第二次内乱 (イスラーム史)

第二次内乱：イスラム共同体の分裂と再編

第二次内乱（680年 - 692年）は、ウマイヤ朝時代初期にイスラム共同体（ウンマ）を揺るがした大規模な内乱です。この内乱は、単なる権力闘争に留まらず、その後のイスラム世界の政治、社会、宗教に深い影響を与えました。

内乱の背景

内乱の根源は、第一次内乱に遡ります。第3代正統カリフ、ウスマーン・ブン・アッファーンの暗殺後、指導者争いが激化。ムハンマドの従兄弟で娘婿のアリー・ブン・アビー・ターリブと、ウマイヤ家のムアーウィヤが対立しました。661年にアリーが暗殺され、息子のハサンがムアーウィヤと和睦したことで、ムアーウィヤが支配者となります。

しかし、ムアーウィヤが息子のヤズィードを後継者に指名したことが、新たな火種となります。世襲制はイスラムの伝統に反するとされ、各地で不満が高まりました。680年、ハサンの弟であるフサイン・ブン・アリーが、クーファのアリー家支持者からウマイヤ朝打倒の要請を受けましたが、カルバラーの戦いでヤズィード軍に討たれました。さらに、ヤズィード軍は反乱を起こしたマディーナを襲撃し、メッカを包囲。しかし、ヤズィードの急死により、ウマイヤ朝軍は撤退し、支配は一時的に失われます。

内乱の激化

各地でウマイヤ朝に対する反乱が勃発します。メッカを拠点とするアブドゥッラー・ブン・アッ＝ズバイルがカリフを宣言する一方で、クーファではフサイン殺害の復讐を誓うアリー家支持派が蜂起。スライマーン・ブン・スラド率いる「悔悟者たち」は、ウマイヤ朝軍に敗北。その後、ムフタール・アッ＝サカフィーがアリー家支持派の指導者となり、クーファを掌握。ウマイヤ朝軍を破りますが、アブドゥッラー・ブン・アッ＝ズバイルとの対立により、687年に殺害されます。

691年、ウマイヤ朝のアブドゥルマリク・ブン・マルワーンがムスアブ・ブン・アッ＝ズバイルを破り、イラクを奪還。翌年にはメッカを包囲し、アブドゥッラー・ブン・アッ＝ズバイルを討ち、内乱は終結します。

内乱の影響

第二次内乱は、イスラム共同体に大きな爪痕を残しました。ウマイヤ朝の勝利により、世襲による統治が確立。アブドゥルマリクはカリフの権力強化、軍の再編、官僚機構のアラブ化とイスラム化を推進します。

また、この内乱は、イスラムにおけるメシア思想、マフディー思想の登場、宗派の分裂を促し、後のスンナ派とシーア派の教義形成に影響を与えました。具体的には、フサインの死がシーア派の成立を促し、ムフタールの反乱はカイサーン派という急進的なシーア派を生み出しました。

各勢力の動向

アブドゥッラー・ブン・アッ＝ズバイル: メッカを拠点にカリフを自称し、ウマイヤ朝に対抗。各地で支持を集めましたが、最終的にウマイヤ朝軍に敗北。
ムフタール・アッ＝サカフィー: クーファでアリー家支持派を率い、ウマイヤ朝軍を破る。しかし、アブドゥッラー・ブン・アッ＝ズバイルとの対立により、殺害。
ハワーリジュ派: ウマイヤ朝、アリー家の双方に敵対し、各地で反乱を起こす。イブン・アッ＝ズバイルとは一時的に同盟を結びましたが決裂。その勢力は内乱後も長く残りました。
ウマイヤ朝: 内乱を鎮圧し、支配を確立。アブドゥルマリクの改革により、中央集権的な国家体制を築き上げました。

ウマイヤ朝の勝利とその後

アブドゥルマリクの勝利は、ウマイヤ朝の支配を確立し、イスラム共同体における世襲制の確立を意味しました。アブドゥルマリクとその子孫は、750年にアッバース革命によって王朝が倒れるまで、さらに58年間統治しました。

第二次内乱は、イスラムの歴史における重要な転換点であり、その後のイスラム世界の政治、社会、宗教に大きな影響を与えました。内乱後の行政制度改革、部族の分裂、そしてイスラムの宗派や終末論の発展は、現代のイスラム世界にもその影響を残しています。

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