競輪場前駅 (滋賀県)

競輪場前駅：びわこ競輪の盛衰を映した、短い歴史を持つ臨時駅

滋賀県大津市二本松に存在した、江若鉄道の競輪場前駅。この駅は、大津市にあった大津びわこ競輪場の西隣に位置し、競輪開催日のみ営業する、いわば臨時駅として知られていました。その歴史は短く、わずか14年間の営業期間を経て姿を消しましたが、その存在は、地域の変遷や交通手段の変化を物語る貴重な存在と言えます。

開業から廃止まで：競輪場の盛衰と共に歩んだ軌跡

競輪場前駅が開業したのは1950年（昭和25年）、大津びわこ競輪場の開設と同時でした。競輪利用客の利便性を高めるために新設されたこの駅は、競輪開催日には多くの利用客で賑わったことでしょう。しかし、時代の流れとともにバス交通が発達し、競輪場へのアクセス手段としてバスが主流になると、駅の役割は次第に薄れていきました。その結果、江若鉄道の廃止を前に、1964年（昭和39年）に廃駅となりました。

忘れられない出来事：皇太子明仁親王の訪問

競輪場前駅の歴史において、特筆すべき出来事があります。1959年（昭和34年）、饗庭野で行われた第2回ボーイスカウト日本ジャンボリーを視察された当時の皇太子明仁親王（後の上皇）が、琵琶湖ホテルへの移動手段として、この駅をご利用になったのです。この訪問を記念し、近江今津駅との間で特別列車が運行されました。この出来事は、小さな臨時駅であった競輪場前駅の歴史に、華やかなエピソードを刻み込んだと言えるでしょう。

簡素な駅舎：競輪開催日のみ営業の臨時駅

競輪場前駅は、旅客のみを取り扱うシンプルな駅でした。駅舎と言えるような立派な建物はなく、枕木などを土台とした簡素なホームが、線路の西側に設けられていたと伝えられています。まさに競輪開催日のみ利用される臨時駅としての機能に特化した、簡素な造りだったと言えるでしょう。

廃止後の変化：競輪場廃止と線路跡の再利用

駅の周辺環境も、時代の変化を反映しています。駅があった場所は、現在では滋賀県道30号線（神宮道）の二本松交差点の北側にあたり、かつては田園風景が広がっていました。競輪場前駅の廃止後、競輪開催時には大津駅や浜大津駅から競輪場最寄りの柳が崎まで、京阪バスや江若交通による無料送迎バスが運行されていました。しかし、大津びわこ競輪場自体は2011年（平成23年）3月に開催を廃止。競輪場前駅があった場所には、往時の面影はほとんど残っていません。

興味深いのは、三井寺下駅から滋賀駅までの江若鉄道の線路跡が道路として再利用されている点です。大津市南志賀四丁目付近では、江若鉄道廃止後に開業した湖西線の高架橋と交差するなど、歴史の痕跡が現代の風景の中に溶け込んでいる様子が伺えます。競輪場前駅は、その短い歴史の中で、競輪場の盛衰、交通手段の変化、そして皇室との関わりといった、多くの出来事を凝縮した存在だったと言えるでしょう。

参考文献

今尾恵介（監修）『日本鉄道旅行地図帳』 9 関西2、新潮社、2008年
大津市歴史博物館 編『江若鉄道の思い出 ありし日の沿線風景』サンライズ出版、2015年
寺田裕一『新 消えた轍 ―ローカル私鉄廃線跡探訪―』 8 近畿、ネコ・パブリッシング〈NEKO MOOK〉、2010年
吉田恭一『地形図で辿る廃線跡 古地図とともにいまはなき鉄道を歩く』心交社、1998年
* 「江若鉄道 その車輛・列車・歴史・駅をめぐる」『レイル No.84』エリエイ/プレス・アイゼンバーン、2012年

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