玄玄碁経

玄玄碁経（げんげんごきょう）

『玄玄碁経』は、中国の古典的な囲碁の棋書であり、南宋時代に著され、元代に再編されて現在に伝えられています。現存する棋書としては『忘憂清楽集』に次いで古いものとされ、詰碁や手筋などの問題が多数収録されていることから、日本でも江戸時代から現代に至るまで囲碁の勉強に活用されています。『玄玄集』、『玄々碁経』と表記されることもあります。

成り立ち

南宋時代末期、廬陵出身で当時の強豪であった厳師（字は徳甫）と晏天章が共同で編纂し、元の至正7年（1347年）に学者である虞集が再編して出版しました。元々は「玄玄経」という題名でしたが、虞集が「玄玄棋経」と改名しました。この名は老子の「玄之又玄衆妙之門」に由来します。その後、明代の『永楽大典』、清代の『四庫全書』にも収録されましたが、原本とされるものは現存していません。日本では17世紀の寛永年間に『玄玄碁経』として出版されました。

内容

『玄玄碁経』は、「序の部」「変の部」「勢の部」の三部構成となっています。

序文

虞集、晏天章、欧陽玄による序文が付されています。虞集の文では、囲碁の起源を堯・舜の発明に遡らせ、元の文宗に囲碁を勧めたこと、『玄玄経』の成り立ちや囲碁の陰陽道上の意味などが述べられています。

序の部

囲碁論を集めた部分であり、班固『弈旨』、馬融『囲棋賦』、柳宗元『序棋』、皮日休『原弈』、呂公『悟棋歌』、徐宗彦『四仙子図序』、張擬「『碁経』十三篇」、劉仲甫『碁法四篇』（『棋訣四篇』）、王積薪『囲碁十訣』などが含まれています。

「『碁経』十三篇」は『忘憂清楽集』にも収録されており、囲碁の「品格」を9段階に分けて述べています（囲碁九品）。この区分は、現在の日本棋院などのプロ棋士の初段から九段までの免状の文面として使われています。

「碁法四篇」には兵法に擬した記述も見られ、『孫子』などの影響が窺えます。劉仲甫は宋代の代表的な棋士とされ、囲碁の技量をもって宮中に仕え、当時無敵を誇りました。

変の部

定石や布石、及び実戦譜が収録されています。ただし、当時の囲碁はあらかじめ黒白2子ずつを隅の星に置いてから打ち始めるものであり、布石理論も現代とは異なるため、現代の囲碁においては参考にならない部分もあります。

勢の部

詰碁や手筋の問題、珍瓏など376題が収録されています。これらの問題の中には『忘憂清楽集』にある題材も含まれており、現代において知られている手筋をほぼ網羅しているとも言われ、当時の囲碁のレベルの高さを物語っています。以後の棋書にも大きな影響を与えました。各題には「楚漢争鋒」「王質遇仙」といった歴史故事にちなんだ表題が付けられています。

日本での出版物

日本では、以下のような出版物があります。

橋本宇太郎編『玄々碁経新定本（現代囲碁全書）』誠文堂新光社 1935年
橋本昌二『名作詰碁辞典　玄玄碁経と発陽論 』誠文堂新光社　1976年
呉清源編『玄玄碁経集(1)(2)』平凡社（東洋文庫） 1980年
橋本宇太郎編『玄玄碁経』山海堂 1980年
橋本宇太郎編『玄玄碁経 囲碁古典シリーズ』山海堂 1997年（1980年の再刊）
橋本宇太郎編『玄玄碁経—詰碁の古典』山海堂 2004年（1997年の改訂）
高木祥一編『玄々碁経（上）（下）』教育社 1989年（1995年再刊）
二口外義編『玄玄碁経入門』山海堂 1996年

参考文献

* 中野謙二『囲碁中国四千年の知恵』創土社 2002年

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