田部芳

田部芳（たなべ かおる）

田部芳は、万延元年（1860年）に生まれ、昭和11年（1936年）に没した、明治から昭和にかけての法曹界で重要な役割を果たした人物です。彼は大審院検事や大審院部長判事を歴任し、特に商法起草委員として新商法の成立に尽力しました。滋賀県出身者として、司法省法学校の同期である河村譲三郎と共に、最初の法学博士の一人となりました。

生涯

生い立ちと教育

田部芳は、万延元年9月19日（1860年11月1日）に、彦根藩士の家に生まれました。父の田部密は、明治維新後に大和国の郡長を務めるなど、地方行政に貢献しました。芳は裕福な家庭環境で育ち、判事を志して上京。東京外国語学校を経て、1879年に司法省法学校（後の東京大学法学部）に入学しました。

司法省法学校では、梅謙次郎、河村譲三郎、松室致、富谷鉎太郎、秋月左都夫、飯田宏作、古賀廉造、手塚太郎、寺尾亨、水上長次郎など、錚々たるメンバーと同期でした。

法曹としてのキャリア

1884年に司法省法学校を卒業後、司法省に入省。1886年からは、法学研究のためヨーロッパへ留学し、フランスのソルボンヌ大学やドイツのライプツィヒ大学で学びました。1890年に帰国後、判事試補、判事を経て東京控訴院判事に就任。また、東京帝国大学法科大学の講師も兼務し、商法を担当しました。

1893年には司法省参事官となり、法典調査委員を命じられます。1894年、商法修正案起草委員に任命され、梅謙次郎らと共に改正作業に携わりました。1898年には、商法修正案が帝国議会に提出され、施行されるに至りました。

大審院での活躍と晩年

商法修正案の提出後、田部は司法省参事官と検事を兼務し、大審院検事も務めました。1899年には法学博士号を授与され、1906年には判事に転じ、大審院部長判事に就任しました。長年の功績が認められ、勲一等瑞宝章を授与され、親任官待遇となりました。1923年に大審院部長判事を退任後は、悠々自適な生活を送り、1936年に生涯を閉じました。

業績とエピソード

田部芳は、商法改正に尽力しただけでなく、法曹界において清廉潔白な人物として知られていました。名誉や私利私欲に無頓着で、研究に没頭する日々を送りました。また、部下や同郷の学生の面倒見が良く、多くの人々に慕われていました。会食を好まなかったというエピソードからは、判事としての立場をわきまえ、厳しく自らを律する姿勢がうかがえます。

家族

妻の志な子（支那子）は、宮津藩家老・河瀬家の出身で、河瀬秀治の長女です。夫婦仲は良好で、五男二女に恵まれました。妹の富谷ヤスは、富谷鉎太郎の妻であり、富谷鉎太郎は東京控訴院長、大審院院長、貴族院勅選議員、明治大学総長を歴任しました。

主要著作

田部芳は、数多くの論文や著作を発表しており、当時の法学界に大きな影響を与えました。

行政裁判所及び司法裁判所の権限（1891年）
判事検事登用試験委員及び弁護士試験委員の組織を論ず（1892年）
白紙手形ニ就テ（1895年）
商法ニ規定セル会社ノ罰則ニ就テ（1896年）

まとめ

田部芳は、明治から昭和にかけての法曹界において、重要な役割を果たした人物です。商法改正への貢献、清廉潔白な人柄、そして後進の育成など、彼の功績は多岐にわたります。彼の生涯は、日本の法制度の発展に大きく寄与したと言えるでしょう。

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