甌雒

甌雒（おうらく）

甌雒（Âu Lạc）は、ベトナム史に登場する古代国家で、現在のベトナム北部を中心に紀元前3世紀頃に存在しました。その名称は、漢字で「甌貉」や「甌駱」とも表記され、日本語では「オーラック」「アウラク」などとカナ表記されることもあります。

建国と概要

甌雒は、古蜀の王子であった蜀泮（しょくはん）によって建国されました。蜀泮は、古蜀最後の王、蘆子覇王の子とされ、中国四川地方からベトナム北部に移住し、山岳地帯の甌越地域（現在のベトナム最北部と中国南部の一部）と、紅河デルタに広がる雒越（現在のベトナム北部）を統合しました。蜀泮は甌雒の唯一の君主となり、安陽王（あんようおう）として国を統治しました。

建国までの経緯

文郎国（ぶんろうこく）の末期、18代目の雄王（ゆうおう）は酒色に溺れ、軍備を怠っていました。その結果、秦の侵攻を招き、4年間の戦争の末、文郎国は秦軍を北部に受け入れざるを得なくなりました。しかし、文郎人と共存していた西甌（せいおう）の人々は秦に抵抗し、雒越の人々も支配を拒否して森林に逃れました。彼らは蜀泮を指導者として、6年間にわたる抗戦の末、秦軍を撃退しました。その後、西甌と雒越の人々から推戴された蜀泮は、雄王から譲位を受けて紀元前257年に甌雒を建国しました。同時期には、文郎国の北に位置していた南崗国（なんこうこく）も併合しています。

統治と発展

蜀泮は安陽王と名乗り、都を封渓（フォンケー、現在のハノイ中心部から16km北）に定めました。封渓は、現在のハノイ北部のドンアイン県コーロア社に位置し、当時、国内で最も人口が密集していました。また、隣接するホアン川は、ソンコイ川（紅河）とその支流であるカウ川を結ぶ重要な水上交通路でもありました。甌雒の行政機構は、雒侯（らくこう）を中心に分割され、それぞれ蒲正（ボーチン）と呼ばれる知事が配置されました。しかし、建国経緯から安陽王の権限は非常に強く、特に統治初期には、銅製農耕具の製造と改良が進み、農業生産性が大幅に向上しました。また、建築や冶金技術も発展し、この時代以降、多くの鉄製品が発掘されています。

古螺城（コロジョウ）

秦の再侵攻に備え、安陽王は封渓に古螺城（コロジョウ）を築きました。古螺城は、三重の土塁と水堀からなる巨大な城塞で、外郭の周長は約8km、中郭は約6.6km、内郭は約1.6kmにも及びました。内郭の高さは5〜10mに達しました。ホアン川とカー沼を利用して築かれ、その形状が巻貝に似ていることから、「螺（タニシ）城」とも呼ばれ、この地域名の語源となりました。城内には、銅製の武器や兵士が蓄えられ、多くの弩が配備されていました。また、カー沼は水軍の訓練場としても利用され、軍船が常に駐留していました。

南越との攻防

甌雒が防衛を固める一方、秦は衰退し、諸侯が割拠する時代を迎えていました。秦の将軍であった趙佗（ちょうだ）は、広東・広西地方を任されていましたが、秦の滅亡後、紀元前207年に独立して番禺（はんぐう）を都とする南越国（なんえつこく）を建国しました。甌雒は南越からの侵攻を受けましたが、堅固な守りでこれを撃退し、趙佗は講和を結んで撤退しました。しかし、南越は侵略を諦めず、趙佗は安陽王と諸将の仲を疎遠にする計略を巡らせ、婚姻外交によって甌雒との緊張を緩和させていきました。

滅亡

紀元前179年、甌雒国内で内乱が発生し、カオ・ローやノイ・ハウなどの諸将が安陽王のもとを去りました。その隙をつき、南越軍が再び甌雒に侵攻し、安陽王の軍は各地で敗北しました。南越に対する警戒が緩んでいたこともあり、甌雒は瞬く間に制圧され、南越に併合されました。

金の亀伝説

甌雒の興亡には、「金の亀」にまつわる伝説が残されています。この伝説は、甌雒の歴史と文化を語る上で重要な要素となっています。

脚注

甌雒は、ベトナム史において重要な位置を占める古代国家であり、その文化や歴史は、現代のベトナムにも大きな影響を与えています。

参考文献

ファン・ゴク・リエン監修、今井昭夫他訳『ベトナムの歴史』明石書店、2008年8月31日
『物語ヴェトナムの歴史一億人国家のダイナミズム』中公新書
石井米雄、桜井由躬雄編『東南アジア史 I 大陸部』山川出版社、1999年12月20日
桐山昇、栗原浩英、根本敬編『東南アジアの歴史―人・物・文化の交流史』有斐閣、2003年9月30日
Trần Trọng Kim. Việt Nam sử lược

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