榊原職直

榊原職直：激動の時代を生き抜いた武将・旗本

榊原職直（さかきばら もとなお）は、安土桃山時代から江戸時代初期にかけて活躍した武将であり、旗本です。その生涯は、激動の時代を象徴するかのように、様々な出来事に彩られています。

生い立ちと徳川家との関わり

天正14年（1586年）、職直は宇喜多氏の家臣である花房職之（はなぶさ もとゆき）の次男として生まれました。母は同じく宇喜多家臣の額田三河守の娘です。幼くして出家し、池上本門寺の僧となっていましたが、徳川家康によって還俗を命じられ、武士としての道を歩み始めます。

慶長元年（1596年）に家康に拝謁し、翌年には徳川秀忠の小姓となりました。慶長4年（1599年）には、徳川氏の重臣であった榊原康政の養子となり、以後「榊原職直」と名乗るようになります。この養子縁組は、康政の側室が花房氏出身であったことや、康政が宇喜多騒動の際に調停役を務めたことが関係していると推測されています。

大坂の陣での活躍と旗本としての独立

慶長19年（1614年）の大坂の陣では、実父の職之や実兄の職則と共に徳川方として出陣し、武功を挙げました。戦後、兄の職則から花房家の所領の一部（1000石）を分与され、旗本として独立しました。

その後、寛永2年（1625年）には1800石を知行し御徒頭となり、寛永9年（1632年）には御書院番頭、従五位下飛騨守に任じられました。寛永10年（1633年）には2500石に加増され、着実に幕府内での地位を確立していきます。

長崎奉行としての苛烈な政策

寛永11年（1634年）、職直は長崎奉行に就任します。長崎奉行として、幕府が推進していたキリシタンの弾圧を更に徹底しました。また、唐貿易の許可を長崎のみに限定し、日本人の海外渡航を禁止するなど、貿易統制を強化しました。さらに、長崎近在にいた混血児287人を海外に追放し、ポルトガル人を出島に移すなど、鎖国体制を推し進める上で重要な役割を果たしました。

一方で、長崎の町人たちを懐柔するため、諏訪神社の祭礼（現在の長崎くんち）を始めるなど、柔軟な一面も見せています。

島原の乱での失態と晩年

寛永15年（1638年）の島原の乱では、職直は鍋島勝茂の軍監を務めていました。しかし、鍋島軍が抜け駆けを行った際、職直の子である職信も同時に抜け駆けをしてしまいます。職信は城内に突入する戦功を挙げましたが、軍令違反として親子ともに咎めを受け、職直は長崎奉行を免職された上、閉門処分となってしまいます。

その後、許されて寛永19年（1642年）には御先鉄砲頭、正保3年（1646年）には近江国水口城（水口御茶屋）城番を務め、慶安元年（1648年）にその生涯を閉じました。墓所は東京上野の谷中天王寺墓地にあります。

子孫と現代への影響

職直の子孫は幕府旗本として存続し、幕末には剣豪として知られる榊原鍵吉や、東京女子医科大学の教授を務めた榊原仟などを輩出しました。また、幕末の榊原本家当主である榊原政敬の婿養子となり、榊原本家を相続した榊原政和も、この旗本家の出身です。以降、榊原氏の本家はこの血統によって継承されています。

榊原職直は、激動の時代を生き抜き、幕府の要職を歴任した人物として、その名前は歴史に刻まれています。彼の生涯は、戦国時代から江戸時代への移行期における社会の変動や、武士の生き様を考える上で、重要な示唆を与えてくれます。

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