枕石寺

枕石寺（ちんせきじ）

枕石寺は、茨城県常陸太田市上河合町に位置する真宗大谷派の寺院です。大門山伝灯院と号し、真宗二十四輩第15番である入西房道円が開基した由緒ある寺院として知られています。寺に伝わる「紺紙金泥三部妙典」は、常陸太田市の指定文化財となっており、その歴史的価値を物語っています。周辺は「梵天山古墳群と枕石寺」として茨城百景にも選定され、豊かな自然と歴史が調和した景観を楽しむことができます。

概要

枕石寺は、1212年（建暦2年）に入西房道円によって、常陸国久慈郡大門村（現在の常陸太田市下大門町）に創建されました。寺伝によれば、親鸞が雪の中で石を枕にしたという「親鸞雪中枕石」の故事が創建の由来となっており、この縁起は倉田百三の戯曲『出家とその弟子』によって広く知られるようになりました。

その後、枕石寺は内田村（現在の同市内田町）を経て、1540年（天文9年）に現在の地である上河合村に移転しました。内田村時代には内田山と号していましたが、徳川光圀によって「大門山傳燈院」の山号・院号が与えられ、本尊の阿弥陀如来像も光圀から寄贈されたと伝えられています。

境内には、常陸太田市指定文化財である「紺紙金泥三部妙典」のほか、親鸞が雪中で枕にしたと伝わる「枕石」、親鸞直筆とされる「六字名号」、道円筆とされる「二十四輩仁法の絵像」など、貴重な寺宝が数多く所蔵されています。また、境内はツツジやカエデなどの自然に囲まれ、四季折々の美しい景観を楽しむことができます。

歴史

創建縁起

寺伝によれば、枕石寺の創建には次のような縁起があります。

近江国出身の日野左衛門尉頼秋は、北面武士でしたが、その驕慢な振る舞いから常陸国に配流されました。その後、赦免されるも京には戻らず、久慈郡大門に留まりました。1212年（建暦2年）、親鸞が弟子とともに大門郷を訪れた際、頼秋に宿を断られ、門前で石を枕に一夜を明かしました。その夜、頼秋の夢に千手観音が現れ、親鸞をもてなすよう諭しました。驚いた頼秋は親鸞を迎え入れ、教えを受け、弟子となり入西房道円という法名を与えられました。道円は自身の居宅を寺とし、親鸞が石を枕にした故事にちなんで「枕石寺」と名付けたと伝えられています。

この伝説は、倉田百三の戯曲『出家とその弟子』によって広く知られるようになりましたが、親鸞が常陸国にいた時期との矛盾も指摘されています。しかし、親鸞と頼秋が同族であったことや、当時の大門が不便な地であったことなどから、親鸞が頼秋を訪ねた可能性も考えられています。

創建後

道円は、創建から21年後の1232年（貞永元年）に内田村に移り、山号を内田山としました。1245年（寛元3年）に道円が没すると、寺は唯円（日野頼俊）が相続しました。枕石寺の系図では、親鸞を開山第一世、道円を二世、唯円を三世としています。

内田村時代の枕石寺は、里川の河川敷にあったため、たびたび洪水に見舞われました。そのため、1540年（天文9年）に現在の地である上河合に移転しました。1673年（延宝元年）には、徳川光圀が親鸞作とされる阿弥陀如来像を寄進し、本尊となりました。光圀は、1678年（延宝6年）には山号を「大門山」、院号を「傳燈院」に改めさせ、本堂の額を贈っています。堂宇は1829年（文政12年）に焼失しましたが、1843年（天保14年）に再建されました。

境内・周辺

枕石寺の門は、内田への移転時に道円が自ら建てたものと伝えられ、現存する旧跡寺院の門の中でも最も古いものの一つとされています。境内には、オハツキイチョウやサルスベリなどの木々があり、特に前庭のツツジやカエデが美しい景観を作り出しています。また、本堂の正面右手には「親鸞聖人雪中枕石の聖跡」の石碑が建てられています。

枕石寺周辺は、「梵天山古墳群と枕石寺」として茨城百景に選定されており、親鸞ゆかりの寺院として、現在も多くの参拝者が訪れています。

文化財

常陸太田市指定文化財

紺紙金泥三部妙典: 無量寿経、観無量寿経、阿弥陀経の3部からなる写経。元々は巻子本でしたが、現在は各巻16枚のまくりとなっています。1232年（貞永元年）に唯円が書いたとされていますが、詳細は不明です。

寺宝

枕石（親鸞雪中枕石）: 親鸞が枕にしたと伝わる石。年に一度、11月26日にのみ公開されます。
六字名号: 親鸞直筆と伝わる。
二十四輩仁法の絵像: 道円筆とされる。

所在地・アクセス

所在地: 茨城県常陸太田市上河合町1102-1
交通: JR水郡線河合駅から徒歩10分

上大門の枕石寺

常陸太田市には、上大門町にも枕石寺跡が存在します。こちらは上河合の枕石寺とは別に、1293年（永仁元年）に常福寺の常光（定光）和尚が開山したと伝えられる浄土宗の寺院跡です。1843年（天保14年）に廃寺となりました。

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