英語帝国主義

英語帝国主義とは何か

英語帝国主義とは、現代社会における英語の広範な使用が引き起こす問題を、歴史的視点から捉える概念です。これは単なる言語の普及ではなく、政治、経済、文化的な側面を含む複合的な現象として議論されます。

歴史的背景

英国の英語帝国主義

12世紀頃から、イングランドはブリテン諸島で拡大政策を進めました。アイルランド、ウェールズ、スコットランドを征服し、1707年の合同法で統合を完了させました。イングランドでは、フランスとの戦争によりフランス語の威信が低下し、1362年には英語が議会における唯一の言語と宣言されました。ヘンリー4世は、ノルマン・コンクエスト以来初の英語を母語とするイングランド君主となり、英語は名声を得ました。

ケルト語圏の衰退

征服されたウェールズやアイルランドでは、行政は英語で行われ、建物も英国式になりました。しかし、庶民はウェールズ語、スコットランド・ゲール語、アイルランド語などのケルト語を話しました。18世紀になると、イングランドからの移民、貿易、義務教育の影響でゲール語の衰退が加速しました。都市部は英国風になり、ゲール語の使用範囲は孤立した地域に限定されました。ジャガイモ飢饉はアイルランド西部のゲール語話者に大きな打撃を与え、多数が英語圏へ移住し、ゲール語の衰退を加速させました。

ケルト語派の弱体化の要因は以下の通りです。

イングランドによるケルト圏の征服
行政言語としての英語の強制
大英帝国による英語での管理
英語話者の経済的魅力
アングロ・サクソン国への移住支援
英語国の経済・産業力
英語の文化的名声

大英帝国の拡大と英語教育

産業革命後、英国は大英帝国を形成し、植民地経営のために現地の上流階級に英語教育を施しました。植民地が独立すると、エリート層は英語絶対優位の社会を築き、ESL国家が出現しました。ブリティッシュ・カウンシルによる英語教育推進運動は、欧米型のモノリンガル教育モデルを確立し、非西洋地域に英語を普及させました。

結果と現状

近年、「英語オンリー」への傾倒に対する批判も出ていますが、EU市民の69%が英語を「最も役に立つ」言語と回答しています。国際社会のほぼ全ての分野で英語支配が進行し、多言語使用は理想論に留まっています。

日本における議論

19世紀後半、日本は「開国」の中で「国語」問題に直面しました。森有礼は英語を国語として採用する「国語英語化論」を主張しましたが、反対論も多くありました。現代では、国際理解教育の一環として小学校から英語が義務付けられ、JETプログラムによる国際交流も行われています。小渕内閣は「英語の第二公用語化」を提言し、文部科学省は「英語が使える日本人」育成のための行動計画を発表しました。

中国・香港・台湾・韓国の事例

中国では英語教育が義務化され、英語教育産業が発展しています。香港では、英語能力が国際的地位に影響を与えるという危機感から、英語教育が重視されています。台湾と韓国でも英語教育の低年齢化が進み、英語教育への投資が増加しています。

英語帝国主義論

ロバート・フィリップソンは、言語帝国主義を「英語とその他の言語との間にある構造的・文化的不平等の秩序」と定義しました。彼は、英語の歴史的拡大が、ポストコロニアルや新植民地主義的な文脈で「英語支配」を維持していると主張しました。フィリップソンの理論は、グラムシの文化ヘゲモニーの概念に依拠しています。

英語優位を維持するレトリック

フィリップソンは、ブリティッシュ・カウンシルが英語を奨励するために使ったレトリックを分析し、以下の虚偽を指摘しました。

英語は英語で教えるのが一番良い（単一言語使用虚偽）
理想的な英語の教師は英語母語話者だ（母語話者虚偽）
英語は早期に学べば学ぶほどより良い結果が得られる（早期教育虚偽）
英語を使って学べば学ぶほどより良い結果が得られる（極大受容虚偽）
英語以外の言語を使うごとに、その分英語の能力が落ちる（控除虚偽）

英語本源論、英語付帯論、英語機能論

英語を奨励する組織や個人は、英語本源論、英語付帯論、英語機能論といった立論タイプを使用します。英語本源論は英語の特質を強調し、英語付帯論は英語の基盤の強固さを主張し、英語機能論は英語の世界への架け橋としての有効性を強調します。

批判と反論

フィリップソンの主張に対しては、英語採用を被支配者の自立的な決定と見なせない点、英語そのものを帝国主義的と仮定すること、地域言語の衰退を必然的に示唆するという考えなどが批判されています。しかし、言語帝国主義論を支持する人々は、反対論がモノリンガルの英語母語話者によって唱道されていると主張しています。

充当理論

英語の世界的な拡大は、ローカルな目的で英語が使われるという充当の枠組みで理解できるという主張もあります。非英語圏のデモ参加者が英語で書かれた標識を使う例、カメルーンが英語教育の方法をカメルーンの状況に合わせる例、パキスタンの教科書が愛国心とムスリムの信条を英語教育に組み込む例などが挙げられます。

英語帝国主義論への問い

フィリップソンは、英語化がグローバリゼーションとアメリカニゼーションから自立しているか、流暢な英語使用者に特権を与えることを避けられるか、バランスのよい言語能力を目指すことは有効か、といった問いを投げかけています。

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