白馬毅
白馬 毅
白馬 毅（はくば たけし）は、1983年5月5日にモンゴルのウランバートル市（出生地はトゥブ県）で生まれた元大相撲力士です。本名をアリオンバヤル・ウヌルジャラガラといい、陸奥部屋（入門時は立田川部屋）に所属していました。身長186cm、体重127kgという体格で、左四つからの寄りや投げを得意としていました。最高位は2010年7月場所に記録した東小結です。しかし、2011年に発覚した大相撲八百長問題に関与したとされ、日本相撲協会から引退勧告を受け、土俵を去ることとなりました。
来歴
白馬が日本の相撲界に足を踏み入れたのは1998年12月のこと。見習いとして陸奥部屋に入ります。当初は陸奥部屋に入門する予定でしたが、先輩力士の日本帰化が進まず外国人枠の問題が生じたため、翌1999年末に同じ時津風一門の立田川部屋に入門することになりました。2000年1月場所で初めて土俵に上がり、力士としてのキャリアをスタートさせます。同年9月には、師匠である元関脇・青ノ里の立田川親方が停年を迎えて部屋が閉鎖されたため、他の力士たちと共に陸奥部屋へと移籍しました。奇しくも当初入門を予定していた部屋に戻ることになったのです。
新天地となった陸奥部屋で迎えた2001年1月場所では、序二段で7戦全勝という圧倒的な成績を収め、自身初となる各段優勝を果たしました。これは新生陸奥部屋にとっても初めての優勝力士誕生でした。その後、三段目の壁に苦労しましたが、2003年1月場所で念願の幕下昇進を果たします。小柄な体格のため幕下中位では2年以上にわたり苦戦が続きましたが、2006年に入ると幕下上位に定着する実力をつけます。そして同年11月場所、自己最高位となる東幕下2枚目で再び7戦全勝優勝を飾り、翌2007年1月場所での新十両昇進を決めました。
十両に昇進してからも勢いは衰えず、2007年1月場所と3月場所で連続して勝ち越し。5月場所では負け越したものの、続く7月場所で再び勝ち越しを収めます。しかし、その後の夏巡業中に右膝を負傷し、手術を受けることになりました。この手術により、右膝の半月板の8割が欠落するという深刻な状態になってしまいます。充分な稽古ができないまま迎えた同年9月場所では、前半5連敗と苦しい立ち上がりでしたが、そこから盛り返して8勝7敗と見事に勝ち越しを決め、怪我を乗り越える強さを見せました。翌11月場所は5勝10敗と大きく負け越しましたが、2008年3月場所では西十両3枚目で8勝7敗と勝ち越し、翌5月場所での新入幕を果たしました。
初めての幕内では西前頭16枚目の位置で4勝11敗と大きく負け越し、わずか1場所で十両へ逆戻りとなりました。しかし、諦めずに努力を重ね、2010年1月場所で10場所ぶりとなる幕内への返り咲きを果たします。この場所で9勝6敗と、幕内では自身初となる勝ち越しを記録しました。勢いに乗り、自己最高位となる東前頭9枚目で迎えた翌3月場所でも8勝7敗と勝ち越し。9日目には人気力士の高見盛を小褄取りで破るなど、印象的な相撲も見せました。さらに番付を西前頭5枚目と上げた翌5月場所では、10日目に勝ち越しを決め、初顔合わせだった2大関（日馬富士・琴欧洲）を撃破するなど活躍。この場所を10勝5敗で終え、幕内での自身初の二桁勝利を挙げました。
この活躍が認められ、翌7月場所では新三役となる東小結へと昇進。しかし、この場所は横綱・大関陣（途中休場した魁皇を除く）に対して白星を挙げることができず、4勝11敗と大きく負け越してしまいます。さらに、この場所の10日目にはモンゴルにいる父親が急逝するという悲報を受け、場所後に急遽帰国するというつらい出来事もありました。
引退とその後
2011年に角界を揺るがした大相撲八百長問題が発覚。特別調査委員会は、この問題に関与した力士の一人として白馬の名前を挙げました。2011年4月1日に開かれた日本相撲協会臨時理事会により、白馬は引退勧告処分を受けることになります。同様の処分を受けた他のモンゴル人力士や、横綱白鵬とも話し合った結果、白馬は引退届を提出し、受理されました。引退に際し、白馬は「僕は八百長はしていない。騒がせて申し訳ない。僕がやめることでこの問題が良くなり、日本の文化である相撲が良くなるのならば犠牲になっても構わない。日本の文化を愛していきます」と語り、自身の潔白を主張しつつも、騒動の収束を願う心情を吐露しました。同年4月7日には保志光と共にスーツ姿で日本相撲協会を訪れ、最後の挨拶を終え、4月9日にモンゴルへ帰国しました。同年6月18日には、東京都内のホテルで断髪式と結婚披露宴を同時に行い、力士生活に区切りをつけました。
八百長疑惑については、引退から10年後の2021年に行われた日刊ゲンダイの取材でも改めて否定。「疑惑どころか、僕は一切、八百長なんてやってないし関わってもいない」と強く語り、「あれは、相撲協会に無理やり辞めさせられたと思っています」と、当時の心境を明かしています。
引退後、白馬は日本の地で新たな人生を歩んでいます。2008年から母親が両国で経営していたモンゴル料理店「ウランバートル」の店を継ぎ、2023年現在はオーナーシェフとして腕を振るっています。
人物・エピソード
白馬が相撲の世界に入るきっかけは、少し意外なものでした。日本に住んでいた叔母（父親の姉）から「力士になってみない？」と声をかけられたことと、その叔母の知人が前・立田川親方と友人だったことから「体の大きな少年がいる」と紹介されたのが始まりでした。「日本に対する憧れと、飛行機に乗ってみたい」という軽い気持ちで来日を決意しましたが、実際に相撲部屋に入門することになるとは夢にも思っていなかったそうです。中学卒業後の1998年12月に来日後、すぐに陸奥部屋に入門予定でしたが、先輩力士の日本帰化が遅れたため、1年間は見習いとして部屋で生活しながら稽古を積みました。この1年間は、3ヶ月のビザが切れるたびに10日間モンゴルへ帰国するという日々。「辞めても帰るところがない」という状況の中で、辛抱強く日本での生活と稽古を続けました。
多くのモンゴル出身力士がモンゴル相撲の経験者であるのに対し、白馬にはその経験がありませんでした。ごく普通の家庭で育ち、親戚にもモンゴル相撲の力士はいなかったといいます。入門前に経験したスポーツは、遊びでバスケットボールと柔道をそれぞれ2週間ほどやった程度。大相撲についても、たまにテレビで見るくらいで、力士や相撲への強い憧れがあったわけではありませんでした。
「白馬」という四股名は、名古屋市在住で、現在は故人である陸奥部屋の後援者によって名付けられました。「モンゴルと言えば“馬”、それと土俵での“白星”」という二つのイメージを重ね合わせた命名です。この四股名が縁となり、長野県の白馬村では後援会が作られました。
私生活では、2008年10月に結婚し、2009年11月3日には長女が誕生したことを2010年に公表しました。2021年時点では2男2女の4人の子の父親となっています。夫人は、同じモンゴル出身の元力士、時天空の妹にあたります。2017年に時天空が亡くなった際の葬儀では、白馬が時天空の遺影を運ぶ姿が見られました。
主な成績
各段優勝
引退時の番付は、2011年2月28日に発表された順席によるものです。
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