楚勇

楚勇：太平天国の乱における湖南の郷勇

楚勇（そゆう）は、19世紀中頃の太平天国の乱の時期に、湖南省で組織された郷勇です。楚軍、宝勇とも呼ばれます。この郷勇は、地域の治安維持と反乱鎮圧のために、地元出身者によって組織されました。

創設の背景

1847年、ヤオ族の雷再浩が青蓮教徒を率いて崀山で蜂起し、官軍を打ち破ったことがきっかけとなり、新寧知県の李博と挙人の江忠源が数千人の団練を組織し、各村の防衛にあたりました。1849年には李沅発が蜂起した際、新寧抜貢の劉長佑と廩生の劉坤一が団練を組織しました。これらの動きが楚勇の起源となりました。

1852年、太平天国軍が桂林への攻撃を開始した際、劉長佑は故郷に戻って維新書院で講学を行っていましたが、江忠源の要請を受け、共に戦いに赴くことになりました。この時、彼らの部隊が正式に「楚勇」と名乗るようになったのです。

蓑衣渡の戦い

楚勇は桂林城で太平天国軍を打ち破ることに成功し、その勢力を大きく高めました。太平天国軍が全州に転進し、筏で湘江を下って長沙を奪取しようとした際、江忠源は劉長佑の計を用いて、蓑衣渡に陣を張り、河中に杭を立てました。太平天国軍が蓑衣渡に差し掛かると、筏は水中の杭に当たり破壊され、さらに楚勇が火を放ちました。この二日間にわたる激戦の結果、太平天国の南王馮雲山が戦死し、楚勇は大きな勝利を収めました。蓑衣渡での勝利は、楚勇の名声を一気に高めることとなりました。

長沙の戦い

1852年8月、江忠源と劉長佑は5百名の精鋭を選抜し、湘江を下って長沙城の北に駐屯しました。劉長佑は長沙で長年暮らしていたため、地形を熟知しており、長沙城の東南が高く、城内を見下ろせることに着目しました。そこで、江忠源と相談し、城の南側の天心閣に保塁を築きました。太平天国軍は80日間にわたって長沙を包囲しましたが、長沙城を陥落させることはできませんでした。この戦いでは、天心閣で西王蕭朝貴が戦死し、太平天国軍は大きな打撃を受けました。

江忠源の死とその後

1853年6月、江忠源は安徽巡撫に任命されました。しかし同年10月、太平天国軍が南昌の包囲を解いて西征を開始すると、江忠源は湖北省の田家鎮で戦いましたが敗北し、武漢に退きました。12月には廬州の守備につきましたが、胡以晃率いる太平天国軍に包囲され、兵糧が欠乏し、援軍も来ない状況に陥りました。1854年1月14日、城は陥落し、江忠源は投水自殺を遂げました。江忠源の死後、劉長佑が楚勇の指揮を引き継ぎ、江西省に駐屯して太平天国の翼王石達開との戦いにあたりました。その後、広西省で天地会が建てた大成国を鎮圧しました。

湘軍との関係

「湘軍」という言葉には、広義と狭義の2つの意味があります。

広義の湘軍：太平天国の乱に対して結成された湖南人の郷勇全般を指し、この意味では楚勇も湘軍に含まれます。この用法は、王闓運の『湘軍志』に見られます。
狭義の湘軍：曽国藩が衡州で訓練した郷勇を指し、この意味では楚勇は湘軍には含まれません。

このように、湘軍という言葉の定義によって、楚勇との関係性が変わってきます。

楚軍との関係

左宗棠が曽国藩の幕府を離れた後に、独自に編成した郷勇も「楚軍」または「楚勇」と呼ばれます。これは、楚勇の名称が他の部隊にも使用されたことを示しています。

主な人物

江忠源（こう ちゅうげん）
江忠義（こう ちゅうぎ）
劉長佑（りゅう ちょうゆう）
劉坤一（りゅう こんいち）

楚勇は、太平天国の乱において重要な役割を果たし、その後の歴史にも大きな影響を与えた郷勇部隊の一つです。

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