第9軍団ヒスパナ

第9軍団ヒスパナ：謎に包まれたローマ軍団の興亡

第9軍団ヒスパナ(Legio IX Hispana)は、ガイウス・ユリウス・カエサルによって紀元前58年以前に創設されたと考えられています。その名は「ヒスパニアから来た軍団」を意味し、勇敢なヒスパニア兵で構成されていたことを示唆します。

共和政ローマ時代：カエサルの下での活躍

第9軍団は、ガリア遠征でカエサルの指揮下に入り、ルビコン川渡河、ファルサルスの戦い、アフリカでのポンペイウス残党掃討戦など、数々の重要な戦いに参加しました。カエサルの暗殺後、退役兵はオクタウィアヌスによって再招集され、シチリアでのセクストゥス・ポンペイウスとの戦いで勝利を収め、その後マケドニアへ派兵されました。紀元前31年のアクティウムの海戦では、マルクス・アントニウスを打ち破るという輝かしい功績を挙げました。

ユリウス＝クラウディウス朝初期：帝国の守護

オクタウィアヌスがアウグストゥスとしてローマを統治するようになると、第9軍団は北ヒスパニアのカンタブリア人の反乱鎮圧に派遣されました。その後、ゲルマン人の侵入を防ぐために、皇帝属州に駐屯。ゲルマニア、またはパンノニアに駐在していた可能性が指摘されています。紀元9年のトイトブルクの戦いで第17、18、19軍団が壊滅した際、第9軍団はパンノニアに駐屯していました。

ブリタンニア遠征：北方の地で

紀元43年、クラウディウス帝の命により、第9軍団は第14軍団ゲミナ、第20軍団ウァレリア・ウィクトリクスと共にブリタンニア遠征に参加。アウルス・プラウティウスの指揮下、カエシウス・ナシカの活躍により、52年から57年の反乱を鎮圧しました。しかし、ボウディッカ女王の反乱では大損害を受け、指揮官ケリアリスは兵力をゲルマニアから補充せざるを得ませんでした。65年には第2軍団アディウトリクスの後任としてヨークへ移転し、この地を2世紀まで本拠地としました。83年には遠征の援軍として一部がゲルマニアへ、またトラヤヌス帝の時代にはダキア戦争のために東方属州へ派遣されたと考えられています。

その後：謎に包まれた終焉

第9軍団に関する記録は、この後途絶えがちになり、その動向は定かではありません。ハドリアヌス帝の時代には、ピクト人の攻撃によって大きな被害を受け、ハドリアヌスの長城建設の原因になったとも言われています。121年以降には、低地ゲルマニアに短期間駐在していたことが判明しています。第9軍団の記録が完全に途絶えるのは、マルクス・アウレリウス帝の時代。マルコマンニ戦争、またはドナウ川流域での反乱の際に消滅したと考えられています。その最期は謎に包まれており、様々な憶測を呼んでいます。

文化への影響

第9軍団の謎めいた消滅は、多くの創作作品に影響を与えました。ローズマリー・サトクリフの小説『第九軍団のワシ』、2010年のイギリス映画『センチュリオン』、イギリスドラマ『ドクター・フー』の2017年のエピソード「消えたローマ兵士の謎」などが、その代表例です。第9軍団ヒスパナは、歴史の闇に消えたにも関わらず、人々の想像力を刺激し続けているのです。

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