津山洋学資料館

津山洋学資料館は、岡山県津山市の歴史的な城東町並み保存地区に位置する、洋学を専門とするユニークな博物館です。日本の近代化に大きな足跡を残した美作地方出身の優れた洋学者たちの功績を称え、その関連資料の収集、調査、研究を目的として設立されました。

設立の経緯と歩み

当資料館の設立は、津山にゆかりのある洋学者、箕作阮甫（みつくりげんぽ）の生家が1975年（昭和50年）に国史跡に指定され、復元されたことが大きな契機となりました。これにより、津山地域で洋学者の功績を顕彰しようという機運が高まります。その動きを受け、旧妹尾銀行林田支店として使われていた建物を活用し、1978年（昭和53年）3月19日に開館しました。開館当初は約600点だった収蔵資料は、32年間で9,400点を超えるまでに増加し、手狭となったため、2010年（平成22年）3月19日に現在の城東町並み保存地区内、箕作阮甫旧宅の隣地に新築移転し、リニューアルオープンを果たしました。

旧館時代には、1991年（平成3年）に博物館法に基づく「博物館相当施設」に、翌1992年（平成4年）には旧建物が津山市の重要文化財（建築物）に指定されています。新館移転に際しては、2008年（平成20年）に建設が始まり、2009年（平成21年）に竣工。同年10月には博物館法による「登録博物館」となりました。

建物の特徴

現在の建物は、「津山洋学五峰」と呼ばれる宇田川玄随、宇田川玄真、宇田川榕菴、箕作阮甫、津田真道といった津山ゆかりの五人の高名な洋学者をイメージし、五角形のホールと展示室が連なるように設計されています。これは象設計集団の富田玲子氏による設計で、そのデザインは中国建築大賞2010の一般建築部門大賞を受賞するなど高く評価されています。

館内の展示室の壁には、津山藩医であった宇田川榕菴が日本に本格的な西洋植物学を伝えたことに敬意を表し、オランダ北部の港町ヒンデローペンに伝わる伝統的な絵付け技法で西洋風の植物が描かれています。

展示と収蔵品

館内には、常設展示室、復元展示室、企画展示室、図書室・資料閲覧室、GENPOホールなどがあります。

常設展示は、西洋文明の窓口であった出島を模した導入部から始まり、「人体に隠された科学への扉」「世界へと開かれていく眼」「日本の近代化と津山の洋学者」という三つのテーマに沿って展開されています。復元展示室では、江戸時代末期から明治初期にかけての美作地方の医師による薬剤調合の様子を再現しています。企画展示室では、年間を通して洋学に関する様々なテーマの特別展が開催されます。

収蔵品の中でも特筆されるものとして、宇田川榕菴関係資料があります。「和蘭王国軍曹図譜」や「和蘭カルタ」など、榕菴の直筆や旧蔵とされる18件82点が、2015年（平成27年）に津山市指定重要文化財（歴史資料）となりました。また、久原躬弦（くはらみつぐる）関係資料10点は、「明治期日本の化学の先駆者・化学会初代会長久原躬弦関係資料」として、2016年（平成28年）に化学遺産第35号に認定されています。

資料館では展示解説の多言語対応にも力を入れており、2017年（平成29年）以降、英語、中国語（簡体字）、韓国語のパンフレットが作成・配布されているほか、2018年（平成30年）3月からは英語、中国語、韓国語、オランダ語の音声ガイダンスが利用できるようになりました。

その他の施設と活動

館外スペースも見どころがあります。前庭には、かつて市内に点在していた洋学者のブロンズ像が集められています。資料館沿いの旧出雲街道から続く小道は「薬草の小径」と名付けられ、古今東西の様々なハーブや薬草が植えられています。中庭は漢方薬の原料となる植物を集めた庭園になっており、館内からピンホールカメラを通して覗けるユニークなコーナーもあります。

資料館の活動として、1981年（昭和56年）に結成された友の会が研修旅行や史跡見学会を実施しています。また、新館移転後は、夏休みを中心に一般向けのワークショップを積極的に開催しています。

ワークショップでは、オランダの伝統技法であるヒンデローペンやスタップホストの絵付け体験教室が人気です。さらに、津山工業高等専門学校の指導のもと、江戸時代の化学書『舎密開宗（せいみかいそう）』に記された実験を再現する化学実験講座も開催されており、小学生などが参加しています。2017年（平成29年）には、川崎医科大学の協力で「自分だけの『解体新書』を作ろう」というワークショップも初めて開催されました。

このほか、不定期で有識者を招いた文化講演会や、職員による研究報告会であるオムニバス講演会なども開催されています。

利用案内

開館時間は午前9時から午後5時まで（最終入館は午後4時30分）。休館日は月曜日（祝日の場合は翌日）、祝日の翌日、年末年始（12月29日～1月3日）です。

入館料は一般300円、高校・大学生200円、中学生以下は無料です。30名以上の団体には割引があります。

交通アクセスは、JR津山駅からごんごバス東循環線南まわりで約10分、「西新町」バス停下車徒歩約2分。車の場合は中国自動車道津山ICから約10分です。

津山洋学資料館は、美作地方が育んだ豊かな洋学の歴史と、それを現代に伝える貴重な施設として、多くの人々に学びと発見の機会を提供しています。

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