添田壽一

添田壽一：近代日本の発展に貢献した多才な人物

添田壽一（そえだ じゅいち、1864年9月15日 - 1929年7月4日）は、明治から大正時代にかけて、財政家、銀行家、実業家、経済学者として活躍した人物です。彼は、大蔵官僚として近代日本の財政確立に尽力する一方で、経済学の教育・普及にも力を注ぎ、「官庁エコノミスト」の先駆けとして知られています。また、貴族院議員を務めるなど、多岐にわたる分野でその才能を発揮しました。

生い立ちと学業

添田は、筑前国（現在の福岡県）で生まれました。幼少期は、父の事業の失敗により困窮生活を送りましたが、書道の才能を発揮し、幼くして家計を助けました。しかし、大阪府知事の渡辺昇の言葉をきっかけに、書道の道ではなく学問の道に進むことを決意します。上京後、苦学の末に東京大学に進学し、フェノロサや田尻稲次郎のもとで経済学を学びました。1884年に東京大学を卒業しました。

大蔵官僚としての活躍

大学卒業後、添田は大蔵省に入省しました。同期の阪谷芳郎とともに、財政分野で頭角を現します。入省後、黒田長成の洋行に同行し、イギリスやドイツに留学しました。留学中は、ケンブリッジ大学で政治経済学を学び、マーシャルの講義も受講しました。帰国後は、主税官として租税制度の改革に取り組み、金本位制の確立に大きく貢献しました。また、大蔵次官に就任するなど、官僚として重要な役職を歴任しました。

学究・エコノミストとしての貢献

大蔵官僚としての業務と並行して、添田は東京帝国大学や早稲田大学などの教育機関で経済学を講じました。また、日本法律学校（現在の日本大学）の創立にも関わりました。彼は、経済学の啓蒙・普及活動に力を注ぎ、雑誌で経済問題を論じるなど、当時としては珍しいエコノミストとして一般に知られていました。さらに、イギリスの経済学雑誌『エコノミック・ジャーナル』の日本通信員を務め、日本の経済状況を海外に紹介しました。

社会政策への関心

添田は、社会問題にも強い関心を抱いており、社会政策学会にも参加しました。工場法の制定を主張するなど、労働者の保護にも尽力しました。ただし、彼の社会政策へのアプローチは、家族主義や温情主義に基づくものであり、より急進的な政策を主張する人々からは批判も受けました。しかし、早くから社会政策の必要性を認識していたことは、彼の先見性を示すものです。

退官後の活動

大蔵省退官後、添田は銀行家、実業家、政治家、学究として幅広い活動を続けました。台湾銀行の初代頭取、日本興業銀行の初代総裁を務めるなど、金融界で重要な役割を果たしました。また、カリフォルニア州外国人土地法への反対運動や、鉄道院総裁として鉄道広軌化を目指すなど、政治的な活動も行いました。1925年には貴族院議員に勅選され、その死まで在任しました。

その死と遺産

1929年、添田は胃癌から癌性腹膜炎を併発し、66歳でその生涯を閉じました。『エコノミック・ジャーナル』には、ケインズによって追悼文が掲載され、彼の功績を称えました。添田壽一は、近代日本の財政、経済、教育に多大な貢献をしただけでなく、社会問題にも深く関心を寄せた、多才で先見性のある人物でした。

年譜

1864年：出生。
1884年：東京大学政治学理財学科卒業。大蔵省に入省し、主税局御用掛。
1884年：非職。英ケンブリッジ大学などに留学。
1887年：留学から帰国。主税官となり主税局調査課。
1890年：同局監査課。ついで大蔵省参事官。
1891年：大蔵大臣秘書官。
1893年：監査局長心得。ついで大蔵書記官兼参事官・官房第三課長となる。
1897年：大蔵省監督局長。
1898年：大蔵次官。同年末に辞職し大蔵省も退職。
1899年：法学博士の学位を取得。台湾銀行初代頭取（ - 1901年）。
1902年：日本興業銀行初代総裁（ - 1913年）。
1913年：中外商業新報（現・日本経済新聞）社長
1915年：鉄道院総裁（ - 1916年）。
1916年：報知新聞社長。
1925年：貴族院議員（12月1日）、ついで台湾銀行監査役となり、ともに死去まで在任。
1929年：死去。

親族

坂口康蔵 - 三女の夫。医師。東京帝国大学教授。貴族院勅選議員。
五十嵐敬止 - 長女・いちの養父。貴族院多額納税者議員、衆議院議員。

栄典

位階
1890年（明治23年）10月8日 - 従六位
1898年（明治31年）12月10日 - 従四位
勲章等
1911年（明治44年）8月24日 - 金杯一組
1915年（大正4年）11月10日 - 大礼記念章
1916年（大正5年）1月19日 - 勲一等瑞宝章
1921年（大正10年）7月1日 - 第一回国勢調査記念章

主要な著作

『豫算論綱』（完） 博文館、1891年
『歳計論』（政治學經濟學法律學講習全書：第22編） 博文館、1891年
『財政通論』（上下編） 金港堂書籍、1892年
『法制経濟大意』（法制篇） 金港堂書籍、1899年
『法制経濟大意』（経濟篇） 金港堂書籍、1899年
『破壞思想と救治策』 博文館、1911年
『富國策論』（述 / 菊池暁汀：編） 丸山舎、1911年
『實用一家經濟法』（述 / 菊池曉汀：編） 大學館、1913年
『最新通俗經濟講話』（菊池曉汀：編） 大學館、1914年
『國家個人富強策』（菊池曉汀：編） 大學館、1914年
『戰後國民經濟策』 大鎧閣、1919年
『財政經濟講話』 日本書院、1924年

翻訳

* 惹穏 (ゼボン) 著、添田寿一 訳、井上哲次郎 閲 編『論理新編』丸家善七、1883年。

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