立川和四郎

立川和四郎：信州を代表する宮大工の名跡

立川和四郎（たてかわ わしろう）は、江戸時代中期から信濃国（現在の長野県）諏訪地方を本拠に活動した宮大工の一派であり、その名跡です。江戸幕府作事方立川流から分かれ、独自の発展を遂げました。

初代　立川和四郎富棟（たてかわ わしろう　とみむね）

初代和四郎富棟は、延享元年（1744年）に生まれ、文化4年（1807年）に没しました。信濃国諏訪郡高島城下の下桑原村（現在の諏訪市中心街）で、桶職人の次男として誕生しました。江戸で幕府作事方の立川小兵衛富房に奉公し、寺社建築を学びました。その後、「立川」の名を許され、彫刻を中沢五兵衛に師事した後、故郷に戻りました。

安永3年（1774年）に惣持院、白岩観音堂（茅野市）の建築と彫刻を手がけたのを皮切りに、寺社建築と彫刻の制作を開始しました。安永9年（1780年）には諏訪大社下社秋宮の幣拝殿（重要文化財）を建立し、その名声を確立しました。寛政元年（1789年）には善光寺大勧進表門を、享和2年（1802年）からは一門で30年間にわたり静岡浅間神社の彫刻を手掛けました。富棟は、工房で彫刻を大量生産し、軸部完成後に運搬して取り付ける分業体制を確立しました。また、施主の要望に応じて彫刻をオプションとして追加する随意付加形式や、事前にカタログを提示して請負契約をまとめる発注形式を導入するなど、建築活動を合理的に組織化しました。一門が得意とした竜の彫刻である繋虹梁は、享和元年（1801年）の伊那郡長岡神社（箕輪町）以降に採用されました。

二代目　立川和四郎富昌（たてかわ わしろう　とみまさ）

二代目和四郎富昌は、天明2年（1782年）に生まれ、安政3年（1856年）に没しました。先代富棟の長男として生まれ、当初は和蔵富興と名乗っていましたが、先代の死後に二代目和四郎富昌を襲名しました。諏訪大社本宮幣殿や同拝殿（重要文化財）を手がけたほか、信濃国内のみならず、関東地方から近畿地方にかけて幅広く活動しました。下総国千葉神社や江戸小石川白山神社の建築、京都御所御門の彫刻などを担当しました。彫刻では「粟穂に鶉」「波に千鳥」「雛と親鳥」などを得意とし、欄間や置物の彫刻は富昌の次男である三代目和四郎富種やその弟子達に受け継がれました。特に安曇野の立川豊八は、諏訪立川流を受け継いだ著名な弟子の一人です。

立川和四郎が手掛けた主な寺社

立川和四郎一門は、以下の寺社で建築や彫刻を手がけました。

手長神社（諏訪市）
大天白社（茅野市）
頼岳寺（茅野市）
光徳寺（長野県立科町）
須須岐水神社（千曲市）
武水別神社（千曲市）
専称寺（松本市）
浄林寺（松本市）
無極寺（松本市）
お船祭り（須々岐水神社）（松本市）- 山車の彫刻
永福寺（塩尻市）
松林寺（塩尻市）
小野神社・矢彦神社（塩尻市と辰野町）
愛宕稲荷神社（飯田市）
常楽寺（中野市）
穴切大神社（甲府市）
大船神社（恵那市）
登渡神社（千葉市）
秋葉山本宮秋葉神社（浜松市）
豊川稲荷（豊川市）
深川神社（瀬戸市）
石取祭（桑名市）

これらの寺社は、立川和四郎の卓越した技術と芸術性を今に伝えています。

参考文献

細川隼人『立川流の建築』1975年
大河直躬「素木で勝負―諏訪の名工立川流と大隅流」『大工彫刻』所収1997年 イナックスブックレット

外部リンク

諏訪の社寺と名匠たち 大隅流・立川流の源流を訪ねて

関連項目

立川義明 (彫刻家) - 立川流の家系。茅野市美術館、諏訪市美術館、佐久市立近代美術館等作品所蔵。
立川流 (曖昧さ回避)
諏訪市博物館 - 立川流彫刻の展示がある。

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