河朔三鎮

河朔三鎮とは

河朔三鎮（かさくさんちん）とは、中国の唐王朝後期に、現在の河北省を中心とした地域に割拠した三つの藩鎮、すなわち幽州（盧龍軍）、魏博（天雄軍）、鎮冀（恒陽軍、成徳軍）を指します。これらの地域は、唐王朝の中央政府の力が及ばなくなり、事実上の独立勢力として独自の支配体制を築きました。

河朔三鎮の成立

河朔三鎮の成立には、安史の乱が大きく影響しています。763年に安史の乱が鎮圧された後、各地の節度使が半独立勢力として割拠しました。唐朝は、これらの勢力を完全に排除することができず、河朔三鎮の割拠を既成事実として承認しました。
具体的には、唐の第11代皇帝代宗は、安禄山の旧臣であった李懐仙を幽州に、田承嗣を魏博に、張忠志（後に李宝臣）を成徳軍に封じました。これにより、河朔三鎮は唐朝の支配下から離れ、独自の勢力を拡大していくことになります。

河朔三鎮の独立と唐朝の衰退

河朔三鎮は、次第に独立性を強め、唐朝の力が及ばない地方勢力となっていきました。三鎮は、「河朔の旧事」と称して、主帥の地位を世襲したり、唐朝の許可を得ずに領内の文武百官を任命したり、租税の上納を拒否したりしました。これは、藩鎮の弊害の始まりであり、北方地域の政治不安の原因となりました。

唐朝も手をこまねいていたわけではありません。第12代皇帝徳宗は、三鎮を制圧しようと試みましたが、逆に三鎮は黄河以南の河南二鎮と結んで反乱を起こし、徳宗を長安から追放するほどの勢力を持っていました。

河朔三鎮の動向と唐朝の苦悩

第14代皇帝憲宗が河南二鎮を攻め滅ぼすことに成功すると、河朔三鎮は一時的に唐朝に帰順しました。しかし、憲宗の死後、再び独立して自立を回復しました。ただし、その勢力は独立国家を打ち立てるには不十分であり、北方では契丹が勢力を拡大していたため、常にその脅威にさらされていました。

また、三鎮の主帥の地位も安定しておらず、有力な配下の武将や親衛軍による下剋上が頻繁に起こっていました。このため、唐朝の命令を拒否しながらも、その権威を借りなければ三鎮を維持できないという矛盾を抱えていました。一方、唐朝も契丹の南進を食い止めるために、河朔三鎮の自立を放置し、彼らに契丹と対峙させるという戦略をとるようになりました。こうして、唐朝と河朔三鎮の関係は不明瞭なまま、半独立状態が続きました。

河朔三鎮の終焉

907年、宣武軍節度使の朱全忠が唐の哀帝から禅譲を受け、後梁を建国しました。これにより、河朔三鎮は、後梁と李克用の勢力との間の争いの場となり、その勢力は大きく衰退しました。

盧龍軍節度使の劉守光は、「燕」を建国して両勢力に対抗しようとしましたが、後唐の荘宗李存勗によって滅ぼされました。天雄軍節度使は後梁に、成徳軍節度使は後唐に屈服し、河朔三鎮は、最終的に両勢力の支配下に入りました。

まとめ

河朔三鎮は、唐朝の衰退期に、地方勢力が独立性を強めた象徴的な存在でした。これらの勢力は、唐朝の中央政府の力を弱め、その後の中国の歴史に大きな影響を与えました。

河朔三鎮の興亡は、中国の歴史における地方勢力の隆盛と中央政府の衰退という、重要なテーマを考える上で欠かせない事例と言えるでしょう。

参考資料

陳高華 著、佐竹靖彦 訳『元の大都－マルコ・ポーロ時代の北京』中央公論新社、1984年6月。
礪波護、武田幸男『世界の歴史6 隋唐帝国と古代朝鮮』中央公論新社、2008年3月。
* 礪波護「第1部 両晋時代から大唐世界帝国へ」『世界の歴史6 隋唐帝国と古代朝鮮』中央公論新社、2008年。

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