穂井田元清

穂井田元清：戦国を駆け抜けた知勇兼備の武将

穂井田元清（ほいだもときよ、または毛利元清）は、戦国時代から安土桃山時代にかけて活躍した武将です。安芸国の戦国大名・毛利元就の四男として生まれ、その生涯は数々の戦と政治的役割に彩られています。

生涯

幼少期から元服

天文20年（1551年）、毛利元就の四男として誕生しました。母は元就の継室である乃美大方です。異母兄には毛利隆元、吉川元春、小早川隆景がおり、彼らが元就から大切にされたのに対し、元清を含む継室の子らは、元就の教訓状で「虫けらのような子どもたち」と表現されることもありました。しかし、これは幼少の子どもたちへの配慮であり、実際には元就は彼らの成長を期待し、才能があれば重用するように指示していました。

永禄9年（1566年）には、甥である毛利輝元の加冠を受け元服し、「元」の偏諱を与えられ「毛利少輔四郎元清」と名乗りました。その後、来島村上氏の村上通康の娘・松渓妙寿を正室に迎え、毛利家と村上水軍の関係強化に貢献しました。また、新当流の達人である石川種吉から兵法を学び、武将としての基礎を築きました。

穂田の名字を名乗る

元清は、永禄11年（1568年）に毛利氏が九州北部に侵攻した際、備中国が手薄になった隙を突いて宇喜多直家が反旗を翻した際、父の命により三村元親と共に備中猿掛城を奪還し、備中松山城から庄高資を追放しました。

九州での戦いでは、立花山城の戦い、門司城の戦い、多々良浜の戦いに出陣しました。その後、宇喜多氏との戦いでは佐井田城攻略を目指しましたが、宇喜多直家の援軍に敗れ撤退しました。しかし、出雲国での戦いでは家臣が武功を挙げるなど、着実に戦果を上げていきました。

元清は、父・元就の存命中に安芸桜尾城の城番に任じられ、その後、庄高資によって奪われた松山城を再び奪還しました。天正2年（1574年）には、毛利氏が宇喜多直家と和睦したため、離反した三村元親を討伐するために出陣し、三村氏を完全に降伏させることに成功しました。これらの功績により、元清は猿掛城を預かる城番に任じられ、備中国小田郡を中心に5018貫の知行地を与えられました。この時、元清は穂田郷の在名から「穂田」の名字を名乗るようになります。

織田氏との戦い

天正4年（1576年）には、麦飯山の戦いで宇喜多基家の軍勢と戦い、天正5年（1577年）には、織田信長による中国攻めが始まると、児島の戦いで宇喜多直家の軍勢を撃退しました。また、羽柴秀吉の軍勢に包囲された桂広繁の軍勢を自ら率いて救出しました。

その後も、讃岐国での戦いで援軍として派遣され、上月城の戦いでは自ら矢傷を負いながらも奮戦しました。織田氏との戦いの中で、元清は討死も覚悟しており、母や弟たちの後事を毛利輝元に託す書状を残しています。

天正9年（1581年）には、小早川隆景と共に備中国の国人を調略し、毛利氏の勢力拡大に貢献しました。

豊臣政権下

天正10年（1582年）には、備中鴨城で羽柴秀吉の軍勢と戦い、その後、毛利氏は秀吉と講和を結び、以後は秀吉に臣従しました。天正11年（1583年）には、秀吉との和睦条件として、弟の小早川元総が人質として差し出されることになり、元清は母にその了解を得るために奔走しました。

その後、備中国の茶臼山城に移った後に桜尾城に戻り、生母の乃美大方も同行しました。嫡男の宮鶴丸が死去したため、次男の宮松丸（後の毛利秀元）が嫡男となりました。天正13年（1585年）には四国攻めに出陣し、嫡男の宮松丸が毛利輝元の養子となったため、文禄2年（1593年）までに名字を「毛利」に戻しました。天正15年（1587年）には九州平定にも出陣しています。

上洛

天正16年（1588年）には、毛利輝元の上洛に随行し、その際の様々な儀式や饗応に参加しました。秀吉との拝謁や、公家や他の大名との交流を通じて、毛利氏の立場を強固なものにしました。上洛後、元清は豊臣姓と従五位下・越前守の官位を授与されました。

広島城築城

天正17年（1589年）、広島城の築城と城下町の建設において、普請奉行として二宮就辰と共に尽力しました。自ら縄張りを開始し、堀奉行の湯浅将宗と協力して工事を進めました。この間、正室の松渓妙寿が死去しています。広島城の完成後、元清には合計12,013石余の知行地が与えられました。検地の結果として有力家臣に発給された打渡状には、年寄筆頭として名前を連ね、毛利家を支える重臣としての地位を確立しました。

朝鮮出兵

文禄元年（1592年）から始まる文禄の役では、毛利輝元に従って朝鮮半島に渡海しました。毛利軍は釜山に上陸し、各地を転戦しました。元清は、輝元の病気による帰国後も朝鮮に残り、秀元と共に毛利軍を支えました。帰国命令を受けた後も、元清は東莱城に留まり、在番を務めました。文禄4年（1595年）には、朝鮮での在番を終え帰国しました。

晩年

文禄5年（1596年）に発生した慶長伏見地震の際には、京都に滞在しており、厳島神社に被害状況を尋ねる書状を送りました。慶長2年（1597年）には、豊臣秀吉が再度朝鮮半島へ出兵することを決定しましたが、元清は病床に伏せっていたため出陣していません。同年6月には、小早川隆景が急死し、その約1ヶ月後の7月9日に元清も桜尾城で病死しました。享年47歳でした。

人物

元清は、生母の乃美大方を気遣い、弟たちにも気を配る温厚な人物でした。側室の子ながらも、才覚に溢れた武将として知られており、特に異母兄の小早川隆景との関係は深く、多くの戦で隆景の軍勢に属して戦いました。

逸話

元清は小早川隆景を深く信頼し、弟の天野元政に「困ったことがあれば、何でも景さまに相談するように」と話したと伝えられています。また、吉川元資（後の吉川元長）が元清に丁重な書状を送ったことについて、毛利元就が喜んだという書状も残っています。

元清の進退が落ち着いた際には、毛利家の菩提寺である大通院に一寺を寄進する旨を伝える書状も残っています。また、渡辺氏の所領問題については、隆景から元清と元康に対して、元就が継室の子である元清たちを自慢していたと伝えられています。

元清は、死期を悟った際に小早川隆景とどちらが先に死ぬかという会話をしたという逸話もありますが、隆景は病気ではなく急死であったと記録されており、この逸話は後世に作られた可能性もあります。

肖像画

山口県下関市の来福寺には、元清の肖像画である「紙本著色毛利元清像」が所蔵されています。この肖像画は、元清の没後、慶長11年（1606年）に描かれたものです。

系譜

父：毛利元就
母：乃美大方
正室：松渓妙寿
長男：毛利宮鶴丸
長女：雪庭妙青
次男：毛利秀元
三男：毛利宮吉丸
次女：天遊以貞
三女：生和順長
四女：久嶽貞昌
側室：栄長院

元清の血筋は、長州藩の支藩である長府藩、清末藩の藩主として存続し、本家の血筋が絶えた後は、元清の子孫が長州藩主となり、幕末までその血統が続きました。

穂井田元清は、戦国時代から安土桃山時代にかけて、武将として、また政治家として、毛利家を支えた重要な人物でした。その生涯は、数々の戦いでの武功と、毛利家への忠誠心に彩られています。

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