焼津神社

焼津神社は、静岡県焼津市焼津に位置する神社です。古くは「入江大明神」と呼ばれ、ヤマトタケルの東征伝説にまつわる神社として知られています。現在では神社本庁の別表神社となっており、地域の人々から深く信仰されています。

祭神

焼津神社では、以下の四柱の神々が祀られています。

主祭神
日本武尊（やまとたけるのみこと）：第12代景行天皇の皇子。
相殿神
吉備武彦命（きびたけひこのみこと）
大伴武日連命（おおとものたけひのむらじのみこと）
七束脛命（ななつかはぎのみこと）

相殿に祀られている三柱の神は、日本武尊の東征に従った従者とされています。

ヤマトタケルと焼津

『日本書紀』や『古事記』によると、ヤマトタケルは東征の途中で賊の火攻めに遭いましたが、草薙剣で草を薙ぎ払い、向かい火をつけて難を逃れたとされています。この出来事から、その地は「ヤキツ」（焼津）と呼ばれるようになったと伝えられています。

ただし、『日本書紀』では「ヤキツ」の所在地を駿河国、『古事記』では相武国（相模国）と記述しており、異同があります。この点については、相武国を誤記とする説、相模国が古くは駿河国を含む広域であったとする説、駿河と相模の両方に「ヤキツ」が存在したとする説などがあります。しかし、『焼津市史』では、『日本書紀』の記述がより原初的であり、『古事記』の記述は編纂過程で関東地方の征討に重点が置かれたため、伝承地が相模に移されたと推測しています。

また、『万葉集』には駿河の地名として「焼津邊」と詠まれた歌があり、平安時代の『和名抄』には駿河国に「益頭（ましづ）」という地名があったことが記されています。これは「ヤキツ」の「焼」を忌み嫌い、「益」を当てたものと考えられています。駿河国には、同じくヤマトタケルの火難伝説を伝える草薙神社も存在します。

祭神については、市杵島姫命とする説もあり、『駿河国式社備考』では摂社の市杵島姫命社を元社とする説を挙げています。文献においては、中世に「入江大明神」という表記が最も早く見られ、江戸時代頃から市杵島姫命説や日本武尊説が登場しています。

歴史

創建

社伝によれば、景行天皇40年に日本武尊が東征の際に当地で野火の難を逃れ、その後、反正天皇4年に日本武尊の功績を称えて神社が創建されたとされています。しかし、今日までの研究では、ヤマトタケルは実在の人物ではなく、伝説は各地の伝承をまとめたものと考えられています。また、地名起源説話も、実際には実在の地名を元に作られたと推測されています。「ヤキツ」という地名の由来については、焼津地域が天然ガスの埋蔵地であることから、ガスが引火して燃え続けたことに由来するという説もあります。

焼津神社付近には、古墳時代の集落跡である宮之腰遺跡があり、古くから人々が居住していたことがわかります。また、神社の祭祀では、御沓脱・北御旅所・神岩といった神蹟が重要視されています。これらの神蹟は、海岸線から神岩→北御旅所→御沓脱→焼津神社（宮之腰遺跡）のように並んでおり、海の彼方から神を迎える「神の道」の名残りとされています。このことから、焼津神社の原祭祀は常世神信仰であったとする説があり、その信仰を基盤として、後にヤマトタケル伝説が重なったと考えられています。

『志太郡誌』には、焼津神社は古くは現在の場所から南東方向に数キロメートル離れた場所に鎮座していたが、土地が海へと変わってしまったため、現在の場所に移されたと記されています。

概史

延長5年に成立した『延喜式』神名帳には、駿河国益頭郡に「焼津神社」と記載され、式内社に列しています。『駿河国内神名帳』には、「焼頭明神（焼津明神）」として、正四位下の神階を有することが記されています。

中世には今川氏からの崇敬を受け、今川氏親からは社領として500石が寄進されました。永禄4年の今川氏真朱印状には「入江大明神」と見え、社殿の修理と費用の徴収許可について記されています。江戸時代には、徳川家康から70石の朱印領が寄進され、幕末まで継承されました。神職は鈴木家が世襲し、社僧は真言宗入江山長福寺が担っていました。

明治維新後、明治6年に郷社、明治16年に県社に昇格し、昭和41年には神社本庁の別表神社となりました。

神階

正四位下（『駿河国内神名帳』）

境内

本殿は流造、拝殿は入母屋造です。

本殿：慶長8年に徳川家康によって建てられました。
摂末社：以下の摂社・末社、境内関係社があります。
摂社
市杵島姫命社：市杵島姫命を祀り、焼津神社の元社とする説があります。
須賀神社：須佐之男命、奇稲田姫命、大己貴命を祀る飛地境内社です。
末社
七社合殿：浅間神社、竈神社、天王社、八幡社、橘姫社、春日社、稲荷社の七社を合祀しています。
五社神社：市神社、天神社、天白社、藤之宮神社、王子神社の五社を合祀しています。
稲荷神社：宇迦之御魂を祀っています。
境内社
焼津天満宮：菅原道真公を祀っています。
焼津御霊神社：西南戦争から第二次世界大戦までの国難で殉じた焼津市出身の英霊を祀っています。
郷魂祠：第二次世界大戦中、東南アジアで殉職した皇道産業焼津践団の殉職者を祀っています。

関係地

神岩：焼津神社東方の海上にあった岩で、日本武尊が腰掛けたとされています（現在は水没）。
北御旅所：例祭で神輿渡御の際、神輿が立ち寄る場所です。日本武尊の上陸地とされ、特別な神饌が供えられます。
御沓脱：日本武尊が休息し、老女から小麦飯を奉られた場所と伝えられています。

祭事

焼津神社では、年間を通して様々な祭事が行われています。

年間祭事

月次祭（毎月1日・15日）
御霊神社月次祭（毎月15日）
歳旦祭、大漁祈願祭（1月1日）
節分祭（2月節分日）
紀元祭（2月11日）
祈年祭（2月17日）
春分の日当日祭、稲荷社祭（春分の日）
大祓、夏越祈願祭（6月30日）
御注連下し祭、市神社祭（8月1日）
御沓脱祭、夕祭、御神楽祭（8月12日）
例祭、神幸式（8月13日）
秋分の日当日祭、市杵島姫命社祭（秋分の日）
天満宮祭（9月25日）
須賀神社前夜祭・例祭（10月16日-17日）
郷魂祠前夜祭・例祭（10月27日-28日）
金山祭（11月8日）
新嘗祭（11月23日）
鎮火祭、竈神社祭（12月17日）
天長祭（12月23日）
除夜祭（12月31日）

例祭

例祭は8月13日に行われ、「荒祭り」と呼ばれる神輿渡御が有名です。前日の12日には、御沓脱祭、夕祭、御神楽祭、幟かつぎ、神ころがしなどの神事が行われます。「幟かつぎ」は、生後3年間の子供たちが幟をかついで参拝する成長祈願の神事であり、「神ころがし」は、1年目の子供を拝殿前で転がす鎮魂祈願の神事です。

13日の神輿渡御は、2基の神輿が市内を練り歩く勇壮な神事であり、神輿の激しい動きは神霊の活発さを表すとされています。神輿は、焼津神社から南御旅所、北御旅所、魚市場御旅所、焼津御旅所を巡ります。特に北御旅所では大祭式が行われ、特別な神饌が供えられます。神輿渡御の行列では、獅子頭と獅子幕を持った少女たちが木遣り歌を歌いながら練り歩く「獅子木遣り」が行われます。

「神ころがし」と「獅子木遣り」は、国の選択無形民俗文化財に選択されています。

文化財

選択無形民俗文化財（国選択）
焼津神社の獅子木遣りと神ころがし
静岡県指定文化財
焼津神社の獅子木遣り
焼津市指定文化財
今川氏真朱印状（古文書）

現地情報

所在地：静岡県焼津市焼津2丁目7-2
交通アクセス：JR東海道本線焼津駅から徒歩約15分

参考文献

神社由緒書
境内説明板
自治体史
『焼津市史』焼津市
百科事典
『国史大辞典』吉川弘文館
『日本大百科全書（ニッポニカ）』小学館
『角川日本地名大辞典 22 静岡県』角川書店
『日本歴史地名大系 22 静岡県の地名』平凡社
その他書籍
『府県郷社明治神社誌料』明治神社誌料編纂所
『日本の神々 -神社と聖地- 10 東海』白水社
『式内社調査報告 第9巻』皇學館大学出版部

関連項目

草薙神社

外部リンク

焼津神社 - 公式サイト
焼津神社 - 焼津市ホームページ
* 焼津神社 - 静岡県神社庁

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