興国寺城

興国寺城（こうこくじじょう）

興国寺城は、静岡県沼津市根古屋に位置する日本の城（平山城）で、別名「根古屋城」とも呼ばれています。城跡は国の史跡に指定されており、その歴史的な価値が認められています。城内には穂見神社が鎮座しており、地域の人々に親しまれています。

地勢

興国寺城は、愛鷹山南麓の地形を利用して築かれました。この地域は、連続した傾斜面が特徴ですが、城の周辺は侵食谷によって緩斜面が分断されています。また、山麓から低地への移行部には小扇状地が形成され、旧浮島ヶ原の低湿地へと続いています。城の東西は深い侵食谷と急斜面、南方は低湿地という天然の要害に囲まれており、地形を巧みに利用した典型的な城郭です。

愛鷹山麓には東西方向に根方街道が、城の直下からは浮島ヶ原を通って千本浜へ向かう竹田道が通っています。これらの道が交わる交通の要衝に位置していることが、興国寺城が戦略的に重要な拠点であったことを示しています。

また、愛鷹山南麓は厚いローム層に覆われており、城を構成する各曲輪の地表は、中部ローム上面、黒色帯、スコリア層といった硬い地層で構成されています。これにより、地盤改良の必要性が低く、ローム層の特徴を生かした築城が行われました。

構造

興国寺城は、北から北曲輪、伝天守台、本丸、二の丸、三の丸、そして東側の清水曲輪によって構成される連郭式の城です。江戸時代初期に描かれた絵図面には、北曲輪と清水曲輪の記載がないことから、この時期には使用されなくなっていたと考えられています。

発掘調査の結果、最も古い段階では、南側の根方街道沿いの三の丸を中心に、二の丸から本丸南端までが城域であったことが判明しています。出土遺物から、三の丸は16世紀半ば頃までに築城されたと推定されており、当時の城は沼地に突き出すような地形であったと考えられます。本丸の排水路の石組みには宝篋印塔の石材が転用されており、今川義元が興国寺を移転させ、その跡地に築城したという記録との関連性が注目されています。

その後、城域は北側へと拡大し、16世紀後半には南限が二の丸、北限が北曲輪となったと見られています。東側の清水曲輪も同時期に城域に組み込まれたと考えられています。この時期の築城は、丸馬出しや三日月堀の存在から、武田氏によるものと推測されています。16世紀後半、北条氏との攻防が激化する中で、防御性を高めるために山側へシフトした改築が行われました。

徳川氏の時代には、三の丸から北曲輪、そして東側の清水曲輪へと城域が最大規模に拡大しました。武田氏滅亡後、駿河を支配した徳川氏は、拠点となる城郭に機能を集中させる動きを見せ、興国寺城も多くの軍勢が駐屯可能な拠点として改修されました。大兵力を動員した小田原攻めも、興国寺城の拡張に影響を与えた可能性が指摘されています。

豊臣家の支配時代には、伝天守台を北限、三の丸を南限とする形になったとされています。この時期には、北曲輪と清水曲輪は城外となりました。豊臣家による支配は、関東に移封された徳川家康に対する牽制という意味合いがありましたが、関ヶ原の戦い後には興国寺城の重要性は低下し、石垣や天守を設けるなど、見せる城としての様相が強くなりました。大空濠もこの時期の遺構と考えられています。天野康景の出奔後、慶長12年（1607年）に興国寺城は廃城となりました。

歴史

戦国時代の沼津は、今川氏、武田氏、北条氏という三つの戦国大名による激しい争奪戦が繰り広げられた場所でした。支配者が頻繁に交代し、各勢力の最前線として多くの城郭が築城されました。興国寺城も、各勢力によって盛んに改修が行われました。

『今川記』や『北条記』によると、長享元年（1487年）に伊勢新九郎盛時（北条早雲）が、今川氏の家督争いで活躍したことにより、富士下方十二郷を与えられ、興国寺城を本拠地としたとされています。しかし、早雲が興国寺城を本拠地としていたことを示す同時代の史料は見つかっていません。同時代の史料で興国寺城が確認できるのは、天文18年（1549年）に今川義元が興国寺に移転を命じた文書が初出となります。また、早雲が今川氏から与えられたとされる富士下方十二郷は富士市北東部にあたり、興国寺城がその範囲に含まれるかは不明です。このように、早雲が興国寺城を本拠地としたという説には確証がありません。

天文5年（1536年）、武田信虎と今川義元が和睦したことに不満を持った北条氏綱が駿東郡に進出し、北条氏の支配下に入りました。翌天文6年（1537年）には、興国寺城を守っていた北条方の城番・青地飛騨が武田信虎に寝返り、その後、今川義元と信虎息女の婚姻の際に、興国寺城は今川方に引き渡されたとされています。しかし、築城時期自体が不明なため、史実かどうかは確認できません。

天文14年（1545年）、今川義元は武田信玄や上杉憲政らと連合し、北条氏に対して軍事行動を起こしました。北条氏の駿河の拠点である長久保城を包囲攻撃し、武田氏の仲介によって駿東郡を取り戻しました。この戦乱により、興国寺城周辺も戦火に見舞われたとみられています。

天文18年（1549年）、今川義元は興国寺を城地とするため、同寺に移転を命じる文書を発給しました。このことから、この時期に城郭の整備が進められたと考えられています。その後、甲相駿三国同盟が締結されたため、興国寺城周辺は緊張状態から脱しました。大石泰史は、同盟交渉が興国寺城で行われた可能性を指摘しています。

永禄11年（1568年）、武田信玄が甲相駿三国同盟を破棄し駿河に侵攻した際、北条氏康は今川方の援軍として興津まで兵を出しましたが、興国寺城を自領に収め、垪和氏続を城番に任命し、垪和は城の改修を行いました。その後、武田信玄は興国寺城を攻撃しましたが、氏続は守り切ったことが文書から確認できます。

元亀2年（1571年）に甲相同盟が再び成立すると、興国寺城は武田氏に引き渡されました。天正7年（1579年）に武田・北条が再び交戦状況となると、武田勝頼は北条領との国境近くに三枚橋城を築城し、興国寺城はその後方拠点となりました。

天正10年（1582年）に武田氏が滅亡すると、興国寺城は徳川領となり、徳川家康は牧野康成や松平清宗を配置しました。天正17年（1589年）には、駿河国で大地震が発生し、興国寺城も損害を受けました。天正18年（1590年）に家康が関東へ入封されると、中村一氏の家臣・河毛重次が在番しました。

慶長6年（1601年）に天野康景が1万石で入封し興国寺藩が立藩しましたが、康景の出奔により、興国寺藩は改易され、慶長12年（1607年）に興国寺城は廃城となりました。

平成7年（1995年）に国の史跡に指定され、現在、復元工事が進められています。平成29年（2017年）には、「続日本100名城」に選定されました。

遺構・遺物

伝天守台
礎石建物跡2棟（西棟：2重の石列、東棟：L字状の石列と内側の配石）
石垣（野面積み、天場の長さ約24メートル、下端の長さ約13メートル、高さ約4メートル）

本丸
城門跡（東西約5.4メートル、南北3.6メートル）
石組水路（宝篋印塔の石材転用）
土橋・空堀
空堀（幅約13メートル、本丸側深さ7メートル、二の丸側深さ3メートル）
土橋（二の丸側幅約7メートル、本丸側幅5メートル、長さ約10メートル）

二の丸
三日月堀（長さ約37.8メートル、最大幅約4.3メートル、深さ約3.8メートル）

三の丸
空堀（3箇所に屈曲あり、2重堀）
土塁（平行に二列）

北曲輪
三日月堀（大部分が破壊、一部残存）
空堀1（土橋で東西に分断、薬研型と箱型）
空堀2
大空堀（幅22〜30メートル、深さ15〜20メートル、2段構造）

清水曲輪
堀切（幅13メートル、深さ4.5メートル、後に箱掘に改修）

出土品
縄文土器、弥生土器、古墳時代土器、律令時代土器、陶磁器、磁器、陶器、石器

アクセス

徒歩: JR原駅より徒歩約30分。
バス: JR原駅、沼津駅、富士駅より富士急バスにて東根古屋下車、徒歩3分。

参考文献

『静岡県の城趾 : 中世城郭縄張図集成』静岡古城研究会、2012年
『国指定史跡 興国寺城跡』沼津市教育委員会、1996年
『沼津市史通史編 原始・古代・中世』沼津市教育委員会、2005年
『沼津市史資料編 古代・中世』沼津市教育委員会、1996年
伊礼正雄 著「北条早雲の城郭」、杉山博 編『北条早雲のすべて』新人物往来社、1984年6月
小和田哲男「二つあった興国寺城」『戦国史研究』第3号、戦国史研究会、1982年2月
木村聡『興国寺城の変遷 : 最新の調査成果を中心に』静岡古城研究会、2013年
木村聡、高尾好之「沼津市興国寺城 : 発掘調査から見る城の変遷」『山城の実像を問う』第29回 全国城郭研究者セミナー、中世城郭研究会、2012年8月4, 5日
山本惠一「興国寺城」『静岡県における戦国山城』静岡県考古学会〈2009年度静岡県考古学会シンポジウム資料集〉、2010年
山本惠一 著「興国寺城」、NPO法人城郭遺産による街づくり協議会 編『戦国時代の静岡の山城 考古学から見た山城の変遷』サンライズ出版、2011年、86-97頁。ISBN 9784883254507
黒田基樹『戦国 北条一族』新人物往来社、2005年。ISBN 440403251X
黒田基樹『北条早雲とその一族』新人物往来社、2007年。ISBN 978-4-404-03458-8
柴辻俊六『武田信玄合戦録』角川学芸出版〈角川選書〉2006年。ISBN 4047034037
平山優『武田信玄』吉川弘文館、2006年。ISBN 4642056211
市村高男『東国の戦国合戦』戦争の日本史 10、吉川弘文館、2008年。ISBN 978-4-642-06320-3
有光友學『今川義元』吉川弘文館〈人物叢書〉2008年。ISBN 978-4-642-052474
沼津市教育委員会 編『興国寺城跡調査報告書1 興国寺城跡伝天守台跡伝東船着場跡発掘調査報告書』〈沼津市文化財調査報告書 第32集〉1984年

関連項目

穂見神社 (沼津市根古屋)
曽根昌世

外部リンク

興国寺城跡（こうこくじじょうあと） 沼津市

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