根北線

根北線（こんぽくせん）

根北線は、かつて日本国有鉄道（国鉄）が北海道東部、現在の斜里郡斜里町内に敷設・運営していた鉄道路線です。斜里駅（現在の知床斜里駅）から越川駅までの短い区間を結んでいました。線名の「根北」は、計画された路線の範囲が根室国と北見国にまたがっていたことに由来します。しかし、実際に列車が走ったのはわずか12.8kmに過ぎず、その歴史は短いものでした。1957年11月10日に開業しましたが、わずか13年後の1970年12月1日には、国鉄の経営合理化策であるいわゆる「赤字83線」の一つとして全線が廃止されました。

計画と未成区間

根北線は、1922年に公布された改正鉄道敷設法別表に規定された「根室國厚床付近ヨリ標津ヲ經テ北見國斜里ニ至ル鐡道」という壮大な計画路線の一部を構成していました。この計画線は、斜里駅から根室標津駅に至る全長およそ57kmに及ぶ区間を指し、既に開業していた標津線（厚床〜根室標津、1989年廃止）と連携することで、オホーツク海側と根室海峡側を結ぶ役割が期待されていました。

しかし、建設は太平洋戦争の開戦によって中断されるなど難航し、最終的に完成・開業したのは斜里駅〜越川駅間の12.8kmのみに留まりました。越川から先の未成区間についても一部で建設が進められ、特に越川橋梁（第一幾品川橋梁）など、現在でも当時の土木構造物が遺構として残されています。

未成区間の建設は、戦後、1964年に発足した日本鉄道建設公団に引き継がれ、越川〜上越川間や根室標津側の区間の一部で用地取得や路盤整備が行われましたが、工事実施計画が認可されることはありませんでした。開業区間が廃止された後も、未成区間は公団の建設線として残存していましたが、1987年の鉄道敷設法廃止に伴い、ついに計画そのものが消滅しました。

開業区間の概要と歴史

廃止時の根北線の路線データは以下の通りです。

• - 路線距離（営業キロ）：斜里駅 - 越川駅間 12.8 km
• - 軌間：1,067 mm
• - 駅数：7駅（起終点駅・仮乗降場含む）
• - 複線区間：なし（全線単線）
• - 電化区間：なし（全線非電化）
• - 閉塞方式：スタフ閉塞式
• - 交換可能駅：なし

全線が北海道斜里郡斜里町内に位置し、駅は斜里、以久科、西二線、下越川、十四号、十六号、越川でした（以久科、西二線、十四号、十六号は仮乗降場）。

建設は1937年に始まりましたが、戦争で中断・軌条撤去を経て、1952年に再開されました。そして1957年11月10日に悲願の開業を迎えます。開業当初は旅客列車4往復と貨物列車1往復が運行されていました。しかし、開業からわずか3年後の1960年7月25日には早くも全線で貨物営業が休止されるなど、需要の低迷が明らかになり始めました。1962年には経営合理化のため、全区間の管理業務が斜里駅に集約されました。

廃止への経緯と要因

経営状況の悪化は続き、1968年9月4日には国鉄の赤字ローカル線整理対象である「赤字83線」の一つに挙げられました。廃止勧告を受け、地元の斜里町議会は1970年8月に廃止受け入れを決定。同年10月15日に運輸大臣の許可が下り、12月1日をもって根北線は全線廃止となりました。廃止直前のダイヤでは、旅客列車はわずか1日2往復のみとなっていました。

根北線がわずか13年で廃止に至った背景には、複合的な要因がありました。

• - 地理的・技術的な課題: 路線の約16パーセントが20パーミル以上の急勾配を含むなど線路規格が悪く、速度が出せませんでした。斜里〜越川間12.8kmの所要時間は24分で、気動車の速度は約32km/hが限界でした。貨物列車も牽引定数が230トンに制限されるなど輸送力に限界がありました。
• - 競合交通機関の優位: 並行する国道244号線が既に全通しており、斜里バスが1日5往復のバス路線を運行していました。バスは所要時間も鉄道と大差なく（約27分）、鉄道の2倍の利用客を集めており、道路整備によるさらなる時間短縮も見込まれていました。また、沿線の自家用車普及率も当時の北海道平均を大きく上回っていました。
• - 沿線人口の減少と貨物需要の喪失: 開業直後の1960年に約2300人だった沿線人口は、末期には約1785人へと2割強減少していました。また、延伸予定区間も人口が極めて希薄な山岳地帯でした。主要な貨物であったテンサイ輸送はトラックへ転換し、木材輸送も資源枯渇で早期に休止されるなど、貨物需要がほぼなくなっていました。

これらの要因が重なり、根北線の経営状況は極めて悪化しました。営業最終年度（1970年度）の収支は、収入に対する支出の割合を示す収支係数が2,039という高い数値を示し、国鉄全線の中でもワースト5位、北海道内では最悪の赤字路線となっていました。

廃止後の状況

根北線の廃止後、斜里バスが代替路線を運行しましたが、沿線人口の減少が続き、路線は短縮・減便され、最終的には2004年に廃止となりました。

かつての路盤や駅跡は、大部分が畑地や自然に還っており、遺構を発見することは困難です。以久科駅舎も1998年頃に解体されています。

しかし、越川橋梁は現在も残る根北線最大の遺構です。この橋梁は、実際に列車が走った開業区間ではなく、その先の未成線区間に建設されたため、地元では「渡らずの橋」と呼ばれています。1998年には国の登録有形文化財に登録されましたが、1973年には国道改良工事によって一部の橋脚が撤去されるなど、建設当時の完全な形ではないものの、幻に終わった計画の一部を今に伝えています。

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