渋川義鏡

渋川義鏡：室町時代の武将、関東での失脚とその後

渋川義鏡（しぶかわ よしかね/よしみ）は、室町時代中期から後期にかけて生きた武将です。彼は室町幕府から関東に派遣された堀越公方・足利政知の補佐役として共に下向しましたが、扇谷上杉家との対立により、その地位を失いました。彼の生涯を辿り、その事績を詳しく見ていきましょう。

生涯

関東下向

渋川義鏡は、渋川義俊の子として生まれました。前半生については詳しい記録が残っていませんが、正長元年（1428年）に父とされる義俊が隠居したものの、九州探題職は譲られませんでした。代わりに、義俊の従兄弟である満直が次の探題に就任しています。

長禄元年（1457年）、8代将軍・足利義政の命により、異母兄の天龍寺香厳院主・清久が還俗し、鎌倉公方・足利政知として翌年に関東に下向することになりました。義鏡もこれに同行しましたが、これは渋川氏が足利氏一族の中でも家格が高い家柄であったこと、そして関東に渋川氏の分家が存在していたことが理由であると考えられています。

ただし、『鎌倉大草紙』によれば、義鏡は既に長禄元年に「関東探題」として関東に下向し、兵を募ったものの不足していたため、義政に将軍家の者の派遣を要請したとも伝えられています。

攻勢頓挫

長禄2年（1458年）、足利政知は伊豆国堀越に拠点を構え（堀越公方）、その年の8月には古河公方・足利成氏側の武将であった岩松持国が幕府側へ寝返っています。政知は関東下向前の3月に持国へ帰服を促す御教書を送っており、義鏡がそれに副状を添えていました。この頃から、義鏡は政知の執事として活動するようになります。

しかし、堀越府は軍事力が不足しており、幕府は成氏討伐のために斯波義敏に関東への出陣を命じました。また、義鏡は渋川一族の動員を認められ、義俊の同母弟（義鏡にとっては叔父にあたる）とされる渋川俊詮は、翌長禄3年（1459年）に武蔵国浅草で病死しています。

斯波義敏は執事の甲斐常治と対立し、長禄合戦を引き起こしました。義政は当初両者を和解させようとしましたが、対立は収まらず合戦に至ります。義敏は11月の再出陣命令には従ったものの、長禄3年5月に軍を越前国へ向け、甲斐派の金ヶ崎城を攻めて大敗を喫しました。これに激怒した義政は義敏を廃嫡し、わずか3歳の息子・松王丸を次の当主に据えました。

斯波氏不在となった関東の幕府軍は、10月に前線基地である五十子陣付近の太田庄で古河公方と戦いましたが敗北し、成氏討伐は失敗に終わりました（五十子の戦い）。この間、義敏は周防国の大内教弘のもとへ逃れ、甲斐常治も8月に死去しています。

義廉の斯波氏相続

寛正元年（1460年）正月、幕府側の有力大名であった今川範忠が駿河国に帰国し、4月には政知の陣所である国清寺が古河公方側に焼き討ちされたため、政知は本拠を堀越御所へ移しました。今川範忠の帰国は、長禄合戦の影響で前年に遠江国で戦乱が起こり、範忠の一族である今川範将が遠江に侵攻したことに関係していると考えられています。斯波氏も遠江へ鎮圧のために甲斐敏光と朝倉孝景を出兵させ、関東にも出陣しています。この機に乗じて、政知は斯波軍を利用して鎌倉に入ろうとしましたが、8月に義政によって制止されています。

しかし、関東からは使者が上洛し、堀越府は依然として戦力不足であり、更なる軍勢の動員が必要であると訴えました。寛正2年（1461年）に松王丸が廃嫡され、代わりに義鏡の息子である義廉が斯波氏を継承したことは、義政が堀越府の要望に応えた結果であると言われています。

失脚

寛正2年、義鏡と共に政知を支えた上杉教朝が自殺し、その子・政憲が後を継いで関東に下向しました。また、扇谷上杉家家宰の太田道真も隠居しました。

寛正3年（1462年）、上杉持朝の謀反の噂が流れました。義政は政知に持朝の保護を命じましたが、前年の7月頃には持朝の相模国守護としての活動が停止され、堀越府がその支配権を接収していました。さらに、三浦時高・大森氏頼・実頼父子・千葉実胤ら扇谷上杉家の重臣が隠遁しました。これらの出来事は前年の教朝の自殺、道真の隠居と連動しており、堀越府が幕府に持朝を讒言した結果、重臣が代わりに責任を取ったものと考えられ、その黒幕は義鏡であると言われています。

この年を最後に、義鏡の活動は途絶え、義政の御内書も義鏡には出されなくなります。堀越府と関東諸将との争いを見た幕府は扇谷上杉家の側に立ち、義鏡を退ける措置に出たと見られています。

その後

失脚した義鏡の動向は明らかではありません。一説には、蕨郷へ隠居し、養子の義堯が蕨城主になったとも伝えられています。

義鏡がいなくなった後、義政は再び斯波氏の動員を考え、義敏を当主に復帰させようと動き出しました。かつて対立した甲斐常治が死去したため、義敏を主とした遠征軍を再び組織しようとしたのですが、義廉がこれに反発し、舅である山名宗全を頼ったことから、文正の政変が起こり、やがては応仁の乱へと発展していきました。

また、義鏡に代わって叔父である俊詮の子孫が御一家としての待遇を受けましたが、この系統も応仁の乱以降に没落し、永正年間以降は京都から渋川氏の動向を伝える記録は見られなくなります。

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