苻朗

苻朗（ふ ろう）

苻朗（生年不詳 - 389年）は、五胡十六国時代の前秦に生きた皇族です。第3代君主である苻堅の従兄（伯父の子）にあたり、字（あざな）は元達（げんたつ）といいました。

生涯

苻朗は、幼い頃から非凡な才能を発揮し、物事に精通していました。しかし、世俗的な栄華には興味を示さず、自由奔放な性格で、世間との関わりを好みませんでした。苻堅は彼を評して「我が家の千里の駒である」と称賛したといいます。

380年、父である苻洛が反乱を起こし、涼州へ流罪となりますが、苻朗は罪に問われることはありませんでした。382年、苻堅によって使持節・都督青徐兗三州諸軍事・鎮東将軍・青州刺史に任じられ、楽安男に封じられます。彼はこの任官を快く思わなかったものの、やむを得ず官に就きました。

地方長官となっても、その生活は庶民と変わらず、一心不乱に経書を読みふけり、書物を手放すことはありませんでした。玄理（深遠な道理）を語り合うことを好み、日が暮れるのも忘れるほどでした。また、各地の山や川を巡り歩き、その熱中ぶりは年老いるのも忘れるほどだったといいます。

一方で、刺史としての職務も立派にこなし、在任中には多くの功績を挙げました。384年、東晋の謝玄が青州へ侵攻させると、苻朗は謝玄に使者を送り降伏を申し出ます。謝玄はこれを受け入れ、苻朗は東晋の員外散騎侍郎に任じられました。建康に到着した苻朗は、その上品で優雅な物腰と世俗を超越した態度で人々を魅了し、当代に並ぶ者がいないほどでした。彼の志は高く、語り合える者はごくわずかでした。王忱という人物が苻朗の評判を聞き、訪問しようとしましたが、苻朗は病気を理由に会いませんでした。ある僧侶がその理由を尋ねると、苻朗は「人面獣心、獣面人心の兄弟に会う必要はない」と答えたといいます。これは、王忱の容姿が醜く、その兄の王国宝は美男子だが才能に劣ることを揶揄したものでした。

謝安が開く宴にはいつも招かれ、多くの人々が集まりました。苻朗は、子供に跪かせて口を開けさせ、そこに唾を吐くといった奇行に及ぶこともありました。しかし、周囲の人々は誰も彼に及ばないと感じ入っていたようです。

また、苻朗は美食家としても知られていました。塩や酢、肉などのわずかな味の違いも判別できたといいます。会稽王司馬道子が豪華な料理を用意した際、苻朗は「どれも素晴らしいが、少し塩気が足りない」と指摘し、料理人に確認したところ、実際にそうだったという逸話も残っています。鶏肉を食べて、その鶏が日中外で飼われていたかどうかを言い当てたり、ガチョウの肉の色を当てたりするなど、その味覚に関する逸話は数多く、人々は彼の才能を賞賛しました。

数年後、王国宝の讒言により、苻朗は死罪を宣告されます。処刑に際しても、彼は平静を保ち、態度も変わらなかったといいます。彼は詩を作り、刑に臨んだと伝えられています。

著書に『苻子』数10篇があり、老荘思想の影響を受けた内容であったといわれ、世間で広く読まれました。

参考文献

『晋書』載記第13　苻堅載記上
『晋書』載記第14　苻堅載記下
『資治通鑑』巻100-106
『十六国春秋』巻41

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