楚 (張邦昌)

楚（大楚）とは

楚（そ）、または大楚（たいそ）は、12世紀に靖康の変後、金朝が中原を支配するために設けた漢人の傀儡政権です。しかし、その政権は民衆からの支持を得られず、短期間で瓦解しました。

歴史的背景

北宋の首都、汴梁（べんりょう、現在の河南省開封市）が金軍によって包囲されると、太宰兼門下侍郎であった張邦昌（ちょうほうしょう）は、金朝への領土割譲を主張しました。しかし、李綱（りこう）や种師道（ちゅうしどう）らの主戦派からは「社稷の賊」として弾劾され、罷免されました。

中原を制圧した金朝は、宋の趙氏に代わる漢人皇帝として、金朝に友好的な張邦昌を擁立しようとしました。当初、張邦昌は皇帝への即位を拒否しましたが、金の太宗呉乞買（ウキマイ）からの圧力のもと、靖康2年3月7日（1127年4月20日）に即位し、名目上の首都を金陵（きんりょう、現在の江蘇省南京市）に定めました。

張邦昌の即位と政策

張邦昌は即位時、「嗣位した」と称し、城内に大赦を行いました。また、自身を擁立した臣下の官爵を進め、軍民に褒賞を与えました。しかし、金の汴梁支配が限定的であることを認識していた張邦昌は、金の使者が訪れる時のみ龍袍（皇帝の衣装）を着用し、玉座にも座りませんでした。彼は宋の歴代皇帝の太廟にある位牌をそのままにし、「靖康」の元号を引き続き用いるなど、宋への忠義を示しました。また、自らが任命した役職には「権」の字を加え、代理であることを明確にしました。

楚の瓦解と南宋の成立

金軍が北へ撤退すると、靖康2年4月5日（1127年5月17日）に、哲宗の皇后であった孟氏（元祐皇后）を宋太后として延福宮に迎えました。そして、4月11日（5月23日）には自ら帝号を取り下げ、宋太后による垂簾聴政（すいれんちょうせい）を開始し、済州にいた康王趙構（こうおう ちょうこう）に帰順しました。張邦昌が皇帝として在位したのは、わずか33日間でした。

その後、南へ逃れた康王は、江南の北宋残存勢力を糾合し、南京応天府（現在の河南省商丘市）で高宗（こうそう）として皇帝に即位し、宋朝を再興しました（南宋）。

参考文献

梅村坦「第2部 中央ユーラシアのエネルギー」『世界の歴史7 宋と中央ユーラシア』中央公論新社〈中公文庫〉、2008年6月。ISBN 978-4-12-204997-0。 
駒田信二、常石茂、稲田孝、村松暎、立間祥介、後藤基巳、野口定男『新十八史略〈6〉草原の英雄の巻』河出書房新社、1997年9月18日。ISBN 978-4309609966。 
佐伯富 著「金国の侵入/宋の南渡」、宮崎市定 編『世界の歴史6 宋と元』中央公論社〈中公文庫〉、1975年1月。 
宮崎市定『中国史（下）』岩波書店〈岩波文庫〉、2015年6月。ISBN 978-4-00-331334-3。 
李継興『你所不知道的帝王』崧博出版事業有限公司、2017年12月13日。ISBN 978-9864926060。

関連項目

靖康の変

もう一度検索