海乃山勇

海乃山 勇

海乃山 勇は、1940年6月28日に茨城県龍ケ崎市に生まれた大相撲力士である。本名を入井 勇といい、小野川部屋に入門し、後に名門・出羽海部屋に所属した。最高位は東関脇。身長172cm、体重120kgと、幕内では小柄な部類に入る体格ながら、左四つからの寄りや突き落とし、さらには意表を突く蹴手繰りを得意とした。

来歴

中学校を卒業すると同時に角界へ飛び込み、1956年5月場所で小野川部屋から初土俵を踏んだ。当初は本名の「入井」で番付に名を連ねたが、人気プロレスラーであった力道山にあやかりたいと考え、「海力山」への改名を希望し協会に届け出た。しかし、なぜか1957年1月場所の番付には「海乃山」と記載されており、これは筆記係の行司の誤りだったと言われている。訂正することなく、そのまま「海乃山」の四股名を使用することになった。

入幕までは三段目時代に一度負け越したのみで、概ね順調に番付を駆け上がり、1959年7月場所には19歳で十両へと昇進を果たした。一度は幕下へ陥落する経験もしたが、この時に「信夫竜」と改名したことが転機となり、再び上昇気流に乗る。そして1961年1月場所で念願の新入幕を果たした。なお、四股名は1961年9月場所で幕内に戻った際に再び「海乃山」に改めている。

相撲スタイルと活躍

体格で劣る小兵であったため、その弱点を補うべく、立合いからの鋭い出足を活かした突進や、相手の懐に潜り込んでの寄りを得意とした。また、相手が真っ向から受けて立つと見せかけて、機を見て繰り出す蹴手繰りや突き落としといった変化技も多用し、これが彼の「曲者」ぶりを象徴する相撲となった。特に1964年7月場所では、当時絶対的な強さを誇っていた横綱・大鵬を破る金星を獲得し、その場所での大鵬の休場の一因を作るなど、上位陣をたびたび苦しめた。

元々は正攻法の相撲を目指していた海乃山だが、現役中に負った腰の負傷が大きく影響し、本来の動きができなくなったことから、次第に蹴手繰りなどの注文相撲を取り入れる必要に迫られた。この腰の怪我は深刻で、腰を十分に割って手をついて立つという基本的な立合いの姿勢すら困難になり、当時の幕内力士の中でも立合いの不格好さで例に挙げられるほどであったという。

部屋移籍と「曲者」の側面

小規模な部屋であった小野川部屋に所属していたが、師匠である元前頭・錦華山の停年退職に加え、1965年に実施された部屋別総当たり制への移行を機に、大部屋である出羽海部屋へ移籍することになった。移籍後も勢いは衰えず、新たな対戦相手となった出羽海一門の横綱・栃ノ海や、独立した北の富士らに対しても、しばしば金星を獲得するなど、番狂わせを演じ続け、土俵を沸かせた。

海乃山が「曲者」と評された理由は、その相撲の巧みさだけでなく、土俵上での態度にもあった。相手の顔を張ったり、勝負が決まった後に突っ掛けたりするなど、ふてぶてしいと見られがちな振る舞いが話題に事欠かなかった。例えば、1969年5月場所10日目、前の山戦で寄り切られて敗れた後、土俵下で前の山の顔を張った行為が問題視され、物議を醸したことがある。

晩年と引退、そして廃業

現役生活の晩期には、腰の怪我がさらに悪化し、稽古も十分にできない状態となった。四股を踏むことも困難になり、申し合い稽古も一日おきにわずか7番程度を行うのが精一杯であったという。1969年11月場所中の座談会では、当時の苦境を滲ませる発言をしており、息子から「下（番付の低い相手）の人と取ればいいじゃないか」と言われたことや、親方から「明武谷は一生懸命やっているぞ」と奮起を促されたエピソードを明かしているが、この頃すでに引退の意思を固めていたとされる。

そして、幕内下位で途中休場した1970年1月場所をもって、29歳で現役を引退した。引退後は年寄名跡である小野川を襲名し、しばらくは当時の出羽海親方（元横綱・佐田の山）の側近、いわば参謀役として部屋を支えた。しかし、自身が新たな部屋を構えるための分家独立を申し出たことから、出羽海親方との関係が急速に悪化した。また、現役時代から苦しんだ腰の負傷は年寄としての職務にも支障をきたすほどであったとされ、これらの事情が重なり、1971年9月場所限りで相撲協会を廃業するという異例の選択をした。

廃業後

相撲界を去った後は、大阪府大阪市に移り住み、飲食店、具体的にはちゃんこ料理店を経営していたという。

1997年7月5日、57歳でその生涯を閉じた。

主な成績・記録

土俵人生の足跡として、主な成績を以下に記す。

通算成績：550勝496敗13休（勝率.526）
幕内成績：384勝413敗13休（勝率.482）
現役在位：80場所（幕内在位54場所）
三役在位：6場所（関脇3場所、小結3場所）
三賞：6回（殊勲賞1回、敢闘賞2回、技能賞3回）
金星：5個（大鵬3個、柏戸1個、栃ノ海1個）

各段優勝として、幕下で1回（1958年11月場所）、三段目で1回（1958年1月場所）を記録している。

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