第17期本因坊戦

第17期本因坊戦：坂田栄男の盤石、半田道玄の挑戦

第17期本因坊戦は、1961年に挑戦者決定リーグ戦が開始され、翌1962年4月から本因坊栄寿（坂田栄男）に、関西棋院の半田道玄九段が挑戦する七番勝負が行われました。結果は、坂田本因坊が4勝1敗で半田九段を退け、本因坊位を防衛、見事2連覇を果たしました。この対局は、関西棋院が独立して以来初の挑戦者が出たことでも注目を集めました。

対局方式

本因坊戦には、日本棋院と関西棋院の棋士の初段以上が参加資格を持ちます。予選は、両棋院それぞれで1次予選、2次予選が行われ、その勝ち抜き者による合同の3次予選で4名の新規リーグ参加者が決定されます。挑戦者決定リーグ戦は、前期シード者と新参加者4名を加えた8名で行われました。

対局のルールとして、コミは4目半、持ち時間はリーグ戦、挑戦手合ともに各10時間と設定されました。

挑戦者決定リーグ戦

新規リーグ参加者は、前期陥落からの即復帰を果たした橋本昌二九段、宮下秀洋九段、そして初参加となる半田道玄九段、2度目の参加となる曲励起八段の4名でした。

リーグ戦は、前期シードの高川格、木谷實、島村俊宏、橋本宇太郎と、新参加の4名を加えた計8名によって、1961年11月9日から翌年3月8日まで行われました。高川、木谷、宮下の3人が4勝3敗で並ぶ混戦模様となりましたが、最終的に半田道玄が5勝2敗で抜け出し、挑戦権を獲得しました。

七番勝負

坂田本因坊に半田が挑戦する七番勝負は、1962年4月に開幕しました。坂田は前年に七冠を達成しており、その圧倒的な実力から今期も優勝候補と目されていました。一方、半田は「大名のような鷹揚な碁」と評され、橋本宇太郎の本因坊獲得後に関西棋院が独立して以来、初の挑戦者として期待を集めました。また、過去の対戦成績では坂田に対して有利であったことも、半田への期待を高める要因となりました。

注目の第一局は、東京本郷の龍岡で行われ、立会人は前本因坊の高川格が務めました。坂田の握りで半田が先番となりましたが、細かい碁となり、終盤に半田が見損じ、坂田が中押で勝利しました。続く第2局は、福岡県小倉市田川旅館で行われました。この対局の前日、坂田が搭乗予定だった飛行機が天候不良で欠航となり、急遽別の便に乗り換えるというアクシデントもありましたが、対局では先番の坂田が序盤の捨て石作戦から優位に立ち、中押で連勝を飾りました。

第3局は兵庫県有馬温泉古泉閣が舞台となりました。白番の坂田が序盤から実利で先行し、中央の石も確保して優勢に進めましたが、終盤に半田が逆転し、5目半勝ちで1勝を返しました。第4局は愛知県蒲郡市の「ふきぬき」で行われ、黒番の坂田が大模様の展開から中央の白石を捕獲し、9目半勝ちで勝利しました。

坂田3勝1敗で迎えた第5局は、甲府市湯村温泉常磐ホテルで行われました。序盤から激しい戦いとなり、形勢は二転三転しましたが、坂田が166手目に失着を打ち、形勢は半田有利に。観戦記には、その失着を見た坂田の顔色が変わったと記されています。終局後、坂田は立会人の前田陳爾に「コミにかかりましたか」と尋ね、半田が「半目負けです」と答えたとされています。この結果、坂田が4勝1敗で本因坊位を防衛し、半田は「こう技を食ってはかないません」と語りました。

対局譜から見る勝負の綾

各局の対局譜からは、両者の戦略や勝負を分けたポイントが見て取れます。例えば、坂田が初めて黒番第1着を三々に打った第2局では、坂田の捨て石作戦が功を奏し、囲碁界を驚かせました。また、第5局では、半田の新手が飛び出すなど、随所に見どころのある対局でした。

参考文献

井口昭夫『本因坊名勝負物語』三一書房、1995年6月。ISBN 4-380-95234-7。
坂田栄男『囲碁百年』 3 実力主義の時代、平凡社、1969年。
坂田栄男『炎の坂田血風録 不滅のタイトル獲得史』平凡社、1986年7月。ISBN 4-582-60121-9。
坂田栄男『炎の勝負師坂田栄男』 2 碁界を制覇、日本棋院、1991年2月。ISBN 4-8182-0335-1。
中山典之『昭和囲碁風雲録』 下、岩波書店、2003年6月。ISBN 4-00-023381-5。
林裕『囲碁風雲録』 下、講談社、1984年3月。ISBN 4-06-142624-9。

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