渋沢元治

渋沢元治

渋沢元治（しぶさわ もとじ、1876年10月25日 - 1975年2月22日）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の電気工学者です。工学博士の学位を持ち、東京大学教授、同大学名誉教授、そして名古屋帝国大学の初代総長を歴任しました。子爵・渋沢栄一の甥であり、同時に孫婿という複雑な関係にあります。また、男爵・穂積陳重を義父に、法学者である穂積重遠を義兄に持ちます。

生い立ちと学歴

渋沢元治は、埼玉県榛沢郡血洗島村（現在の深谷市血洗島）の旧名主の家系に生まれました。父は渋沢市郎、母は渋沢栄一の妹である貞です。高等小学校卒業後、親の反対を押し切って進学を決意。当時の埼玉県には中学校がなかったため、上京し、伯父である渋沢栄一の娘婿、阪谷芳郎邸で書生として働きながら、成立学舎に入学しました。その後、東京府尋常中学校に編入し、同級生には児玉秀雄がいました。第一高等学校への推薦が得られなかったため、日本中学校を経て第一高等学校に入学、東京帝国大学工科大学（電気工学科）を卒業しました。

電気工学者としての貢献

大学卒業後、当時新進分野であった電気の世界に進むことを決意し、伯父の渋沢栄一の反対を押し切って逓信省に入省しました。逓信省では、電気試験所第1部長、同第3部長、電気局技術課長を歴任し、電気事業法や電気設備技術基準の前身である電気工作物規程の制定、電気主任技術者制度の改革に尽力しました。これらの業績は、日本の電気保安体制の確立に大きく貢献しました。

その後、東京帝国大学教授、同工学部長を経て、名古屋帝国大学初代総長に就任しました。これらの要職を歴任し、日本の工学教育と研究の発展に尽くしました。彼の業績を称え、電気界には「澁澤賞」が設けられています。また、1955年には文化功労者に選ばれました。

人物と趣味

渋沢元治は、その卓越した業績だけでなく、人格的にも尊敬を集めた人物でした。趣味は謡曲という一面も持っていました。

栄典

1919年（大正8年）8月11日 - 正五位
1930年（昭和5年）12月5日 - 帝都復興記念章
1934年（昭和9年） - 正三位
1937年（昭和12年） - 正二位
1943年（昭和18年） - 勲一等瑞宝章

家族・親族

父：渋沢市郎（1847年 - 1917年）
母：貞（1852年 - 1910年） - 渋沢栄一の妹
弟：治太郎（1878年 - 1942年）
妻：孝子（1887年 - 1955年） - 穂積陳重と歌子の長女
長男：享三（1913年 - ?）

妻の孝子は、渋沢栄一の長女であり、元治の従姉にあたります。渋沢家と穂積家の姻戚関係は複雑であり、この点も特筆されるべきでしょう。

参考文献

鈴木徳三郎編『八基村郷土誌』栗田宗次、1913年。
人事興信所編『人事興信録 第13版 上』人事興信所、1941年。
人事興信所編『人事興信録 第14版 上』人事興信所、1943年。
人事興信所編『人事興信録 第15版 上』人事興信所、1948年。

外部リンク

* 五十年間の回顧（国立国会図書館デジタルコレクション、デジタル化資料送信サービス限定公開）渋沢元治著、渋沢先生著書出版事業会


渋沢元治は、日本の電気工学の発展に大きく貢献した人物であり、その功績は今日においても高く評価されています。

もう一度検索