松本電気鉄道ED40形電気機関車

松本電気鉄道ED40形電気機関車は、1965年に松本電気鉄道（現アルピコ交通）が新製した電気機関車です。後に岳南鉄道へ譲渡され、現在は岳南電車のED40形（2代目）として、その姿を見ることができます。

製造経緯

1950年代後半以降、首都圏への電力供給を安定させるため、東京電力は揚水発電所の建設地を求めていました。その結果、梓川水系上流が選ばれ、奈川渡ダム、水殿ダム、稲核ダムの3つのダムが建設されることになりました。これに伴い、大量の資材輸送が必要となり、道路事情から松本電鉄上高地線が利用されることになりました。

当時、松本電鉄には1926年製のED30形1両しかなく、輸送力不足が課題でした。そこで、松本電鉄は輸送力増強のため、線路施設の強化と合わせて、自重40t級の新型電気機関車を導入することを決定しました。こうして、1965年10月にED40 2号機が、翌1966年5月にはED40 3号機が日本車輌製造で製造されました。

形式の「40」は自重に由来しますが、ED40 1号機は欠番とされています。これは、車番の下一桁を既存のED30 1号機の続番としたためです。本形式は、日本車輌製造が戦後に製造した唯一の地方私鉄向け電気機関車であり、戦前は東洋電機製造と組んで多くの機関車を製造していた同社にとって、特筆すべき存在です。

車体

車体は、国鉄の新型電気機関車であるED60形の影響を受けた丸みを帯びたデザインで、全溶接構造の鋼製です。側面に乗務員扉はなく、車体両端のデッキから妻面中央の乗務員室扉を通って出入りする、旧型電機と同様のレイアウトを採用しています。前面は、大小2枚の平面ガラスを組み合わせたパノラミックウィンドウ風のデザインで、両側面に引き違い式の窓が設けられています。

雪国での使用を考慮し、前面窓にはデフロスターが、床下にはスノープラウが設置されています。一方、車体中央の機器室側面には、明かり取り用の大型窓が等間隔に3箇所、その間にルーバーによる通風口が2箇所設けられています。前照灯は、乗務員室扉の真上に、砲弾形の灯具ケースを屋根に半埋め込み式で設置し、白熱電球が1灯搭載されています。標識灯は、妻面左右の腰板部に1灯ずつ配置されています。

塗装は茶色（ぶどう色1号）一色で、当時の国鉄機と同様に、妻窓から乗務員室側窓にかけてステンレスの飾り帯を巻き、その下に形式番号を表示しています。

主要機器

上高地線の架線電圧は直流750Vですが、本形式は直流1500Vの電化区間でも使用できるよう、電装品は複電圧仕様で設計されています。主要機器は、車体だけでなく電装品や台車まで、すべて日本車輌製造で設計・製作されました。制御装置は、電空単位スイッチ式の日本車輌製造NC-620を採用し、重量貨物列車牽引を考慮して重連総括制御に対応しています。

主電動機は、日本車輌製造NE-128（定格出力128kW）を1両あたり4基搭載し、吊りかけ式で駆動します。歯車比は4.56（73:16）で、これにより定格速度は31.0km/h、定格引張力は5,900kgfとなり、既存のED301と比較して約2倍の牽引力を実現しました。台車は、プレス材全溶接構造の軸バネ式台車である日本車輌製造NL-12を使用し、動輪径は910mmです。

制動装置は、自動空気ブレーキのEL14ASを採用し、重連総括制御を行うために端梁部に釣り合い管と元空気溜管を引き通し、ブレーキホースも装備しています。集電装置は、菱形パンタグラフを2基搭載しています。

運用

新製後、本形式はダム建設資材輸送用貨物列車の牽引に充当され、1967年には上高地線で史上最大の年間25万トンの貨物輸送量を記録しました。しかし、ダム建設完了後の1969年には、本来の用途を失いました。

その後、より強力な電気機関車を探していた岳南鉄道が1971年に2両とも譲り受け、翌1972年1月に導入されました。松本電鉄在籍時の原形式・原番号のまま使用され、岳南鉄道では2代目のED40形となりました。上高地線は直流750V、岳南線は直流1500Vと規格が異なりましたが、本形式は複電圧回路を備えていたため、切り替えだけで対応できました。

岳南鉄道では重連運転は行わず、単独で使用されたため、重連用装備の一部が撤去されました。塗装は、落成当初から岳南鉄道譲渡後までぶどう色1号でしたが、ED40 3号機は後に日本大昭和板紙のコーポレートカラーに変更され、クリームと赤のツートンカラーで異彩を放っていました。

2012年3月16日に岳南鉄道の貨物輸送が終了したため、本形式は用途を失い休車となりました。ED40 3号機は、貨物輸送廃止直前に電動発電機が故障したため、2015年3月31日付で廃車となりました。

運用離脱後は2両とも岳南富士岡駅構内に留置され、ED40 3号機は購入者募集も行われましたが、売却には至らず、最終的に自社内で保存されることになりました。その後、保存に向けて整備が進められ、ED40 3号機はクリームと赤のツートンカラーに復元されました。2021年8月21日には、岳南富士岡駅構内の「がくてつ機関車ひろば」にてED40 2号機と3号機が並んで展示されています。

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