管区 (ローマ帝国)

ローマ帝国の行政区画「管区」について

管区（古典ラテン語：dioecesis、ギリシア語：διοίκησις, dioikēsis）は、ローマ帝国後期に導入された行政区画です。テトラルキア体制の始まりと共に創設され、複数の属州を束ねる中位の行政府として、道の下位に位置づけられました。

歴史

「管区」という言葉が行政単位として初めて使われたのは、ギリシア語圏の東方地域でした。キケロの書簡には、キリキア属州にキリキア、アパメア、シュンナダの3つの「管区」が併合されたことが記されています。当時の「管区」は徴税管轄区域を指す言葉でしたが、次第に地域そのものを指すようになりました。

テトラルキア体制と管区の創設

290年代、ディオクレティアヌス帝はテトラルキア（四分統治）と呼ばれる帝国の再編に着手しました。属州を分割・縮小し、巨大な官僚制の下で管理しやすい単位へと変革したのです。その一環として、属州は12の管区にグループ分けされました。管区の規模は様々で、最大のオリエンス管区は16属州、最小のブリタンニア管区は4属州で構成されていました。

各管区には、管区代官（vices agens praefectorum praetorio）が置かれ、統治を担当しました。ただし、オリエンス管区のみは代官ではなく総監 (comes) が置かれました。テトラルキア体制下では、2人の正帝がそれぞれ1人のプラエフェクトゥス・プラエトリオ（道長官）を従えていました。

道の確立と管区の役割の変化

4世紀半ばに道が確立されると、管区は4つの巨大な道に束ねられ、各道はプラエフェクトゥス・プラエトリオ（道長官）が治めるようになりました。管区は道と属州の中間に位置する行政単位として機能しましたが、その序列は厳格ではありませんでした。属州総督は道長官や皇帝に直接訴え出ることも、逆に道長官や皇帝が属州総督に直接命令を下すことも可能でした。

西ローマ帝国の衰退と管区の解体

西ローマ帝国では、ローマの勢力衰退とともに管区は解体されていきました。一方、東ローマ帝国では管区は存続しましたが、その機能は低下していきました。ユスティニアヌス1世は530年代の改革で管区のほとんどを廃止し、属州総督の権限を強化しました。この改革は、東ローマ帝国が奪回したイタリアやアフリカにも適用されました。ユスティニアヌス帝はイタリア道とアフリカ道の道長官を任命し、各属州を直接監視させました。

管区の一覧

ガリア道
ブリタンニア管区
ガリア管区
ウィエンネンシス管区
ヒスパニア管区
イタリア道
イタリア管区
イタリア食糧供給区
イタリア首都近郊区
アフリカ管区
イリュリクム道
イリュリクム管区 (379年に「パンノニア管区」から改称・移管)
（パンノニア管区）
モエシア管区 (327年頃に分割)
ダキア管区
マケドニア管区
オリエンス道
トラキア管区
アシア管区
ポントゥス管区
オリエンス管区
アエギュプトゥス管区 (367年にオリエンス管区から分離)

参考文献

M. Tullius Cicero, Epistulae ad Familiares, L. C. Purser, Ed. (http://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Cic.+Fam.+3.8&lang=original)
Chisholm, Hugh, ed. (1911). "Diocese". Encyclopædia Britannica. Vol. 8 (11th ed.). Cambridge University Press. p. 279.

関連項目

属州
道 (ローマ帝国)
テトラルキア
教区

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