武宣皇后卞氏

卞氏（べんし）

卞氏は、後漢末期から三国時代の魏にかけての人物です。徐州琅邪郡開陽県（現在の山東省臨沂市蘭山区）の出身で、曹操の妻として知られています。父は卞遠、弟は卞秉で、曹丕、曹彰、曹植、曹熊らの母親です。魏が建てられると皇后を追贈され、諡号は武宣皇后となりました。

経歴

元は歌妓でしたが、20歳の時に曹操に見出され、妾となります。曹操が董卓を避けて一時的に行方不明になった際、部下が曹操の元を離れようとするのを止めました。

197年頃、丁夫人が廃されると後妻となり、曹操の子や異母兄弟を養育しました。華美を好まず、倹約を旨とし、慎み深く節度を重んじたと言われています。211年の潼関の戦いや216年の濡須口の戦いにも同行しました。

当初、名門出身の丁夫人からは軽蔑されていましたが、良く仕え、丁夫人が曹操と離縁した後も、丁夫人に対し配慮を続けました。やがて丁夫人からも感謝されるようになり、丁夫人が亡くなると、曹操に丁夫人の遺骸埋葬を願い出て許可されています。

216年5月に曹操が王位に就くと夫人の位に留まりましたが、217年に長男の曹丕が太子に指名されると、219年7月には多くの子を育てた功績により王后に昇格しました。220年1月に曹操が没すると王太后となり、同年10月に曹丕が即位すると皇太后、さらに曹叡が即位すると太皇太后となりました。230年に亡くなり、高陵（曹操の墓）へ葬られました。

逸話

王沈の『魏書』によると、曹操が手に入れた耳飾を卞氏に選ばせた際、卞氏は中級の品を選びました。曹操が理由を尋ねると、「上等な物を選ぶと欲深な者と思われ、下等な品を選べば偽りの倹約と思われるため」と答えたとされています。

『魏略』には、卞夫人が弟の卞秉への官位と金銀財宝を求めたものの、曹操が「ひそかに彼をたくさん援助したのではないか」と疑い、断ったという話が残っています。

曹丕が女性の政治介入を許さない詔を出したため、皇太后となっても政治の実権はほとんどありませんでした。しかし、曹丕が個人的な恨みから曹洪を殺害しようとした際、郭皇后を通じて必死の助命嘆願を行い、曹洪は助けられたと言われています。

遺骨

2009年に曹操の陵墓が発見された際、3体の遺骨が見つかりました。そのうち壮年の女性の遺骨は、武宣皇后のものではないかと推定されています。しかし、武宣皇后の享年に関する記録には異説があり、年齢については議論が続いています。

備考

卞氏の弟である卞秉の曾孫と孫は、それぞれ曹髦（高貴郷公）と曹奐（元帝）の皇后に立てられました。

卞氏は、歌妓という低い身分から曹操の妻となり、皇后にまで上り詰めた女性です。その賢明さと慎み深さで曹操を支え、息子たちのために尽力し、一族の繁栄にも貢献しました。

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