
ドイツ軍はウッチ付近でロシア軍を包囲しましたが、ロシア増援軍によりドイツ軍は逆に包囲され、戦線を突破し撤退しました。
ドイツ軍は11月下旬からロシア軍を攻撃して撃退しました。

戦局の推移（1915年）

マズーリ湖の戦い：ドイツ軍は東プロイセン奪還を計画し、ロシア第10軍を包囲しました。ロシア軍は9万以上の兵と火砲300門を失い、大敗を喫しました。

プシェムィシル包囲戦：ロシア軍による2度目の包囲の後、プシェムィシル要塞は4ヶ月後の3月22日に降伏しました。10万以上のオーストリア兵が捕虜となりました。

カルパティア方面：ドイツ・オーストリア軍はカルパティア山脈で攻勢を開始しましたが、ロシア軍は激しく抵抗し、プシェムィシル陥落によって浮いた兵力をカルパティア方面に転用して反撃しました。その後ドイツ・オーストリア軍は兵力を増強して攻勢に出ますが、失敗に終わりました。

ゴルリッツ＝タルヌフ攻勢：ドイツ軍は西部戦線から東部戦線へ兵力を転じ、精鋭10個師団を投入してロシア軍を攻撃しました。ロシア軍はサン川の線へ退却を余儀なくされ、大きな損害を被りました。ドイツ軍はプシェムィシル要塞を奪取し、リヴィウ付近のロシア軍を撃破しました。

ロシアの大撤退：ドイツ軍はワルシャワの背後に迫り、ロシア軍は全線をカウナス、フロドナ、ブレスト＝リトフスクの要塞線に後退させました。ワルシャワ、イヴァンゴロドの二要塞はドイツ軍によって占領されました。

膠着状態とロシア革命（1916年 - 1917年）

ブルシーロフ攻勢：ロシア軍は、連合軍の要請でドイツ軍への牽制攻撃を実施しました。ブルシーロフ将軍の指揮のもと、ガリツィアでオーストリア軍を破り大戦果を挙げましたが、ロシア軍の夏季攻勢は全体として成功とは言えませんでした。この攻勢はドイツ軍の予備兵力を拘束し、オーストリア軍のイタリア戦線での攻撃を一時的に牽制する効果がありました。しかし、ロシア軍の多大な損失は兵士の厭戦気分を高め、後の革命と瓦解を招いたとする意見もあります。

ルーマニアの参戦：ルーマニアはブルシーロフ攻勢の戦果に刺激され、協商国側で参戦しましたが、戦備不足によりドイツ軍の反撃に遭い首都ブカレストを占領されました。

二月革命：1917年3月、ロシアで二月革命が勃発し、臨時政府が成立しました。しかし、臨時政府は戦争継続を決定し、国民の不満が高まりました。

ケレンスキー攻勢：アレクサンドル・ケレンスキー陸海軍相が主導した攻勢作戦は、東ガリシアで一時的に独墺軍を破りましたが、兵士の厭戦気分により攻勢は頓挫しました。

コルニーロフ事件：ケレンスキーはブルシーロフを解任し、コルニーロフを据えましたが、コルニーロフは戦力温存を決定し、攻勢は中断しました。その後ドイツ軍はズロチョフで攻勢に出てロシア軍の前線を崩壊させました。

リガ攻勢：ドイツ軍はリガを占領し、ロシア軍に大損害を与えました。その後、リガ湾河口の諸島群を占領しました。

十月革命：10月、ケレンスキー政権が十月革命によりボリシェヴィキによって打倒されました。ソヴィエト政府は同盟軍との講和を急ぎました。

戦争の終結（1918年）

ブレスト＝リトフスク条約：1918年2月9日、反ボリシェヴィキのウクライナ人民共和国と中央同盟国の間でブレスト＝リトフスク条約が締結されました。2月18日、ドイツ軍はソビエト政府への攻勢を再開し、ミンスクを落としペトログラードにも迫りました。3月3日、ソビエト政府は中央同盟国との間でブレスト＝リトフスク条約を締結し、広大な領土を割譲しました。この条約によって、東部戦線は終結しました。

戦後

ルーマニアとブカレスト講和条約：ロシア革命の混乱の中、モルダヴィア民主共和国が独立を宣言し、ルーマニアに吸収されました。

ロシア内戦：ロマノフ家の処刑、レーニン暗殺未遂事件などが起こりロシア国内は混乱しました。

テッサロニキ休戦協定：9月29日、テッサロニキ休戦協定により、ブルガリアが中央同盟から離脱しました。

チェコスロバキアの成立：10月28日、チェコスロバキア共和国がオーストリア＝ハンガリー帝国から独立しました。

セルビアとルーマニアによる歴史的ヴォイヴォディナ分割：ヴォイヴォディナは、セルビアとルーマニアに分割されました。

ポーランド共和国の独立：11月11日、ポーランド共和国がロシア帝国から独立しました。

ハンガリー革命とハンガリー・ルーマニア戦争：ハンガリーは革命と国内の混乱により、ルーマニアに侵攻されブダペストが陥落しました。

東部戦線は、その終結後も各地に混乱と紛争を残し、その後の歴史に大きな影響を与えました。

参考文献

参謀本部編『千九百十五年「カルパーテン」山地ニ於ケル冬季作戦』偕行社、1918年
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参謀本部編『大局ヨリ見タル世界戦史((千九百十四年))』偕行社、1919年
参謀本部編『大局ヨリ見タル世界戦史((千九百十五年))』偕行社、1920年
参謀本部編『大局ヨリ見タル世界戦史((千九百十六年))』偕行社、1920年
参謀本部編『大局ヨリ見タル世界戦史((千九百十七年))』偕行社、1920年
参謀本部編『大局ヨリ見タル世界戦史((千九百十八年))』偕行社、1920年
参謀本部編『大戦間に於ける英仏露連合作戦』偕行社、1925年
ジョルジュ・カステラン、萩原直（翻訳）『ルーマニア史』白水社、1993年
リデル・ハート、上村達雄（翻訳）『第一次世界大戦〈上〉』中央公論新社、1970=1976年翻訳/2000年、ISBN 978-4120030864
リデル・ハート、上村達雄（翻訳）『第一次世界大戦〈下〉』中央公論新社、1970=1976年翻訳/2000年、ISBN 978-4120031007
歴史群像編集部『戦略・戦術・兵器詳解　図説・第一次世界大戦・下　1916-18 総力戦と新兵器』学習研究社、2008年、ISBN 9784056050516
Bruce Gudmundsson (1989). Stormtroop Tactics: Innovation in the Germany Army1914-1918. Praeger. ISBN 0275954013
Norman Stone (1975/1998). Eastern Front 1914-1917. Penguin Books. ISBN 0140267255
Nik Cornish (2006). The Russian Army and the First World War. Spellmount. ISBN 1862272883
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