恩賞

恩賞とは

恩賞とは、近世以前の合戦において、主君が戦功を挙げた家臣や武士に対して行う表彰のことです。具体的には、所領の授与、官途状や感状の授与、物品の授与、格式の免許、官職への任官の推薦などがありました。恩賞は、武士の忠誠心を高め、戦意を向上させる重要な手段でした。

日本における恩賞の歴史

古代

日本における恩賞の始まりは、古代に遡ります。蝦夷征伐や謀反の鎮圧に功績のあった武官に対して、朝廷が官位の任官や昇叙を行いました。9世紀に入ると、軍団が形骸化し、郡司や富豪層、俘囚が「発兵勅符」に基づいて軍事力として編成されるようになります。彼らが功績を挙げた場合、恩賞が与えられました。9世紀末頃からは、国司が自らの裁量で国内の軍事力を編成するようになり、功績の顕著な者には朝廷から恩賞が与えられました。

10世紀前半には、東国で寛平・延喜東国の乱、西国で承平南海賊という戦乱が勃発しました。これらの乱の鎮圧に功績を挙げた国司や軍事・富豪層に対して恩賞が与えられましたが、その内容が十分ではなかったため、不満が高まり、承平天慶の乱の一因となりました。この過程で、国司を中心とする軍事制度、すなわち国衙軍制が成立しました。

国衙軍制では、国司が軍事面における最高指揮者でした。10世紀から11世紀にかけて、貴族社会では特定の家系が官職を世襲する「官司の家業化」が進み、武芸・軍事を「家業」とする貴族家系（兵の家）が登場します。彼らは受領を歴任し、押領使や追捕使に補任され、各地の軍事力を編成するとともに、田堵負名層と私的な主従関係を結ぶ者も現れました。11世紀に入ると、兵の家の一部は軍事貴族へと成長しました。

11世紀中葉に王朝国家体制が変質すると、田堵負名層の多くは武士化し、在地領主化していきます。一方、国衙軍制は崩壊し、国司の代わりに国押領使や国追捕使の地位を世襲してきた「一国棟梁」が軍事力編成の中心となりました。一国棟梁は田堵負名層の所領を安堵し、田堵負名層は軍役に応え、戦功に応じて新たな所領を与えられました。この功績の査定・授与を論功行賞と言います。

「追捕官符」に基づき、一国棟梁は家人である武士団を率いて謀叛や蜂起を鎮圧しました。軍事貴族自らも恩賞を獲得するとともに、家人の恩賞を朝廷に周旋し、家人の任官・昇叙に関与したり、荘官職に補任したりしました。高位の四位に任じられた清和源氏と桓武平氏は、この時代に登場した武士層の棟梁、すなわち武家の棟梁と呼べる存在でした。武家の棟梁は、所領を家人へ分け与える一方、自らはさらなる勢力拡大のために収入の多い国の国司職や、中央政界における地位向上につながる位階の昇叙、御所への昇殿などを求めました。源氏や平氏の棟梁は、こうした戦功を勝ち取る中で中央政界における地位と諸国における武力を確立していきました。

恩賞の給与には、常に公平性の問題が付きまといました。勲功の報告は、受領や追捕使・追討使などを通じて行われたため、必ずしも詳細な報告がなされたとは限りませんでした。報告者によるひいきも行われた可能性があり、給与された恩賞に対する不満は常に潜在していました。

中世

平治の乱以降、平氏は中央政界と武士社会において新たな秩序を構築しました。恩賞の仲介者であった武士自らが恩賞授与権者の地位を獲得するようになり、平氏政権は人事や荘園を掌握し、恩賞を差配することで権力を強化しました。しかし、武士の間では平氏からの恩賞給与に対する不満が存在し、治承・寿永の乱の一因になったとされています。

平氏政権の後に武家政権を確立した源頼朝は、関東武士団を政治的基盤としていました。頼朝は、関東武士の支持を得るために、寿永・治承の内乱から奥州合戦までの恩賞給与に際して、関東武士の満足が得られるよう細心の注意を払いました。鎌倉時代になると、恩賞の概念は多様化し、御家人は軍忠状を提出して軍功と引き換えに恩賞を請求する権利が与えられました。恩賞奉行などが請求を審査し、所領の給与、地頭職や荘官職、有司職への補任などの形で、新たな土地財産権が与えられました。既存の所領で紛争がある場合には、安堵状による所領保障も恩賞となりました。さらに、朝廷の官職への推挙権や幕府の役職も恩賞の対象となり、地方の御家人が守護に補任され勢力を拡大したり、中央政界に進出するきっかけとなりました。また、鎌倉殿や執権が御家人に偏諱を与えるようになり、鎌倉殿の偏諱は重い栄誉とされました。武勲を褒め称える感状の授与も、鎌倉時代以降の慣習です。

南北朝時代や室町時代にも、恩賞のあり方は基本的に踏襲されました。南北朝時代には、室町幕府の守護が自らの家人に対して官途状を発給し、事実上の官職の私称を許したり、受領名を授与したりしました。また、幕府や鎌倉公方が足利氏一門や有力守護に裏書免許、屋形号免許、塗輿免許、白傘袋毛氈鞍覆免許などの格式を許すようになり、守護代に対しても塗輿や唐傘袋毛氈鞍覆の免許が行われるようになり、恩賞のあり方は多様化しました。

偏諱は室町時代にも行われ、幕府への寄進や寄付に応じ、足利将軍家の通り名である「義」の字、または代々の諱の下の文字を与え、将軍直臣の格式を示す栄誉として、戦国時代に至るまで発給されました。「義」の字は、歴代将軍の諱の下の字よりも格式が高く、斯波義良や一色義道、仁木義長、大内義隆などが代表的です。将軍の一字を賜った大名には、畠山尚順、細川晴元、長尾為景の子の長尾晴景・上杉輝虎、武田晴信（信玄）、筒井藤勝（順慶）、毛利輝元、尼子晴久などがいます。

近世

安土桃山時代には、茶道文化が広まり、織田信長は家臣に対して恩賞の一環として茶会の開催免許や茶器を授与しました。織田氏重臣の滝川一益は、武田氏討伐と関東進出の功績により70万石の所領を与えられましたが、茶器の授与がなかったことを悔しがったと伝えられています。

江戸時代以降は、所領の加増という点が踏襲される一方、転封という概念が加わり、幕府の意向により領国を異動させる制度ができました。屋形号や将軍による偏諱も踏襲されましたが、これは功績による表彰というよりも、格式の認定という側面が強まりました。老中などの幕閣を占めることが保証された譜代大名には、所領の加増や役職の昇進も恩賞となりました。

江戸幕府が倒れた近代以降、明治新政府の下で陸軍省や海軍省が設置され、人事局恩賞課や功績調査部などが置かれました。戦後では、栄典や顕彰・表彰・人事考課といった概念が一般的になり、公的に恩賞の概念は用いられなくなりましたが、政権獲得や内閣成立に功績のあった与党政治家の重要役職への就任や入閣があった場合に、論功行賞人事や恩賞人事と揶揄されることがあります。

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