三々

囲碁における三々（さんさん）

三々とは、囲碁盤の隅から数えて（3,3）の位置にある交点を指す言葉です。布石の段階で、隅の着点として単独で打たれるほか、星や高目などの高い位置にある着点に対する侵入手段としても用いられます。

布石における三々

特徴

単独の着点としての三々は、一手で確実に隅の地を確保し、素早く辺への展開が図れるという利点があります。一方で、星や小目と比べて位が低く、上からの圧迫を受けやすいという欠点も持ち合わせています。そのため、模様の発展性にはやや欠ける面がありますが、変化が少なく分かりやすいため、実利を重視するアマチュア棋士に好まれる傾向があります。

三々の活用

三々は、一手で隅を完全に確保しているため、ここからのシマリやカカリは小目の場合ほど急ぐ必要はありません。シマる場合は、状況に応じてa〜dの点に展開します。カカる場合もこれらの点が多く、黒は対辺の一間やケイマなどに受けるのが一般的です。最も多い三々へのアプローチはeの肩ツキで、位の低い三々の弱点を直接的に攻める手となります。特に、三々から両翼の辺に展開された場合、模様を消す意味で肩ツキは重要な着点となります。

肩ツキした場合の基本定石としては、黒は隅に堅く10目ほどの地を確保しますが、勢力は白に奪われることになります。白が左辺を重視する場合は、白5にオサエる手も考えられます。この場合、7までが一つの区切りとなります。

星に対する三々

現代囲碁の布石で重要な位置を占める星の最大の弱点として、三々が挙げられます。星に対して単独で三々に入られた場合、下図のように生きられてしまうのが一般的です。

上記の図は、黒の星に対して白が他に石がない状態から三々入りした場合の定石です。周囲にカカリがある場合やヒラキがある場合など、状況によって三々入りが有利になるか不利になるかは変動します。そのため、「いつ三々入りするか」「いつ三々入りされないように守るか」が星の布石における重要なポイントとされてきました。

以前は、布石の初期段階で星にすぐに三々入りすることは不利だと考えられていました。しかし、2016年に登場した人工知能AlphaGoは、極めて早い段階での三々入りを活用してトップ棋士に勝利を収め、その評価が大きく変わりました。AlphaGoは、相手の石を固めることを避けるため、図の白8～10のハネツギを保留するケースが多く、実利だけでなく、相手の根拠を奪って攻めることを目指しています。

この発想は人間の棋士にも取り入れられ、2010年代・2020年代の日本のトップ棋士である井山裕太をはじめ、多くの棋士が早期の三々入りを打つようになりました。この手法は「ダイレクト三々」と呼ばれ、ここから多くの定石が生まれています。

星からシマリを打ってある場合でも、三々入りが成立するケースがあります。たとえば、星から大ゲイマにシマリがある場合には、三々に打ち込めば単独で生きられます。小ゲイマジマリの場合には、部分的にコウになる場合があります。

高目・目ハズシへの三々入り

三々は隅の急所であり、高目や目ハズシといった位の高い着点に対しても有効な侵入手段となります。これらの点に対して三々に入ることで、相手の勢力を削ぐことができます。

三々の歴史

囲碁の歴史において、隅への着点として最初に現れたのは小目でした。室町時代後期から江戸時代、明治時代にかけて、三々はほとんど注目されていませんでした。特に本因坊家では三々は禁手とされており、他の打ち手が打つ場合でも、相手への挑発的な意図を込めて打たれることが多かったとされています。記録に残っている例としては、1838年の本因坊秀和と安井算知の対局で、9手目に秀和が空き隅に星へ打ったところ、10手目に算知が残りの空き隅の三々へ打ったというものがあります。

長らく一人前の着点と見なされていなかった三々に光を当てたのは、呉清源です。彼は、一手で隅を打ち切って辺への展開を重視する手法として三々を多用し、布石の考え方に革命を起こしました。特に、1933年の本因坊秀哉との対局で、三々・星・天元を連打する大胆な布石を披露し、大きな話題となりました。その後、1960〜70年代にかけては、坂田栄男や石田芳夫らが二隅三々を打つ「両三々」の布石を駆使して好成績を収め、流行の着点となりました。

しかし、布石において中央への発展性を重視する傾向が強くなるにつれて、三々は徐々に打たれなくなりました。中央志向の棋風で有名な武宮正樹は、「三々は盤から落ちそうで打つ気がしない」と冗談を言っていたほどです。三々は、趣向あるいは特殊な状況での着点という認識が強まっていました。しかし、AIの出現以降はこの認識が変わり、空き隅への三々がプロの間でも多く打たれるようになっています。

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