米長玉

米長玉：攻守のバランスを重視した独特の玉囲い

米長玉とは、将棋の終盤において、玉将を香車の直上に逃がすことで、相手の手数を稼ぎ、逆転を狙う独特な戦術です。これは、米長邦雄永世棋聖が多用したことから名付けられました。

米長玉は、決められた囲い方ではなく、状況に応じて玉を安全な位置に素早く移動させる柔軟な戦術です。特徴は、玉将を香車の上に移動させることで、一見危険なように見えますが、実は「ゼット」（絶対に詰まない状態）を作りやすく、相手の攻めをかわしつつ反撃の機会を伺うことが可能です。

米長自身の発言や弟子の先崎学九段の証言によれば、この戦術は、大山康晴十五世名人との対戦で着想を得たと言われています。振り飛車の得意な大山名人との対局で、玉頭位取りを仕掛けた後、玉を素早く逃がして反撃に転じるという発想から生まれたのです。

現代では、特に居飛車における銀冠系の囲いで、玉将を先手なら9八、後手なら1二に置く形を指すことが多いです。この形は、香車の守備力を犠牲にしているように見えますが、8七の銀によって端攻めの脅威は比較的低く抑えられています。しかし、側面の守備は堅牢ではないため、注意が必要です。また、定跡から外れた変則的な対局で多く見られる、独特の戦術となっています。

新米長玉：コンピュータ将棋との戦い

2012年の第一回将棋電王戦で、米長はコンピュータ将棋ソフト「ボンクラーズ」と対戦しました。この対局で米長は、初手▲7六歩に対し2手目△6二玉と指し、これを「新米長玉」と名付けました。

この新米長玉は、ボナンザ開発者の保木邦仁氏から提案されたもので、コンピュータ将棋ソフトの序盤データを無効化することを目的としていました。序盤は米長が優位に立ちましたが、中盤の一瞬の隙を突かれ、ボンクラーズに敗北を喫しました。

実はこの新米長玉は、1983年の第32期王将戦でも使用されています。大山名人との対局で、後手居飛車側の引き角-玉頭位取りに対し、先手は▲5五歩から銀を5五に進出。これに対し、後手は△3三玉と受ける形となりました。この玉の位置を米長自身「新米長玉」と呼んだのです。

さらに遡ると、1982年の『角落ち 決戦大駒落』では、居飛車相手に△2二飛を指すために玉を2二から3三玉に移動させる戦法も使用しています。これは、同年開催の早指し選手権決勝でも披露され、対戦相手だった真部一男八段は、自身の戦記に「早指し戦 新米長玉と戦う」というタイトルを付けるほど、インパクトのある戦法でした。

このように、米長玉は時代を超えて、様々な局面で用いられる柔軟性と、予想外の展開を生み出す力を持つ戦術です。その独創性と効果は、現代の将棋界にも影響を与え続けています。 米長玉は、単なる将棋の戦術にとどまらず、棋士の創造性と柔軟性を象徴する戦術と言えるでしょう。 将棋における「奇策」としてだけでなく、AIとの対戦においても新たな可能性を示した、革新的な戦術として歴史に刻まれています。

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