糸満売り

糸満売りとは

糸満売り（いとまんうり、イチュマンウイ）は、沖縄県にかつて存在した年季奉公制度です。主に貧困層の少年が、前借金と引き換えに糸満の漁師のもとで住み込みで働くことを指します。沖縄本島南部・糸満の漁師に限らず、沖縄の他の漁村に売られた場合も「糸満売り」と呼ばれることがありました。

糸満売りの背景

特に沖縄本島北部や離島には極貧層が多く、多くの少年が糸満売りに出されました。兄弟全員が売られたり、家族を救うために自ら志願する例もありました。彼らは「雇子（ヤトイングァ）」と呼ばれ、雇用主の下で糸満漁業の技術を叩き込まれました。

糸満売りの起源は琉球王国時代に遡ると言われていますが、顕著になったのは明治時代以降です。世界恐慌によるソテツ地獄という深刻な貧困の中、糸満ではミーカガン（水中眼鏡）などの漁具が進化し、フカヒレ漁などの大型追込網漁が確立しました。遠洋漁業には多くの労働力と熟練した技術者が必要であり、幼少期から漁業技術を習得させるための手段として、糸満売りが広く定着しました。

雇用条件や労働条件は過酷でしたが、ソテツ地獄のような貧困にあえぐ農村からすれば、フカヒレ漁は高収入を得られる可能性もありました。また、形式上は前借り制度による長期雇用であり、単純な人身売買とは異なる側面もありました。年季奉公は、一般的に技術が一通り身につくか、沖縄県で徴兵制が施行された後は、徴兵年齢である満20歳をもって終了とされました。

糸満売りは戦後も存続しましたが、個人主義や労働契約自由主義の観点、人身売買であるという批判、児童福祉の観点から問題視されるようになり、1955年に琉球政府労働局によって禁止されました。それまで逃走した雇子を捕まえて引き戻していた警察も、この頃から態度を改めました。

日本では、年季奉公や奴隷的取引による労働力確保は旧弊とされ、明治・大正時代から積極的に取り締まりが行われました。例として1867年のハワイ日本人出稼人召還事件やマリア・ルス号事件、1872年の芸娼妓解放令、1919年のILO加盟などが挙げられます。しかし沖縄では、旧慣温存政策や太平洋戦争、米軍統治の影響で、社会への浸透が遅れました。

糸満売りの実態

糸満売りの生活環境は非常に厳しく、労働時間は長時間に及びました。雇子たちは粗末な食事しか与えられず、親方から虐待を受けることもありました。また、年季が明けるたびにさらに売りに出される者もいました。泳ぎの訓練も過酷で、縄で縛られたまま海に投げ込まれることもありました。

実際に糸満売りを経験した人物の証言によれば、「ウムカシ（サツマイモから澱粉を取った残りの滓）」が常食で、豊漁の時だけ芋が食べられたそうです。また、先輩からのリンチやいじめも横行していました。

しかし、糸満売りが常に非人道的であったわけではありません。預かった子どもを我が子のように養育する例や、雇子が親方の娘と結婚する例、年季が一部免除される例なども存在しました。雇子は親方にとって財産であり、無為に虐待したり殺害することは損失につながると考えられていたため、そうした行為は好まれなかったという側面もあります。

少女が糸満売りに出されることもありましたが、この場合は漁業ではなく、雑役や蒲鉾作りなどの補助的な労働に従事しました。

年季が明けた（または戦後に解放された）後、幼少期から過酷な労働を経験し、漁師としての技術を身につけた雇子たちは、引き続き漁師として生計を立てていくことが多かったようです。しかし、少年期を漁業の場で過ごしたため、学校教育を受けていない文盲の方も多くいました。

参考文献

沖縄大百科事典刊行事務局編『沖縄大百科事典 上』1983年
加藤久子、1990、『糸満アンマー 海人の妻たちの労働と生活』、ひるぎ社
福地曠昭、1983、『糸満売り 実録・沖縄の人身売買』、那覇出版

関連項目

ソテツ地獄
糸満漁民
年季奉公
人身売買
辻 (那覇市)

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