松村介石
松村介石（まつむら かいせき、本名読み：すけいし）は、安政6年（1859年）に生まれ、昭和14年（1939年）に没した、近代日本を代表する宗教指導者・思想家の一人です。プロテスタントの流れを汲む新宗教「道会」を創設し、その独自の教えを通して多くの人々に影響を与えました。植村正久、内村鑑三、田村直臣らと共に、当時のキリスト教界を牽引した「四村」として広く知られています。一時、養家の姓である森本を名乗った他、市谷隠士、足堂などの別名もありました。昆虫学者の松村松年は実兄、画家の橋本関雪はいとこの子にあたります。
安政6年（1859年）、播磨国明石藩の武士の家庭に生まれた介石は、厳格な武士である父や祖父が漢学者でもあったため、幼い頃から『大学』『中庸』など中国古典に親しみ、儒教的な素養を培いました。明治3年（1870年）、11歳で上京し、著名な儒学者である安井息軒の塾に入門しますが、半年ほどで帰郷します。
キリスト教との出会いは明治7年（1874年）、15歳の時に神戸でアメリカン・ボードの宣教師J.L.アトキンソンに聖書を学んだことに始まります。さらに明治9年（1876年）、横浜に移り、米国オランダ改革派教会の宣教師ジェームス・バラの門を叩き、その教えを通してキリスト教へと導かれました。翌明治10年（1877年）には住吉町教会で洗礼を受け、クリスチャンとなります。1882年頃には神経衰弱に苦しみますが、この経験を経て生涯を伝道に捧げることを誓います。築地大学校の舎監を務める傍ら、築地の東京一致神学校で神学を修めましたが、外国人宣教師との意見の相違から退学に至り、師であるバラとも袂を分かつことになります。
神学校退学後、明治15年（1882年）には日本組合基督教会高梁教会の牧師に就任。翌明治16年（1883年）には沢山保羅から按手礼を受け、正式な牧師となりました。牧師時代の明治18年（1885年）、大阪一致教会の牧師から王陽明の思想に出会い、特に『啾啾吟』に深く感銘を受け、以降その思想に傾倒していきました。
明治20年（1887年）からは東京で『基督教新聞』、後に『福音新報』の主筆を務めます。この頃、自由主義神学の影響を受け、正統派神学の立場を取る『基督教新聞』に留まることが難しくなり、主筆を辞任しました。
新聞記者を辞した同年、押川方義の推薦で山形英学校の教頭となり、さらに加藤勝弥に招かれて北越学館の教頭（内村鑑三の後任）に就任するなど、教育の分野でも活躍しました。明治22年（1889年）には北越学館での教育経験をもとに、代表作となる『立志之礎』を刊行。その後、キリスト教青年会館（YMCA）の講師を5年間務めました。これらの教育者・思想家としての活動を通じ、植村正久、内村鑑三、田村直臣らと共に、明治キリスト教界における「四村」の一人として知られるようになりました。
明治32年（1899年）の暮れからは鎌倉に移り住み、本格的な著述活動を開始します。ここで執筆された『修養録』は、日本で最初の「修養読本」とされ、当時の青年層に広く読まれ、自己啓発書としても大きな影響を与えました。
明治38年（1905年）、自己の生涯を純粋な宗教的探求に捧げることを決意します。明治40年（1907年）には政治家の渡辺国武らの支援を得て、新たに「一心会」という集まりを開きました。これは、キリスト教の高等批評や、古今東西の宗教・歴史研究の結果、「道は一なり、すべての宗教道徳の根本義は、信神、修徳、愛隣、永生の四綱領に帰する」との確信に至り、来るべき時代を見据え、特定の枠にとらわれず万人が受け入れられる普遍的な宗教を目指したものでした。キリスト教を基盤としながらも、神道、儒教、老荘思想、仏教といった東洋思想をも包含した独自の教えを説き、自らはこれを「儒教的キリスト教」と称しました。
その後、「日本教会」と改称し、キリスト教の一新派として活動を展開。明治40年（1907年）にはユニテリアンの村井知至が協力を始め、明治41年（1908年）には現在も続く機関誌『道』を創刊します。続いて、政界、教育界、宗教界、実業界から様々な人材を集めて「道友会」を結成しました。明治42年（1909年）からは、伝統的な洗礼に代えて、宣誓と署名捺印を入会儀式とするなど、独自の形式を取り入れていきました。
明治45年（1912年）には「日本教会」を「道会」と改称し、大倉孫兵衛、森村市左衛門といった財界人の援助も受けながら伝道活動を進めます。大正4年（1915年）、関東大震災後には鍋島直映侯爵の斡旋もあり、東京渋谷の神山町に土地を購入し、道会本部事務所を新築・移転しました。この敷地内には礼拝施設である拝天堂も建設され、翌大正5年（1916年）に竣工。多くの青年知識人が会員となりました。さらに翌大正6年（1917年）には献堂式が行われると共に、青年・学生向けの寄宿舎「神山寮」も新築され、活動の拠点となりました。
晩年、昭和11年（1936年）に肺炎を患ったことを機に、会長職を辞して顧問となります。昭和14年（1939年）11月29日、動脈硬化のため80歳で逝去しました。墓所は東京都府中市の多磨霊園にあります。
介石は、幼少期から培われた四書五経をはじめとする漢籍に深く通じ、特に王陽明などの心学に傾倒しました。また、漢詩にも造詣が深く、自ら詩吟を愛好し、門下からは近世吟詠中興の祖とされる山田積善を輩出しています。著書に『道会詩集』などがあります。
晩年まで内村鑑三とは無教会派の同志として交流があり、二人の間で交わされた詩のやり取りは、その思想の一端をうかがわせるエピソードとして知られています。大川周明が道会に入会した際には、歴史書『列聖伝』の執筆・出版を依頼するなど、様々な分野の人物との関わりを持ちました。
主な著書には、『立志之礎』（1889年）、『修養録』（1899年）、『不朽の道』（1908年）、『新宗教』（1925年）などがあります。
安政6年（1859年）、播磨国明石藩の武士の家庭に生まれた介石は、厳格な武士である父や祖父が漢学者でもあったため、幼い頃から『大学』『中庸』など中国古典に親しみ、儒教的な素養を培いました。明治3年（1870年）、11歳で上京し、著名な儒学者である安井息軒の塾に入門しますが、半年ほどで帰郷します。
キリスト教との出会いは明治7年（1874年）、15歳の時に神戸でアメリカン・ボードの宣教師J.L.アトキンソンに聖書を学んだことに始まります。さらに明治9年（1876年）、横浜に移り、米国オランダ改革派教会の宣教師ジェームス・バラの門を叩き、その教えを通してキリスト教へと導かれました。翌明治10年（1877年）には住吉町教会で洗礼を受け、クリスチャンとなります。1882年頃には神経衰弱に苦しみますが、この経験を経て生涯を伝道に捧げることを誓います。築地大学校の舎監を務める傍ら、築地の東京一致神学校で神学を修めましたが、外国人宣教師との意見の相違から退学に至り、師であるバラとも袂を分かつことになります。
神学校退学後、明治15年（1882年）には日本組合基督教会高梁教会の牧師に就任。翌明治16年（1883年）には沢山保羅から按手礼を受け、正式な牧師となりました。牧師時代の明治18年（1885年）、大阪一致教会の牧師から王陽明の思想に出会い、特に『啾啾吟』に深く感銘を受け、以降その思想に傾倒していきました。
明治20年（1887年）からは東京で『基督教新聞』、後に『福音新報』の主筆を務めます。この頃、自由主義神学の影響を受け、正統派神学の立場を取る『基督教新聞』に留まることが難しくなり、主筆を辞任しました。
新聞記者を辞した同年、押川方義の推薦で山形英学校の教頭となり、さらに加藤勝弥に招かれて北越学館の教頭（内村鑑三の後任）に就任するなど、教育の分野でも活躍しました。明治22年（1889年）には北越学館での教育経験をもとに、代表作となる『立志之礎』を刊行。その後、キリスト教青年会館（YMCA）の講師を5年間務めました。これらの教育者・思想家としての活動を通じ、植村正久、内村鑑三、田村直臣らと共に、明治キリスト教界における「四村」の一人として知られるようになりました。
明治32年（1899年）の暮れからは鎌倉に移り住み、本格的な著述活動を開始します。ここで執筆された『修養録』は、日本で最初の「修養読本」とされ、当時の青年層に広く読まれ、自己啓発書としても大きな影響を与えました。
明治38年（1905年）、自己の生涯を純粋な宗教的探求に捧げることを決意します。明治40年（1907年）には政治家の渡辺国武らの支援を得て、新たに「一心会」という集まりを開きました。これは、キリスト教の高等批評や、古今東西の宗教・歴史研究の結果、「道は一なり、すべての宗教道徳の根本義は、信神、修徳、愛隣、永生の四綱領に帰する」との確信に至り、来るべき時代を見据え、特定の枠にとらわれず万人が受け入れられる普遍的な宗教を目指したものでした。キリスト教を基盤としながらも、神道、儒教、老荘思想、仏教といった東洋思想をも包含した独自の教えを説き、自らはこれを「儒教的キリスト教」と称しました。
その後、「日本教会」と改称し、キリスト教の一新派として活動を展開。明治40年（1907年）にはユニテリアンの村井知至が協力を始め、明治41年（1908年）には現在も続く機関誌『道』を創刊します。続いて、政界、教育界、宗教界、実業界から様々な人材を集めて「道友会」を結成しました。明治42年（1909年）からは、伝統的な洗礼に代えて、宣誓と署名捺印を入会儀式とするなど、独自の形式を取り入れていきました。
明治45年（1912年）には「日本教会」を「道会」と改称し、大倉孫兵衛、森村市左衛門といった財界人の援助も受けながら伝道活動を進めます。大正4年（1915年）、関東大震災後には鍋島直映侯爵の斡旋もあり、東京渋谷の神山町に土地を購入し、道会本部事務所を新築・移転しました。この敷地内には礼拝施設である拝天堂も建設され、翌大正5年（1916年）に竣工。多くの青年知識人が会員となりました。さらに翌大正6年（1917年）には献堂式が行われると共に、青年・学生向けの寄宿舎「神山寮」も新築され、活動の拠点となりました。
晩年、昭和11年（1936年）に肺炎を患ったことを機に、会長職を辞して顧問となります。昭和14年（1939年）11月29日、動脈硬化のため80歳で逝去しました。墓所は東京都府中市の多磨霊園にあります。
介石は、幼少期から培われた四書五経をはじめとする漢籍に深く通じ、特に王陽明などの心学に傾倒しました。また、漢詩にも造詣が深く、自ら詩吟を愛好し、門下からは近世吟詠中興の祖とされる山田積善を輩出しています。著書に『道会詩集』などがあります。
晩年まで内村鑑三とは無教会派の同志として交流があり、二人の間で交わされた詩のやり取りは、その思想の一端をうかがわせるエピソードとして知られています。大川周明が道会に入会した際には、歴史書『列聖伝』の執筆・出版を依頼するなど、様々な分野の人物との関わりを持ちました。
主な著書には、『立志之礎』（1889年）、『修養録』（1899年）、『不朽の道』（1908年）、『新宗教』（1925年）などがあります。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。