英国海外航空機空中分解事故

1966年 3月5日、英国海外航空（BOAC、現ブリティッシュ・エアウェイズ）のボーイング707型機が、富士山付近上空で乱気流に巻き込まれ空中分解し墜落した航空事故です。

事故の概要

事故機

事故を起こしたボーイング707-436型機（機体記号：G-APFE）は、1960年に製造され、総飛行時間19,523時間33分、総飛行回数6,774回でした。

乗務員

- 機長：45歳男性、総飛行時間14,724時間（うちボーイング707：2,155時間）。
- 第一操縦士：33歳男性、総飛行時間3,663時間（うちボーイング707：2,073時間）。
- 第一操縦士：33歳男性、総飛行時間3,906時間（うちボーイング707：2,538時間）。
- 航空機関士：31歳男性、総飛行時間4,748時間（うちボーイング707：1,773時間）。

事故の経緯

BOAC911便は、サンフランシスコからホノルル、羽田を経由して香港へ向かう予定でした。羽田空港には濃霧のため1日遅れて到着し、香港に向けて離陸しました。離陸直前、機長は富士山上空を直行する有視界飛行方式を要求し、許可されました。離陸後、機長からの最後の無線通信は「ごきげんよう (Good day)」でした。

空中分解

離陸後、巡航高度に上昇中の14時15分頃、静岡県御殿場市上空付近15,000フィート（約4,600メートル）を飛行中に乱気流に遭遇し、機体は空中分解しました。目撃者によると、両翼からジェット燃料を噴出しながら機体中心部が地面に衝突し、爆発しました。機首部分も炎上しましたが、これは乱気流で燃料タンクが破損し、燃料が機首に流れ込んだためでした。空中分解した機体の破片は、墜落地点から20キロメートルも離れた場所にまで飛び散っていました。

この事故で、乗員11名、乗客113名、計124名全員が犠牲になりました。

事故調査

目撃情報

富士山測候所の職員や自衛隊員、路線バスの運転手など複数の目撃者が墜落の瞬間を目撃し、警察に通報しました。当初は小型機の墜落と思われていましたが、墜落現場でBOACとボーイング707の残骸が発見され、ボーイング707型機が墜落したことが確認されました。

証言と記録

自衛隊員が、プロ野球中継中に事故機が空中分解したと証言しました。NHKの録音テープを分析した結果、正確な墜落時刻が判明しました。富士山測候所の記録には、「南東方の上空で、右翼の3分の2を残し、火と煙を噴いて落ちる飛行機を発見」と記されています。

8ミリカメラ

乗客が持っていた8ミリカメラが回収され、事故原因究明に大きく貢献しました。この映像から、機体に7.5G以上の力がかかっていたことが判明しました。

フライトレコーダー

事故機に搭載されていたフライトデータレコーダーは、火災で破損し分析は不可能でした。

写真

事故の様子を捉えた写真も複数撮影されました。その中でも、箱根に社員旅行に来ていた男性が、墜落の瞬間を撮影した写真は、新聞に掲載され世界中に配信されました。

山岳波と事故原因

山岳波

富士山周辺では「山岳波」という特殊な乱気流が発生することが知られていました。当日は中国大陸からの強い季節風により、予想を大幅に超える強い山岳波が発生していました。この乱気流により、ボーイング707の設計荷重を大幅に超える応力がかかり、機体が破損し、空中分解に至りました。

剥離現象

気象庁気象研究所は、山体表面近くの気流が地表から剥がれる時に渦を巻く現象「剥離現象」を発見しました。この剥離現象が事故の原因であることを突き止めました。

飛行経路の謎

機長が通常よりも低い高度で富士山近傍を飛行しようとした理由は不明です。遅延を取り戻すためや、乗客に富士山を見せたかった可能性が考えられます。

犠牲者と慰霊

乗客

乗客には、アメリカの企業幹部とその家族、ビジネスマン、富裕層が多く含まれていました。また、映画『007は二度死ぬ』の撮影スタッフも搭乗予定でしたが、急な予定変更で難を逃れました。

慰霊碑

墜落現場近くの御殿場市に、犠牲者のための慰霊碑が建立されました。

1966年の航空事故

1966年には、日本で5件の航空事故が発生しました。BOAC機墜落事故は、その3件目でした。

1. 全日空羽田沖墜落事故（2月4日）
2. カナダ太平洋航空機墜落事故（3月4日）
3. BOAC機墜落事故（3月5日）
4. 日本航空羽田空港墜落事故（8月26日）
5. 全日空松山沖墜落事故（11月13日）

教訓

この事故は、山岳波や剥離現象といった気象現象の危険性を浮き彫りにしました。また、飛行高度や経路の選択、安全運航に対する意識の重要性を改めて示すものとなりました。現在、富士山上空を飛行する民間航空機は、計器飛行方式で充分な高度を確保して飛行しており、同様の事故が起こる危険性は低くなっています。

この事故を教訓として、航空安全のさらなる向上を目指す必要があります。

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