現代詩ラ・メール

現代詩ラ・メール

『現代詩ラ・メール』（げんだいしラ・メール）は、1983年夏に誕生した季刊の詩専門誌です。特に「女性のための詩誌」として企画され、1993年春にその歴史に幕を閉じるまで、通巻40号が刊行されました。

この詩誌は、詩人の新川和江と吉原幸子の二人が中心となり、当初は思潮社から発行されました。誌名の「ラ・メール」はフランス語で「海」を意味し、「すべての生きものが生まれるふるさと」というイメージが込められています。編集方針としては、「女性詩の流れ」を縦糸に、「多様な分野で活動する女性の作り手たち」を横糸として織り上げるという、独自のコンセプトを掲げていました。編集には、白石かずこ、新藤涼子、高橋順子、小柳玲子といった詩人たちも名を連ねていました。

創刊から20号までは思潮社が発行元でしたが、21号からは書肆水族館（しょしすいすいかん）に発行元が移ります。これは創刊編集人の一人である新川和江が代表を務める出版社でした。しかし、1990年頃から吉原幸子の体調が悪化したことを受け、創刊時に交わされたという「どちらかが倒れたら終刊とする」という約束に従い、1993年の通巻40号をもって廃刊となりました。

全盛期には、定期購読する読者が1300人を超えるなど、多くの読者に支持されていました。発行元は途中で変わりましたが、一般の書店での発売は終刊まで一貫して思潮社が担っていました。

創刊から40年を経た2023年には、当時の編集者たちが執筆した回顧録『現代詩ラ・メールがあった頃 1983.7.1 ― 1993.4.1』が刊行され、改めてその存在が注目されました。

特集テーマと対談

各号では、幅広いテーマが特集として取り上げられ、多くの女性作家やアーティスト、文化人などが登場しました。特に吉原幸子による対談企画は人気を博し、様々な分野のゲストが招かれました。（※31、38～40号は対談なし）

思潮社発行期（1983～1988年）
創刊号: 女性詩・水平線（対談：大庭みな子）
2号: 女・果実 詩歌展（対談：岸田今日子）
3号: 現代の相聞歌（対談：田辺聖子）
4号: 家へのアプローチ（対談：山崎ハコ）
5号: 海外女性詩・水平線（対談：佐多稲子）
6号: 身体（対談：ヨネヤマママコ）
7号: 近未来・遠未来（対談：瀬戸内寂聴）
8号: 少女たち（対談：如月小春）
9号: 真夏の夜の夢（対談：三枝和子）
10号: 女たちの映像（対談：高野悦子）
11号: 全国同人誌・水平線（対談：デニス・レヴァトフ、水田宗子）
12号: 女の中の鬼（対談：馬場あき子）
13号: 女たちの日本語（対談：丸木俊）
14号: 性はどのように表現されたか（対談：茨木のり子）
15号: 父よ！（対談：干刈あがた）
16号: 全国同人誌・水平線1987（対談：宮城まり子）
17号: 街へ—何が見えるか（対談：岸田理生）
18号: 幸福の尺度（対談：江波杏子）
19号: メルヘン（対談：立原えりか）
20号: 手紙詩（対談：尾崎左永子）

書肆水族館発行期（1988～1993年）
21号: 女と男（対談：宮迫千鶴、戸川純）
22号: アジアの女性詩（対談：石井好子）
23号: スポーツ（対談：長田渚左）
24号: 新鋭同人詩誌展（対談：加藤幸子）
25号: 怪談（対談：俵万智）
26号: 童謡（対談：波瀬満子）
27号: 料理（対談：やまだ紫）
28号: 狂気（対談：吉田加南子、柴田千秋）
29号: 同人誌秀作展（対談：工藤直子）
30号: わたしの詩論（対談：山本道子）
31号: 資料・女性詩の中の戦後
32号: 愛について（対談：佐野洋子＋谷川俊太郎）
33号: 仮面（対談：増井光子）
34号: 新鋭作品展（対談：石内都）
35号: こども（対談：石井桃子）
36号: ミステリー（対談：戸川昌子）
37号: 男に（対談：平田俊子）
38号: 全国同人誌・水平線1992
39号: 20世紀女性詩選
40号: はばたく詩人たち

詩作以外の連載としては、山本道子の「夢無と冬子の悪夢」、やまだ紫の「樹のうえで猫がみている」、谷山浩子の「マイライフ・マイソング」、白石かずこの「ミッシング・リンク・ステーション」などがありました。

各種公募賞

『現代詩ラ・メール』は、新人を発掘・育成するための公募賞も実施していました。

ラ・メール新人賞
第1回（1984年）: 鈴木ユリイカ
第2回（1985年）: 中本道代
第3回（1986年）: 笠間由紀子
第4回（1987年）: 國峰照子
第5回（1988年）: 柴田千晶（柴田千秋）
第6回（1989年）: 小池昌代
第7回（1990年）: 岬多可子
第8回（1991年）: 千葉香織
第9回（1992年）: 高塚かず子
第10回（1993年）: 宮尾節子

ラ・メール短歌賞
第1回（1987年）: 柚岡華子
第2回（1989年）: 飴本登之
第3回（1991年）: 宮崎郁子
第4回（1993年）: 中里茉莉子

ラ・メール俳句賞
第1回（1988年）: 小津はるゑ（名取里美）
第2回（1990年）: 高浦銘子
* 第3回（1992年）: 松本有宙

これらの賞を通じて、多くの新たな才能が世に出るきっかけとなりました。

また、『女を生きる女たち』、『今をはばたく女たち』といった吉原幸子の対談集や、『現代詩ラ・メールがあった頃』などの関連書籍も刊行されています。

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