石岡大火

石岡大火

石岡大火（いしおかたいか）は、1929年（昭和4年）3月14日に、現在の茨城県石岡市にあたる当時の新治郡石岡町で発生した大規模な火災です。この火災により石岡町の中心市街地の約4分の1が焼失するという、極めて大きな被害が生じました。古くから「火事の多い町」として知られていた石岡においても、この火災は過去最大規模の焼失面積と被害をもたらし、1923年（大正12年）の関東大震災における石岡町の被害をも大きく上回るものとなりました。

歴史的背景と町の備え

石岡の地は古来より開けた地域であり、奈良時代には常陸国の国府が置かれ、江戸時代には常陸府中藩の城下町として栄えました。長い歴史を持つ石岡は、過去にも度々火災に見舞われており、最も古い記録としては、天慶2年（939年）に平将門によって約300戸が焼き払われたという『将門記』の記述があります。また、天正18年（1590年）には大掾氏が滅亡した際の兵火で城下町が被災しました。近世にも4度の大きな火災を経験し、明治時代には6度、大正時代にも1度の大規模火災が発生しています。こうした度重なる災害の経験から、石岡町では火災への備えが進められていました。1878年（明治11年）には、16組1,200人からなる「火消組」が組織され、後に「消防組」と名称を変えました。消火用の貯水槽や火の見櫓の設置、ポンプの購入などにより、体制を整えていましたが、1929年（昭和4年）の石岡大火は、当時の石岡町の消防能力を遥かに超える規模となり、町の消防組だけでは対応しきれませんでした。最終的には、近隣町村の消防組に加え、軍からの応援を得て、ようやく翌日の鎮火に至ったのです。

火災の発生と猛烈な延焼

石岡大火が発生した1929年3月14日は、朝から北西の強い風が吹き、昼頃にはさらに強さを増し、砂塵を巻き上げて日光を遮るほどでした。このような悪条件下、午後7時30分頃に中町から火の手が上がりました。風速15mともいわれる猛烈な風にあおられた炎は、瞬く間に東に隣接する金丸町へと拡大し、石岡劇場などが焼失しました。火災発生からわずか20分ほどで、金丸町から富田町一帯が炎に包まれ、「石岡町市街の防火壁」とも称された老舗・高喜呉服店の石塀をはじめ、多くの土蔵も炎に飲み込まれました。さらに、西側の木之地町へ飛び火した炎は、石油倉庫に引火して大爆発を引き起こし、火勢を一層増大させました。この勢いを借りた炎は南隣の守木町を襲い、金毘羅神社が焼失し、富田町で東からの火と合流しました。炎の勢いは昼間よりも明るく感じられるほど凄まじく、火の粉が降り注ぐ中、人々は逃げ惑い、あちこちで避難を促す声が飛び交う混乱した状況となりました。この火災では、石岡郵便局、常磐銀行支店、活動常設館国文館、村山裁縫学校など、町の主要な施設も多数焼失しました。

鎮火と大火の爪痕

火は富田町から南東方向の貝地町へと延焼を続けました。急報を聞きつけた近隣町村の消防組に加え、遠くは水戸市や土浦町（現在の土浦市）からも応援が駆け付けましたが、火勢は衰えず、鎮火には至りませんでした。事態を重く見た関係者は、水戸工兵第十四大隊や霞ヶ浦航空隊に救援を要請しました。軍隊による5時間にも及ぶ破壊消防の結果、ようやくそれ以上の延焼拡大は食い止められ、火は翌3月15日午前2時頃に収まりました。鎮火後も、焼け跡からは白煙が立ち上り続けていました。

自らもこの大火で被災した今泉哲太郎は、火災の翌日に一面焼け野原となった町の惨状を克明に記録しています。彼の記録によれば、頼るべき親戚や知人の家も全て焼失し、行き場を失った人々が野山や田畑に避難していました。比較的安全とされた清凉寺には、本堂、墓地、果ては茶畑や竹林に至るまで、避難してきた人々や運び込まれた壊れた家財道具で埋め尽くされ、歩く場所もないほどだったといいます。

被害規模と復興への道のり

石岡大火による被害は甚大でした。守横町で130戸、中町で126戸を含む合計606戸、1,700棟もの建物が焼失しました。被害総額は当時の金額で2,000万円以上に達し、これは当時の石岡町民の5分の1以上が被災した計算になります。この悲惨な状況に対し、皇室からは被災者救援のために御内帑金（ごないどきん）が下賜されました。後に、今泉哲太郎と今泉義文の兄弟によって、この大火の記録として『あゝ石岡大火災』がまとめられています。

大火を経て、石岡町の景観は大きく変貌しました。復興計画に基づき、中町商店街では道路が拡幅され、歩道が整備されました。また、ポプラの街路樹が植えられ、ガス灯も設置されるなど、近代的な街並みが整備されました。中町では一部の土蔵が焼け残ったものの、焼失した多くの建物は2階建ての洋風建築や木造モルタル建築へと建て替えが進みました。現在、石岡大火の被害を免れて現存する唯一の商家建築として、丁子屋が国の登録有形文化財となっています。

さらに、駅と市街地を結ぶ駅前通り（八間道路、現在の茨城県道277号石岡停車場線）が新たに整備されました。この道路は、1929年（昭和4年）10月21日に大火からの復興を祝うかのように盛大な開通式が行われました。同年11月15日には茨城県内で大日本帝国陸軍の特別大演習が行われ、天皇が八間道路を通行したことを記念し、「御幸通り」の別名が与えられました。この時、皇室からの御内帑金に対する感謝の意を込めて、『石岡写真帖』が献上されています。

中町の北側に位置し、大火の延焼を免れた香丸町にはしばらく土蔵が多く残っていましたが、1983年（昭和58年）から1988年（昭和63年）にかけて、歩道確保のためのセットバック工事を機に店舗や住宅の新築が進み、中町とは異なる景観を形成するようになりました。石岡大火は、石岡の歴史において街並みの形成に大きな影響を与えた出来事として記憶されています。

参考文献

• - 石岡市史編纂委員会 編『石岡市史 上巻』
• - 石岡市史編さん委員会 編『石岡市史 下巻』
• - 茨城新聞社 編『茨城県大百科事典』
• - 高橋伸夫ほか（1994）"石岡市中心部における都市空間の特性"地域調査報告（筑波大学地球科学系人文地理学研究グループ）
• - 長谷川伸三ほか『茨城県の歴史』県史 8

関連項目

• - 火災の年表

外部リンク

• - 石岡大火の記録-歴史の里石岡ロマン紀行

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