永福寺跡

永福寺跡の概要

神奈川県鎌倉市二階堂に位置する永福寺跡は、鎌倉時代初期に創建された寺院の跡地です。鎌倉幕府を開いた源頼朝が、多くの戦で失われた人々の魂、特に奥州合戦で命を落とした数万の兵士や武将たちの霊を供養し、その冥福を祈る目的で建立を発願しました。この寺院は、当時の鎌倉において鶴岡八幡宮、勝長寿院とともに三大寺社と称されるほど規模が大きく重要な存在でした。

寺院には二階建ての仏堂があったことから、「二階堂」という別称でも知られており、現在の所在地である「二階堂」という地名も、この永福寺に由来すると伝えられています。

現在、永福寺跡は国の史跡として保護されており、ユネスコ世界遺産候補である「武家の古都・鎌倉」を構成する資産の一つとして、その歴史的価値が国内外から注目されています。

建立の経緯と歴史

永福寺の建立は、源頼朝が奥州藤原氏を滅ぼした文治5年（1189年）の奥州合戦が直接的な契機となりました。頼朝は、この戦をはじめとする数々の争乱で亡くなった人々、特に源義経や藤原泰衡といった敗者の霊をも含め、戦没者全ての魂を鎮めたいと強く願い、大規模な供養のための寺院建立を決意しました。

発願から間もない同年12月には、早くも建立に向けた工事が開始されました。寺院の造営責任者としては、造立奉行に工藤行政、作事奉行および作所別当には八田知家が任じられ、彼らの指揮のもと工事が進められました。当時の歴史記録である『吾妻鏡』によれば、畠山重忠をはじめとする関東地方の有力な御家人たちも、この大事業に積極的に協力したと記されています。

建立にあたっては、奥州平泉における藤原氏の寺院群、特に中尊寺の二階大堂や大長寿院などを模範としたとされています。建久3年（1192年）11月25日には本堂が完成し、盛大な落慶供養が執り行われ、永福寺は鎌倉幕府を代表する寺院の一つとしてその威容を誇りました。

しかし、栄華を誇った永福寺も、応永12年（1405年）に火災に見舞われたという記録があり、この火災が原因で寺院としての機能が失われ、長い歴史の中で廃絶に至ったと考えられています。

発掘調査による伽藍の解明

長い間、かつての壮麗な姿を失っていた永福寺跡ですが、昭和58年（1983年）から本格的に実施された発掘調査によって、その詳細な伽藍配置や寺院の構造が明らかになりました。調査の結果、永福寺が広大な浄土庭園を中心とした寺院であったことが判明しました。

寺院の中心には、北方から流れ込む谷川を水源とする巨大な苑池が配されていました。この池は南北に約200メートル、東西に約40メートルから70メートルの規模を持ち、その西岸に主要な建物群である中心伽藍が配置されていたことが確認されています。

中心伽藍は、本堂にあたる二階大堂（釈迦如来が祀られていたとされる）を中心に、その北側に阿弥陀堂（阿弥陀如来）、南側に薬師堂（薬師如来）がそれぞれ翼廊のように連なる三堂形式であったことが判明しました。この三堂と苑池の配置構成は、中尊寺の無量光院の伽藍構成と非常に類似しており、永福寺が無量光院をモデルの一つとして建立されたことを裏付けています。

これらの発掘調査の成果は、文献記録だけでは分からなかった永福寺の具体的な姿を現代に伝える貴重な情報源となりました。

現在の姿と復元整備

火災により荒廃した後、永福寺跡は長らくススキなどが生い茂る湿地となっていましたが、国の史跡に指定された翌年の昭和43年（1967年）度から、史跡としての保護と活用を目指し、土地の公有化が進められました。

そして、発掘調査で得られた豊富なデータをもとに、平成19年（2007年）以降、往時の永福寺の姿を偲ばせるための復元整備工事が本格的に開始されました。約10年にわたる整備期間を経て、平成29年（2017年）6月には主要部分の復元が完了し、一般公開が始まりました。現在、跡地では、二階大堂をはじめとする三堂の基壇（建物の基礎部分）や、広大な苑池が当時の発掘データに基づいて復元されており、かつて鎌倉幕府の威信をかけた寺院の規模や空間構成を体感することができます。

また、発掘データや研究成果を活用し、鎌倉市と湘南工科大学が連携して、永福寺の創建当時の伽藍全体をコンピューターグラフィックス（CG）によって復元する試みも進められています。これにより、より具体的に失われた寺院の姿を理解するための取り組みが行われています。

永福寺跡は、鎌倉時代の歴史、特に源頼朝の戦没者供養という深い信仰心や、当時の大規模な寺院造営技術を知る上で非常に重要な史跡であり、静かな環境の中で歴史の重みを感じることができる場所です。

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