哥舒翰

哥舒翰（かしょかん）：唐代の勇将、その栄光と悲劇

哥舒翰は、唐代に活躍した武将であり、その生涯は数々の武功と、安史の乱における悲劇的な最期によって彩られています。彼の出自はテュルク系の突騎施（テュルギシュ）に遡り、異民族出身でありながら唐の将軍として活躍した人物です。

若き日の武勇と台頭

哥舒翰は、突騎施の族長である哥舒部の末裔として生まれました。父の哥舒道元が安西都護将軍であったため、安西で育ちました。彼の母はホータン王国の王女であったと伝えられています。裕福な家庭に育ち、任侠を重んじる性格でした。若い頃は長安で酒や博打に興じていましたが、40歳を過ぎて父が亡くなると、河西に赴き、節度使の王倕に仕えて軍功を立てました。その後、王忠嗣にその才能を見出され、衙将として仕えることになります。

哥舒翰は、左氏春秋や漢書に通じ、その知識は深く、人心掌握術にも長けていました。財産に執着せず、周囲に施しを与え、多くの士心を得ていました。一方で、吐蕃との戦いでは、命令に従わない副将を自ら殺すなど、厳格な一面も持ち合わせていました。

吐蕃との戦いでは、自ら槍を振るって敵を打ち破り、その勇名は瞬く間に広まりました。隴右副節度使に任命されると、唐に侵入した吐蕃軍5千を伏兵で皆殺しにするなど、その武勇を遺憾なく発揮しました。落馬しながらも大声で吐蕃の三将を押しとどめ、援軍とともに討ち取った逸話や、逃げる敵を討ち取った逸話は、彼の剛勇さを物語っています。

王忠嗣との絆と節度使への道

天宝6載（747年）、王忠嗣が罪に問われた際には、哥舒翰は自ら朝廷に赴き、王忠嗣の釈明を訴えました。玄宗に対し、自らの官職を賭けて王忠嗣を弁護し、その結果、王忠嗣は死罪を免れることになります。この時、「正道があれば、冤罪で死ぬことはない。正道がなければ、賄賂を贈っても無駄だ」と語ったと伝えられており、彼の信念が伺えます。

天宝7載（748年）には、青海地方に城を築き、吐蕃を破ってその侵入を阻止しました。その功績が認められ、天宝8載（749年）には、隴右節度使に任命され、王忠嗣が左遷される原因となった石堡城の攻略を命じられます。彼は、隴右・河西・朔方・河東及び突厥の兵10万を率いて石堡城を攻略し、難攻不落の城を陥落させました。この戦いで、数万の兵を失いながらも勝利を収めたことは、彼の戦略家としての側面を示すものでもあります。

安禄山との確執

哥舒翰は、同じ節度使である安禄山とその従兄弟の安思順と仲が悪く、確執がありました。来朝した際に、安禄山から「我々は同族ではないか」と問われた際、「狐が穴に向かって吠えるのは不祥である。根本を忘れているからだ」と答えた逸話が残されています。安禄山はこれを侮辱と受け取りましたが、高力士の仲介で事なきを得ました。その後、河西節度使を兼任し、涼国公に封じられ、吐蕃を破って九曲の地を奪い、西平郡王に封じられます。また、宰相の楊国忠と結び、太子少保に任じられますが、この頃から酒色に溺れるようになり、体調を崩して長安の屋敷に引きこもるようになりました。

安史の乱と悲劇的な最期

天宝14載（755年）、安禄山が反旗を翻し、安史の乱が勃発します。洛陽が陥落し、唐軍は潼関まで退却。司令官であった封常清と高仙芝が処刑された後、哥舒翰は兵馬元帥に任命され、潼関に赴任しました。病身でありながらも玄宗の命令で出陣した哥舒翰でしたが、軍の統率がとれず、士気は低い状態でした。さらに、宦官や監軍の不正も重なり、事態は悪化していきます。

至徳元載（756年）、潼関に攻めてきた安禄山の息子・安慶緒を撃退しますが、不仲であった安思順を誅殺するなど、混乱の中で判断を誤っていきます。楊国忠の誅殺を求める王思礼の進言を拒否したことなどから、楊国忠との関係も悪化。ついには、楊国忠が差し向けた杜乾運を殺害してしまい、対立は決定的になります。

潼関での戦いでは、守戦を主張するも聞き入れられず、出撃を余儀なくされます。安禄山軍の武将・崔乾祐との戦いで伏兵に遭い大敗。潼関に退却後、裏切りによって捕らえられ、洛陽へ送られました。捕らえられた際に、安禄山に「李光弼や魯炅を招きましょう」と述べたものの、諸将からの返書によって軟禁状態になります。至徳2載（757年）10月、唐軍による洛陽回復の際、逃亡する安慶緒によって殺害され、その波乱の生涯を終えました。

哥舒翰は、その勇猛さと数々の武功によって唐代を代表する武将の一人として名を残しましたが、安史の乱という時代の大きなうねりの中で、悲劇的な最期を迎えることとなりました。彼の生涯は、勇猛な武将としての栄光と、時代の波に翻弄された悲劇を象徴するものとして、後世に語り継がれています。

もう一度検索