海賊の隠し財宝

海賊の隠し財宝は、海賊たちが略奪した宝物をどこかに隠したとされる伝説的な存在です。無人島などに財宝を埋めたという話は、古くから冒険物語の定番として親しまれ、多くのフィクション作品で描かれてきました。

概要と史実における議論

フィクションの世界での人気とは裏腹に、史実における海賊の隠し財宝の存在については、歴史家の間でも意見が分かれています。

特にカリブ海で活動した海賊たちは、略奪した品物を仲間内で迅速にほぼ平等に分配し、手に入れた財宝もすぐに酒や博打、女性などに費やしてしまう傾向があったことが知られています。このため、カリブ海の海賊が永続的な隠し財宝をどこかに秘匿していた可能性は低いと考える専門家は少なくありません。著名な海賊史研究家であるマーカス・レディカーも、カリブ海の海賊が財宝を埋めたという話を否定しています。

一方で、すべての海賊がそうであったわけではないという指摘もあります。歴史家のジャン・ロゴジンスキは、ロバート・ルイス・スティーブンソンの小説『宝島』の影響でカリブ海の海賊が財宝を隠すイメージが広まったとしながらも、実際にそのような行為を行った可能性が高いのは、インド洋や紅海で活躍したヨーロッパ人の海賊、いわゆる「海賊周航」の時代の海賊たちであると述べています。

その理由として、海賊周航時代のインド洋はカリブ海に比べて略奪が成功しやすく、手に入る財宝も高価な品々が多かったこと、そして彼らの拠点であったマダガスカルのサント・マリー島には、それらの財宝をすぐに使い果たせるような場所が存在しなかったため、アメリカなどへの帰国まで財宝を保管する必要があった点を挙げています。ロゴジンスキは、マダガスカル以外の地域ではこのような事例は少なく、他の海賊たちは略奪品をすぐに消費しただろうと推測しています。

また、クリントン・V・ブラックも、黄金時代の海賊には略奪品を平等に分配するという掟があり、財宝も早期に金銭や物資に交換されただろうから、海賊の財宝話の多くは創作か誇張されたものである可能性が高いと指摘しています。

対照的に、歴史家の別枝達夫は、17世紀から18世紀にかけての海賊が人里離れた孤島や海岸に財宝を隠したという話は事実であると見て差し支えないと述べています。財宝が隠される理由として、1. 逮捕を察知した海賊が一時的に基地周辺や馴染みの土地に埋めるケース、2. 嵐に襲われて孤島に難破した際に財宝を埋めるケース、3. 財宝の分配を嫌った船長が一時的に秘匿するケースなどを挙げています。

財宝の隠し場所や方法についても言及があります。歴史家のシャルル・ド・ラ・ロンシエールによれば、海賊は財宝の種類によって隠し場所を変え、黄金や宝石など水に強いものは海岸に、そうでないものは島の乾燥した場所に埋めたといいます。海岸に隠された財宝の近くの岩には目印が刻まれ、探索を逃れるために約3メートル（10フィート）の深さに埋められました。しかし、海岸に埋められた財宝については、時間経過により埋蔵地が海中に沈下している可能性も指摘されています。海洋史家のスタンレー・ロジャースは、海賊周航の集合地であったコモロ諸島のジョハンナ島には、複数の未発見の財宝が眠っているだろうと述べています。

トレジャーハンターのロベール・シャルーは、海賊の隠し財宝の金額は、沈没船の財宝などに比べるとそこまで大きくないだろうという見解を示しています。

実際に発見された例

大規模な海賊の隠し財宝の発見は稀ですが、実際に発見された事例も存在します。

バッカニアのロッシュ・ブラジリアーノは、キューバの青年の島に財宝を埋蔵しましたが、スペイン人の拷問により銀貨10万枚以上が発掘されました。これは略奪品をすぐに使い果たすことで知られるバッカニアとしては異例の事例です。

有名な海賊キャプテン・キッド（ウィリアム・キッド）も、アメリカのガーディナー島に宝石箱を埋蔵しましたが、これはすぐに発見されています。ただし、発見された財宝の量がキッドの略奪規模からして少なかったため、他の場所にも隠し財宝が存在するのではないかという説があり、キッドが立ち寄ったアメリカ東海岸やカリブ海などが候補地として挙げられています。

数々の財宝伝説

実際に発見された事例は少ないながらも、歴史上の有名な海賊たちに関する財宝伝説は世界各地に無数に存在します。黒ひげ、ヘンリー・エイヴリー、バーソロミュー・ロバーツといった海賊たちも、どこかに財宝を隠したという伝説が語られています。

特に黒ひげ（エドワード・ティーチ）は、殺害される前日に部下に財宝のありかを尋ねられ、「そいつは俺と悪魔しか知らねえ。一番長生きした奴がかねを持っていくのさ」と答えたという話が、部下の法廷証言として残されており、これが彼の財宝伝説の起源となり、現代でも探求が行われています。

エクアドル沖のラプラタ島には、私掠船船長のトーマス・ストラドリングがスペインの財宝船から略奪した財宝を隠したという伝説があります。船が浸水や沈没の危機に瀕し、やむなく流れ着いた島で、洞窟に財宝を隠し入口を爆薬で塞いだといわれています。後に捕らえられたストラドリングは財宝の話をしましたが、回収には至らなかったと伝えられています。

1929年、ヒューバート・パルマーという人物がウィリアム・キッドのものとされる家具を入手したところ、その隠し場所からキッドの財宝が隠されているとされるシナ海の謎の島が描かれた海図が発見されました。以後、この海図を元に東洋へ向かうトレジャーハンターが続出しました。

1730年にレユニオン島で処刑された海賊オリビエ・ルバスールは、処刑される直前に財宝の在りかが書かれた暗号文を群衆に投げつけたという有名な伝説があります（フィクションとの指摘も根強いです）。彼は仲間の海賊と共にノッサ・セニョラ・ド・カボ号を襲撃し、一説には海賊史上最大とも試算される4億ドル超の財宝を略奪したとされています。

インド洋のモーリシャス島には、ベルナルダン・ナジョン・ド・レスタンが略奪品を秘匿した伝説があります。彼は財宝の場所を示す複数の手紙を甥に送ったとされ、そのうち2通がレスタンによるものだと考えられています。「B・N」という目印や、ヴァコア近辺で難破したインダス号の財宝について記されていました。これらの手紙は、最終的にフリーメイソンの男に渡り、財宝伝説として語り継がれています。

大西洋のサルベージ諸島には、海軍をも巻き込んだ財宝伝説があります。船乗りのクリスチャン・クルーズが同僚から聞いた話によれば、1804年に財宝船に乗っていたスペイン人が、サルベージ諸島で船長殺害後に財宝を砂浜に埋め、その上に船長の棺を埋めてカモフラージュしたというものでした。この話に興味を抱いた海軍本部は1813年に探索隊を派遣しましたが、財宝は発見されず、伝説は事実ではないと結論付けられました。

ブラジル沖のトリニダード島にも海賊の財宝伝説があり、東インド会社の船長が元海賊らしき部下から島の詳細な地理と財宝の隠し場所が記された海図を受け取ったという話が伝わっています。この話を聞いた弁護士エドワード・フレデリック・ナイトは実際に島へ向かいましたが、財宝を見つけることはできませんでした。

ホンジュラスのバイア諸島に浮かぶロアタン島には、海賊の埋蔵金らしきものが発見されたという報告がいくつかあります。冒険家F・A・ミッチェル＝ヘッジスがカリブの海賊エドワード・ローの財宝を発見したという伝聞や、1960年代初頭にトレジャーハンターのハワード・ジェニングスと作家のロビン・ムーアが金のネックレスや銀貨、金塊、銀の延べ棒などを発掘したという報告があります。

他にも、バッカニア「皆殺しのモンバール」ことダニエル・モンバールがカリブ海のサン・バルテルミー島に略奪品を秘匿したという伝承など、世界各地に無数の海賊財宝伝説が存在します。

財宝を探す人々

これらの伝説に触発され、海賊の隠し財宝を追い求めた数多くの冒険家、探検家、トレジャーハンターたちが存在します。マルコム・キャンベル卿はココ島での財宝探しや、キャプテン・キッドの財宝が隠されたとされるシナ海の未知の島への遠征（これは途中で中止されました）で知られています。また、セーシェル諸島のマヘ島では、クルーズウィルキンス親子が二代にわたってルバスールの財宝を追い求めています。

フィクションにおける海賊の宝

海賊が隠した財宝は、エドガー・アラン・ポーの『黄金虫』（1843年）や、ロバート・ルイス・スティーブンソンの『宝島』（1883年）といった古典的名作をはじめ、多くの小説、映画、漫画などのフィクション作品で主要なテーマとして描かれています。これらの作品は、海賊の隠し財宝に対する人々のロマンと探求心を掻き立てる上で大きな影響を与えました。

海賊の隠し財宝は、史実における存在については議論が分かれるものの、実際に発見された事例や、多くの興味深い伝説が存在します。これらの物語は今なお世界中の人々を魅了し、現代のトレジャーハンターたちを冒険へと駆り立てる源となっています。

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