楊度

楊度（よう ど）：変転の人生を歩んだ政治家・思想家

楊度は、清朝末期から中華民国初期にかけて活躍した政治家、学者です。彼は、保皇派のイデオローグとして頭角を現し、袁世凱の中華帝国建国を支えた一方で、晩年には中国共産党に入党するという、激動の時代を象徴する人物です。その波乱に満ちた生涯と、複雑な思想遍歴を詳しく見ていきましょう。

保皇派のイデオローグとして

楊度は、1875年に湖南省で生まれました。若い頃から学問に励み、1894年には郷試に合格しますが、翌年の会試では落第します。その後、国学大師である王闓運に師事し、学識を深めます。

1902年、楊度は日本に留学し、弘文学院で学びます。留学中には、月刊誌『遊学訳編』を編集し、西洋の政治学を中国の留学生に紹介しました。帰国後、経済特科試験で優秀な成績を収めますが、康有為・梁啓超の一派と疑われ、再び日本へ渡ります。1904年には法政大学速成科に入学し、中国留日学生総会館幹事長を務めました。

1905年、楊度は孫文と対面し、中国同盟会への加入を勧められますが、立憲君主制を支持していたため、これを辞退しました。しかし、黄興を孫文に紹介するなど、革命派との交流も持ちました。

その後、楊度は熊希齢の依頼で憲政に関する論文を執筆し、五大臣の海外視察に同行しました。1907年には『中国新報』を創刊し、「金鉄主義」という論文で保皇派の立場を明確にしました。また、憲政講習会を組織し、国会速開論を提唱するなど、立憲運動を積極的に展開しました。

袁世凱の腹心として

1908年、楊度は湖南華昌煉鉱公司の董事長に就任しました。その後、袁世凱の推薦により、憲政編査館提調に任ぜられ、憲法策定に携わります。この頃から、楊度は袁世凱の腹心として活動するようになります。

1911年の武昌起義の際には、袁世凱に革命派鎮圧を拒否するよう進言し、袁世凱もこれを受け入れました。慶親王内閣では統計局長、袁世凱内閣では学部副大臣に任ぜられました。また、汪兆銘と共に国事共済会を立ち上げ、南北和議と政治体制の議論を進めました。

中華民国成立後、楊度は袁世凱から勲章を授与され、総統府の要職を歴任しました。しかし、政党政治を望まず、黄興からの国民党入党の誘いを拒否しました。

籌安会を組織し、袁世凱の皇帝即位を画策

1915年、楊度は袁世凱の皇帝即位運動を開始します。彼は籌安会を組織し、「君憲救国論」を発表して、皇帝制を正当化しました。また、全国各地の請願団体を組織し、袁世凱の皇帝即位を推し進めました。

しかし、梁啓超や蔡鍔らの反発を招き、護国戦争が勃発します。国内世論も護国軍を支持し、袁世凱は皇帝即位を取り消さざるを得なくなりました。失意のうちに病没した袁世凱の死後、楊度は皇帝即位をそそのかしたとして指名手配され、天津の租界に逃亡しました。

中国共産党への入党

張勲復辟には参加せず、禅宗の研究に励んだ楊度は、次第に立憲君主制の限界を悟り、思想を転換させます。1918年に指名手配が解除されると、政治活動を再開し、立憲君主制の放棄を宣言しました。

その後、孫文と親交を結び、1922年には中国国民党に入党しました。北京政府への工作活動を行う傍ら、奉天派の軍人・姜登選の参賛も務めました。

1928年に上海へ移住し、画家として生計を立てる傍ら、マルクス主義にも傾倒し始めます。そして、中国共産党の潘漢年の紹介と周恩来の批准を経て、正式に共産党に入党しました。中国革命共済会や中国社会科学家聯盟にも参加し、革命運動を支援しました。

1931年、過労が原因で上海で病没しました。享年57歳でした。

まとめ

楊度は、その生涯において、保皇派、袁世凱の腹心、そして共産党員という、大きく異なる立場を経験しました。彼の変転に富んだ人生は、激動の中国近代史を映し出す鏡と言えるでしょう。彼は、常に国家のあり方を模索し、時代に合わせて自らの思想を変えていく柔軟性も持ち合わせていました。その複雑な思想遍歴と波乱に満ちた生涯は、現在でも多くの研究者や歴史愛好家の関心を集めています。

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