波多親(はた ちかし):戦国時代の肥前国を揺るがした武将
波多親は、戦国時代から
安土桃山時代にかけて活躍した
武将であり、
肥前国(現在の佐賀県の一部)
松浦郡の鬼子岳城(岸岳城)を拠点とした
波多氏の17代当主です。元服後の初名は鎮(しげし)と名乗っていました。
波多氏の家督相続をめぐる騒動
波多氏は、
松浦党の中でも大きな勢力を持っていましたが、親に至るまでの系譜は複雑で諸説あります。有力な説によれば、親は
有馬義貞の三男であり、先代当主・波多盛に嫡子がいなかったため、娘が嫁いだ有馬氏から養子として迎えられたとされています。
この家督相続をめぐっては、激しいお家騒動が勃発しました。盛の後室・真芳が親を擁立しようとしたのに対し、盛の弟である波多志摩守を推す勢力が対立。
永禄7年(
1564年)には、真芳が志摩守擁立派の日高資を毒殺するという事件が起こります。これに怒った日高資の子・喜は、同年12月に城に放火し、混乱に乗じて城を奪い取りました。真芳と親は、侍女の助けを借りて辛くも脱出し、大村の草野氏を頼りました。その後、
龍造寺氏の支援を得て復権を目指す一方で、日高一派は波多政を擁立し、
松浦隆信に援助を求めて壱岐で戦いました。
永禄12年(
1569年)、真芳一派は
龍造寺隆信と
有馬義貞の援軍を得て鬼子岳城を攻撃。日高勢は
松浦氏に救援を要請しましたが、嵐のために到着が遅れ、城を放棄して壱岐へ逃亡しました。その後、日高喜は波多政を殺害して壱岐
守護を自称し、
松浦氏の配下として争いを繰り返しましたが、最終的には
松浦隆信によって和睦させられました。
元服後、親は
大友義鎮(宗麟)から「鎮」の字を賜り、「波多下野守鎮」と名乗りました。
元亀2年(
1571年)には、対馬の
宗氏の援軍を受けて壱岐へ攻め込みましたが、敵の偽りの内応に騙され敗北を喫しました。
残党勢力との和睦後、
波多氏は
龍造寺氏との間で、服従と離反を繰り返すことになります。有馬氏とも結びながら、
龍造寺氏の勢力下で生き残りを図りました。
大友氏の衰退に乗じて、隣接する
筑前国にも進出しています。
天正11年(
1583年)もしくは
天正5年(
1577年)には、正室であった青山采女正の娘と離縁し、
龍造寺隆信の養女である於安(実父は
龍造寺胤栄)を新たな妻として迎え、
龍造寺氏への従属を示しました。この於安は、後に「秀の前」として知られる人物です。また、親の別名とされる信時も、この頃に名乗ったものと考えられています。
天正12年(
1584年)の
沖田畷の戦いでは、有馬氏と
龍造寺氏の双方が身内であったため、どちらにも味方せず、出陣を避けました。しかし、ほぼ同時期に私怨から
原田信種の領内へ攻め込み、鹿家合戦で大敗を喫しています。隆信の死後は
島津氏に通じ、原田氏や
松浦氏などと抗争しました。
豊臣政権下での没落
天正15年(
1587年)の
豊臣秀吉による九州征伐の際には、いち早く秀吉に謁見しましたが、
島津氏討伐への協力を拒んだため、秀吉の不興を買いました。しかし、秀吉は
朝鮮出兵を計画しており、肥前名護屋(現在の佐賀県唐津市)がその拠点として重要であったため、
波多氏の利用価値を認めました。また、
鍋島直茂(
龍造寺氏)の取り成しもあり、所領を安堵され、
豊臣氏の直臣となりました。
天正16年(
1588年)には上洛し、
千利休や
津田宗及と茶会を催し、茶器を贈られるなど交流を深めました。同年3月には、三河守の官位と豊臣姓を与えられました。これは、
波多氏のような国人領主としては破格の待遇でしたが、以降、
波多氏は
龍造寺氏の寄騎
大名として扱われることになります。
秀吉は、
朝鮮出兵に備えて名護屋に前線基地(
名護屋城)を築くことを決定しますが、親は自領である名護屋が大軍を置くには不向きであると進言したため、再び秀吉の不興を買いました。
文禄の役を控え、秀吉が
博多に到着した際も、諸将が即座に出迎えたのに対し、
波多氏は遅参してしまい、秀吉の印象をさらに悪くしてしまいました。
文禄の役では、
龍造寺氏の名代である
鍋島直茂の配下として兵を率いて渡海しましたが、自身は独立した
大名であると主張し、鍋島氏との協調を拒否したため、秀吉の怒りを買いました。
文禄2年(
1593年)には、熊川での駐留中に卑怯な行為があったとして鍋島氏に訴えられ、召還命令を受けました。
帰国の途についた親に対し、秀吉は名護屋への上陸を許さず、船上で今までの不行跡を責める書状を渡し、所領没収と徳川家康への預かりを命じました。
常陸国筑波に配流となり、同地で病死したというのが通説ですが、
慶長の役に出撃して戦死したという説もあります。没年は不明です。
波多親は、戦国時代の激動の中で、自らの勢力を維持しようと奔走しましたが、最終的には
豊臣秀吉の怒りを買い、没落しました。その生涯は、戦国
大名の盛衰を象徴するものと言えるでしょう。