細谷暖地性シダ群落

細谷暖地性シダ群落

細谷暖地性シダ群落は、三重県度会郡南伊勢町押淵に位置する、国の天然記念物に指定された暖地性シダ植物の群生地です。隣接する鬼ヶ城暖地性シダ群落とよく似た植物相を持ちますが、細谷にのみ生育する希少な植物も存在するため、別個の天然記念物として指定されています。

特徴

細谷暖地性シダ群落は、押渕川の源流部に位置し、山腹斜面に点在する岩場を中心に暖地性のシダが生育しています。周囲はスギの植林地ですが、岩場にはウバメガシを主体とする雑木林が広がっています。この地域は、かつては柵で囲まれていましたが、現在ではコンクリートの支柱のみが残っています。

歴史

この群落の価値に最初に注目したのは、地元出身の植物学者である広出泰助でした。広出は、鬼ヶ城暖地性シダ群落と同様に、植物学者らの現地調査を案内し、川崎光次郎によって種名の目録が作成されました。これらの調査結果は、広出の長年にわたる貢献によるもので、1928年（昭和3年）1月18日に「細谷暖地性羊歯群落」として国の天然記念物に指定されました。

植物相

細谷暖地性シダ群落では、鬼ヶ城暖地性シダ群落と同様の暖地性シダが生育していますが、特に以下の3種は特筆すべきものです。

リュウビンタイ

リュウビンタイは、リュウビンタイ科の大型シダで、日本では本州南岸から九州南部に分布します。細谷では、かつて山麓に点在していましたが、一時絶滅したと考えられていました。しかし、1980年頃に小さな個体が発見され、その後、成長した株が見られるようになりました。この種は、細谷の植物相を代表する植物の一つです。

マツザカシダ

マツザカシダは、イノモトソウ科のシダで、羽片の中央部が白斑状になるのが特徴です。本州南岸から九州、島根県沿岸にかけて分布しています。細谷では、服部哲太郎によって、1936年に解説されました。このシダの名前は、明治初期に伊勢松坂の花戸から買い出されたことに由来すると伝えられています。また、服部の調査によれば、このシダを採取し販売していたのは、伊藤政右衛門という人物であると推測されています。

ケイビラン

ケイビランは、キジカクシ科の多年草で、シダ植物ではありませんが、細谷の植物相を象徴する希少種です。日本固有種であり、紀伊半島、四国、九州の一部にのみ分布しています。江戸時代の本草学者、飯沼慾斎が『草木図説』の中で図説しており、服部は、このケイビランもまた松阪の伊藤政右衛門が採集し、飯沼へ紹介したのではないかと推察しています。

アクセス

細谷暖地性シダ群落へは、近鉄宇治山田駅から三重交通バスに乗り、「押淵口橋」で下車後、徒歩約15分で到着します。伊勢自動車道玉城インターチェンジからは、三重県道169号線と国道260号線を経由して約50分です。このアクセス情報は、隣接する鬼ヶ城暖地性シダ群落へのアクセス方法とほぼ同じです。

関連情報

細谷暖地性シダ群落を含む、国内の主な暖地性シダ群落として、以下が挙げられます。

鬼ヶ城暖地性シダ群落（三重県度会郡南伊勢町）
室生山暖地性シダ群落（奈良県宇陀市）
伊尾木洞のシダ群落（高知県安芸市）
御橋観音シダ植物群落（長崎県佐世保市）

これらの群落は、それぞれ独自の植物相を持ち、学術的にも貴重な場所として保護されています。

参考文献

加藤陸奥雄他監修・南川幸、『日本の天然記念物』、講談社、1995年
本田正次、『植物文化財 天然記念物・植物』、東京大学理学部植物学教室内 本田正次教授還暦記念会、1957年
文化庁文化財保護部監修、『天然記念物事典』、第一法規出版、1971年
三好学、『天然紀念物調査報告. 植物之部 第八輯』刀江書院、1928年
服部哲太郎、『三重縣に於ける主務大臣指定 史蹟名勝天然紀念物 第二册 名勝並天然紀念物』、三重縣、1936年
[三重県]]産生物目録編集委員会、『三重県内の[[天然記念物]に関する実状調査報告書』、三重生物教育会、1991年
三重生物目録編集委員会、『三重県の天然記念物』、三重生物教育会、1992年
南勢町誌編纂委員会、『改訂増補 南勢町誌（下巻）』、南勢町、2004年
池畑怜伸、『フィールド版 写真でわかるシダ図鑑』、トンボ出版、2016年

外部リンク

細谷暖地性シダ群落 - 国指定文化財等データベース（文化庁）
* 文化財の紹介 南伊勢町役場　教育委員会事務局

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