荒川岳

荒川岳（あらかわだけ）

荒川岳は、南アルプス国立公園の中央部、赤石山脈に位置する前岳、中岳、悪沢岳（東岳）の3つの山々の総称です。一般的には「荒川三山」とも呼ばれ、複数のピークが連なる山域として知られています。

概要

荒川岳は、以下の5つの主要なピークで構成されています。

前岳（荒川前岳）：標高3,068m
中岳（荒川中岳）：標高3,084m
悪沢岳（別名：東岳または荒川東岳）：標高3,141m（日本第6位の高さ）
丸山：標高3,032m
千枚岳：標高2,880m

これらのうち、中岳と千枚岳には三角点が設置されています。最高峰は悪沢岳です。

前岳と中岳は距離が近く、標高差もわずかですが、悪沢岳とは距離が離れており、標高差も大きいです。しかし、周辺の山々との標高差を考慮すると、これらの山々は一つのまとまりをなしていると捉えることができます。

荒川岳周辺は、氷河によって削られたカール（圏谷）地形が特徴的です。山の上部は森林限界を超えたハイマツ帯となっており、多くの高山植物が生息しています。また、ライチョウの生息地としても知られています。カールの内部や麓は大規模なお花畑が広がり、特に中岳、前岳から荒川小屋にかけての登山道沿いは、花の絨毯に囲まれた絶景を楽しむことができます。

山名について

「荒川岳」という名称については、さまざまな議論があります。

一般的に「荒川三山」と呼ばれることについては、中岳と前岳が非常に近接しているため、これらを別の山として扱うのは不適切だという意見があります。深田久弥の著書『日本百名山』では、古い記録に基づいて、前岳と中岳を「荒川」、悪沢岳を「鍋伏」と呼んでいたと推測しています。つまり、現在の荒川三山は、本来は二つの山として数えられていた可能性があります。

また、「荒川岳」という名称が山域全体を指すことについても、最高峰である悪沢岳を重視すべきだという主張があります。深田久弥も日本百名山に選んだのは「悪沢岳」であり、山頂には「荒川東岳」の標識が立てられていますが、彼はあえて「悪沢岳」と呼ぶことを推奨しています。

「荒川岳」という名前は、前岳が小渋川の支流である荒川の源頭にあたることに由来しています。しかし、悪沢岳は荒川の流域にはなく、完全に静岡県内に位置しているため、長野県側からの視点に偏った名称であるという指摘もあります。古記録によれば、悪沢岳には「鍋伏」という別の名称が与えられていたこともあり、本来、前岳と中岳のみに与えられた名称を、悪沢岳にまで広げることは適切ではないという考え方もあります。

なお、塩見岳の北方には北荒川岳（標高2,698m）がありますが、これは三峰川の支流である北荒川の源頭に位置することから名付けられたものであり、荒川岳とは直接的な関連性はありません。

歴史

1909年（明治42年）7月：日本山岳会のメンバーが記録上初登頂。悪沢岳山頂には当時すでに人跡があり、祠が祀られていたという。
1928年（昭和3年）3月28日：慶應義塾大学山岳部のメンバーが、小渋温泉からの冬期初登頂を達成。
1939年（昭和14年）6月1日：南アルプス国立公園に指定。
1972年（昭和47年）：大幹線林道東俣線が二軒小屋ロッジまで開通し、アクセスが容易になる。

登山

登山ルート

荒川岳への主な登山ルートは以下の通りです。

南アルプス縦走ルート：赤石山脈の主稜線を縦走するルート。北側からは塩見岳、南側からは赤石岳を経由します。
二軒小屋ロッジからの西尾根ルート：二軒小屋から千枚岳、丸山、悪沢岳を経由して荒川前岳に至ります。
椹島（さわらじま）ロッジからのルート：椹島ロッジから千枚岳の南尾根を通って二軒小屋ルートに合流します。
赤石岳東尾根からのルート：椹島ロッジから赤石岳東尾根を経由して主稜線に合流します。
小渋川からのルート：小渋川を渡渉しながら、広河原小屋、船窪を経由して主稜線に合流します。

この山域は特種東海製紙の所有地が多く、林道がかなり標高の高い場所まで延びています。

周辺の山小屋

椹島ロッジ：椹島登山口
二軒小屋ロッジ：二軒小屋登山口
千枚小屋：千枚岳直下
荒川小屋：荒川岳と赤石岳の鞍部
中岳避難小屋：中岳山頂付近

これらの山小屋は、夏期には管理人が常駐し、食料や寝具の提供を行っています。特種東海製紙の子会社が運営している山小屋が多く、登山口までのバスも同社が運行しています。

ほとんどの山小屋では、営業期間外でも緊急避難用として一部が開放されています。

地理

荒川前岳は赤石山脈の主稜線上に位置し、東へ向かって中岳、悪沢岳、丸山、千枚岳が連なっています。千枚岳からは東に二軒小屋ロッジへ、南に椹島ロッジへ向かう尾根が延びています。

源流の河川

荒川岳を源流とする河川は、以下の通りです。

西沢、奥西河内（大井川の支流）
小渋川（天竜川の支流）

これらの河川は、最終的に太平洋へ流れ込みます。

交通・アクセス

長野県側（小渋川）

最寄りの駅：JR東海飯田線 伊那大島駅
最寄りのインターチェンジ：中央自動車道 松川インターチェンジ

静岡県側（畑薙第一ダム）

最寄りの駅：大井川鉄道井川線 井川駅
最寄りのインターチェンジ：新東名高速道路 新静岡インターチェンジ

関連文献

『三省堂 日本山名事典』三省堂
『日本の山1000』山と渓谷社
『新日本山岳誌』ナカニシヤ出版
『新・分県登山ガイド（改訂版）静岡県の山』山と渓谷社
『南アルプス お花畑と氷河地形』静岡新聞社
『アルペンガイド10 南アルプス（ヤマケイ・アルペンガイド）』山と渓谷社

関連項目

日本の山一覧 (高さ順)
* 日本の山一覧 (3000m峰)

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