耿九疇
耿九疇（こう きゅうちゅう、1396年4月13日 - 1460年8月29日）は、明代に活躍した官僚です。字は禹範（うはん）、号は恒庵（こうあん）と称し、河南府盧氏県を本貫としました。彼はその生涯を通じて、清廉で公正な政治姿勢を貫き、多くの功績を残しました。
1424年（永楽22年）、耿九疇は進士に及第し、官僚としてのキャリアをスタートさせました。1431年（宣徳6年）には礼科給事中に任じられ、その才能を発揮し始めます。
1437年（正統2年）、両淮（現在の江蘇省と安徽省の一部）の塩政が長らく放置されていた状況を憂慮した耿九疇は、大臣に対して、この問題を調査し解決するために、名声の高い人物を派遣するよう進言しました。その結果、彼自身が選ばれ、塩運司同知として派遣されることになりました。耿九疇は、着任後すぐに塩政の宿弊を改革し、五つの便宜策を上奏しました。これらの改革は法令として採用され、その後の塩政運営の基礎となりました。
1443年（正統8年）、母親の死去により、耿九疇は官を辞して喪に服することになりました。しかし、彼が去ると、塩場の民数千人が宮殿に嘆願し、彼の留任を求めました。この民意を受けて、1445年（正統10年）1月、耿九疇は官に復帰し、都転運使に任じられました。彼は、公務以外に私的な楽しみを持たず、退庁後は香を焚いて読書に励むという日々を送り、その清廉さは広く知られていました。女性や子供たちまで彼の名前を知っていたという事実は、彼の名声がいかに高かったかを物語っています。
1449年（正統14年）、耿九疇は誣告により逮捕されてしまいますが、間もなく無実が証明され、官に復帰して刑部右侍郎に任じられました。この時期、礼部侍郎の章瑾が罪に問われた際、耿九疇と江淵は章瑾の降格を主張しました。これに対して、章瑾の婿である給事中の王汝霖が、同僚と共に刑部の不公正を批判したため、耿九疇と江淵は王汝霖らを弾劾しました。特に、王汝霖の父が土木の変で亡くなった際に、王汝霖が喜んでいたという事実を指摘し、彼が職務に不適格であると訴えました。当時、景泰帝が即位したばかりで、人事問題が山積していたため、王汝霖らは不問に付され、章瑾は耿九疇らの上奏通りに降格されました。
また、鳳陽府で凶作が発生し、盗賊が横行した際には、耿九疇は鳳陽府に派遣され、巡視と招撫を担当しました。彼は、英武・飛熊諸衛の軍を駐屯させ、耕作と守備を両立させると同時に、7万戸もの流民を定着させることに成功し、鳳陽府の治安を安定させました。
両淮では、耿九疇が離任した後、塩政が再び弛んでいました。そのため、1450年（景泰元年）、耿九疇は両淮と両浙の塩課の監理を兼任することになりました。その後、諸府の重罪囚の記録を命じられると、多くの冤罪を晴らしました。10月には、江北諸府を兼撫するよう命じられ、その行政手腕を発揮しました。
1452年（景泰3年）3月、耿九疇は陳鎰の後任として陝西に駐屯しました。彼は、都指揮の楊得青らが私的に兵士を使役していたことを弾劾し、辺境の将軍が臨洮諸衛に駐屯する兵士を増やすことを求めた際には、それに反対しました。また、辺境の民が春夏に耕作のために畑に出て、秋冬に塞内に移住する慣習を禁止しました。
1453年（景泰4年）、陝西布政使の許資が、「地方に出向する侍郎は巡按御史との上下関係がないため、事務処理が滞る」と訴えました。これを受けて、耿九疇は陝西に駐屯したまま右副都御史に転任しました。この出来事は、地方に派遣される大臣や巡撫に都御史の職を兼任させるという慣例の始まりとなりました。また、景泰帝が羊角を灯として購入しようとした際には、耿九疇は北宋の蘇軾が神宗による浙灯の購入を諫めた故事を引き合いに出し、羊角の購入を中止させました。災害が発生し、景泰帝が意見を求めた際には、耿九疇は儒学者を招き、賞罰を公正にし、地方官や将帥を慎重に選抜するよう提言しました。
1457年（天順元年）3月、耿九疇は上京し、右都御史に昇進しました。都察院の獄に繋がれた罪人には米が支給されていなかったため、耿九疇は上奏し、日に一升の米が支給されるようになりました。5月には、廉恥を重んじ、刑事裁判を公正にし、農桑を奨励し、軍隊における褒賞を節減し、御史台を尊重するよう求める五事を上奏しました。英宗はこれらの提言を受け入れました。6月、御史の張鵬らが石亨と曹吉祥を弾劾した際、石亨らが実質的に耿九疇に利用されていたとされ、耿九疇も投獄されてしまいます。その後、江西右布政使に左遷されましたが、7月には四川左布政使に転任しました。
1458年（天順2年）、礼部尚書の職が空席になった際、英宗は李賢に意見を求めました。李賢が耿九疇を推薦したことから、耿九疇は北京に呼び戻されました。英宗は耿九疇の老いを考慮し、南京刑部尚書に任じました。1460年（天順4年）8月29日、耿九疇は65歳でこの世を去りました。彼の死後、清恵という諡号が贈られました。また、著書として『上艾耿氏家乗』3巻が残されています。彼の息子には耿裕がいました。
耿九疇の生涯は、明代の官僚の模範を示すものであり、その清廉さと公正さは後世に語り継がれています。
生涯
1424年（永楽22年）、耿九疇は進士に及第し、官僚としてのキャリアをスタートさせました。1431年（宣徳6年）には礼科給事中に任じられ、その才能を発揮し始めます。
1437年（正統2年）、両淮（現在の江蘇省と安徽省の一部）の塩政が長らく放置されていた状況を憂慮した耿九疇は、大臣に対して、この問題を調査し解決するために、名声の高い人物を派遣するよう進言しました。その結果、彼自身が選ばれ、塩運司同知として派遣されることになりました。耿九疇は、着任後すぐに塩政の宿弊を改革し、五つの便宜策を上奏しました。これらの改革は法令として採用され、その後の塩政運営の基礎となりました。
1443年（正統8年）、母親の死去により、耿九疇は官を辞して喪に服することになりました。しかし、彼が去ると、塩場の民数千人が宮殿に嘆願し、彼の留任を求めました。この民意を受けて、1445年（正統10年）1月、耿九疇は官に復帰し、都転運使に任じられました。彼は、公務以外に私的な楽しみを持たず、退庁後は香を焚いて読書に励むという日々を送り、その清廉さは広く知られていました。女性や子供たちまで彼の名前を知っていたという事実は、彼の名声がいかに高かったかを物語っています。
1449年（正統14年）、耿九疇は誣告により逮捕されてしまいますが、間もなく無実が証明され、官に復帰して刑部右侍郎に任じられました。この時期、礼部侍郎の章瑾が罪に問われた際、耿九疇と江淵は章瑾の降格を主張しました。これに対して、章瑾の婿である給事中の王汝霖が、同僚と共に刑部の不公正を批判したため、耿九疇と江淵は王汝霖らを弾劾しました。特に、王汝霖の父が土木の変で亡くなった際に、王汝霖が喜んでいたという事実を指摘し、彼が職務に不適格であると訴えました。当時、景泰帝が即位したばかりで、人事問題が山積していたため、王汝霖らは不問に付され、章瑾は耿九疇らの上奏通りに降格されました。
また、鳳陽府で凶作が発生し、盗賊が横行した際には、耿九疇は鳳陽府に派遣され、巡視と招撫を担当しました。彼は、英武・飛熊諸衛の軍を駐屯させ、耕作と守備を両立させると同時に、7万戸もの流民を定着させることに成功し、鳳陽府の治安を安定させました。
両淮では、耿九疇が離任した後、塩政が再び弛んでいました。そのため、1450年（景泰元年）、耿九疇は両淮と両浙の塩課の監理を兼任することになりました。その後、諸府の重罪囚の記録を命じられると、多くの冤罪を晴らしました。10月には、江北諸府を兼撫するよう命じられ、その行政手腕を発揮しました。
1452年（景泰3年）3月、耿九疇は陳鎰の後任として陝西に駐屯しました。彼は、都指揮の楊得青らが私的に兵士を使役していたことを弾劾し、辺境の将軍が臨洮諸衛に駐屯する兵士を増やすことを求めた際には、それに反対しました。また、辺境の民が春夏に耕作のために畑に出て、秋冬に塞内に移住する慣習を禁止しました。
1453年（景泰4年）、陝西布政使の許資が、「地方に出向する侍郎は巡按御史との上下関係がないため、事務処理が滞る」と訴えました。これを受けて、耿九疇は陝西に駐屯したまま右副都御史に転任しました。この出来事は、地方に派遣される大臣や巡撫に都御史の職を兼任させるという慣例の始まりとなりました。また、景泰帝が羊角を灯として購入しようとした際には、耿九疇は北宋の蘇軾が神宗による浙灯の購入を諫めた故事を引き合いに出し、羊角の購入を中止させました。災害が発生し、景泰帝が意見を求めた際には、耿九疇は儒学者を招き、賞罰を公正にし、地方官や将帥を慎重に選抜するよう提言しました。
1457年（天順元年）3月、耿九疇は上京し、右都御史に昇進しました。都察院の獄に繋がれた罪人には米が支給されていなかったため、耿九疇は上奏し、日に一升の米が支給されるようになりました。5月には、廉恥を重んじ、刑事裁判を公正にし、農桑を奨励し、軍隊における褒賞を節減し、御史台を尊重するよう求める五事を上奏しました。英宗はこれらの提言を受け入れました。6月、御史の張鵬らが石亨と曹吉祥を弾劾した際、石亨らが実質的に耿九疇に利用されていたとされ、耿九疇も投獄されてしまいます。その後、江西右布政使に左遷されましたが、7月には四川左布政使に転任しました。
1458年（天順2年）、礼部尚書の職が空席になった際、英宗は李賢に意見を求めました。李賢が耿九疇を推薦したことから、耿九疇は北京に呼び戻されました。英宗は耿九疇の老いを考慮し、南京刑部尚書に任じました。1460年（天順4年）8月29日、耿九疇は65歳でこの世を去りました。彼の死後、清恵という諡号が贈られました。また、著書として『上艾耿氏家乗』3巻が残されています。彼の息子には耿裕がいました。
耿九疇の生涯は、明代の官僚の模範を示すものであり、その清廉さと公正さは後世に語り継がれています。
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