殷墟

殷墟：古代殷王朝の首都遺跡

殷墟（いんきょ）は、中国の殷王朝後期の首都があった場所で、現在の河南省安陽市殷都区に位置しています。紀元前14世紀頃から紀元前11世紀頃までの間、殷王朝の首都として機能しました。

発見の経緯

殷墟が注目されるきっかけとなったのは、甲骨片の発見でした。1899年、金石学者の王懿栄が、漢方薬として売られていた龍骨に古代文字が刻まれているのを発見し、研究を始めました。その後、羅振玉らの研究により、これらの甲骨が河南省北部の小屯村から出土したものであることが判明し、この地が殷王朝の遺構ではないかという推測がなされました。

1928年からは、中央研究院による本格的な発掘調査が開始され、甲骨だけでなく、青銅器や墳墓などの遺跡が次々と発見されました。日中戦争による中断を挟みながらも、発掘は続けられ、現在までに15万件もの甲骨が出土しています。

殷墟の規模と発掘物

現在調査が進んでいる殷墟の範囲は、東西6km、南北4kmに及ぶ広大な地域です。洹水を挟んで北岸と南岸に分かれており、南岸には小屯村、北岸には武官村などが位置しています。

小屯村一帯からは、武丁王以降の甲骨や青銅器が集中して発掘されており、この地が殷王朝の中心地であったと考えられています。特に、武丁王の夫人であった婦好の墓は、ほぼ未盗掘の状態で発見され、440点以上の青銅器、約600点の玉石器など、多数の貴重な副葬品が出土しました。

また、小屯村から出土した甲骨には、5,000字以上の文字が刻まれており、そのうち約1,700字が解読されています。これらの甲骨文字の研究により、殷王朝の存在が同時代の資料で確認されただけでなく、これらの文字が現代で使用されている漢字の祖形であることが確認されました。

武官村一帯では、13基もの大規模な墳墓が発見されており、そのうち8基は殷王朝の王墓であると考えられています。これらの墳墓の中には、殷王朝最後の王である紂王のものと推定される、埋葬されなかった墳墓も含まれています。

武官村の東に位置する花園荘村では、殷墟の直前の時代である殷中期のものとみられる都城遺跡（洹北商城）が発見されており、陽甲王、盤庚王、小辛王らが首都を置いていた可能性も指摘されています。

世界遺産としての価値

殷墟は、以下の理由からユネスコの世界遺産に登録されています。

建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すものであること。
現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠であること。
人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例であること。
顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するものであること。

殷墟は、古代中国の殷王朝の文化や社会を知る上で、非常に重要な遺跡です。甲骨文字の研究を通じて、古代の歴史が解き明かされるとともに、漢字のルーツを知る手がかりにもなっています。現在も発掘調査や研究が進められており、新たな発見が期待されています。

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