藤原忠文

藤原忠文（ふじわら の ただぶみ）は、平安時代前期から中期にかけて活躍した公卿です。藤原式家の出身で、参議であった藤原枝良の三男として生まれました。その生涯において、官位は正四位下・参議にまで昇り、贈位として正三位・中納言を追贈されています。また、宇治民部卿とも呼ばれていました。

経歴

忠文は、内舎人や修理少進といった官職を歴任した後、醍醐天皇の時代である延喜4年（904年）に従五位下に叙せられます。その後、左馬頭、左衛門権佐、右近衛少将などの武官を務める傍ら、紀伊権介、播磨介、讃岐介といった地方官も兼任しました。

延長4年（926年）には従四位下・摂津守に任じられ、以降、丹波守、大和守と、醍醐朝末期から朱雀朝初期にかけて畿内の国司を歴任します。承平7年（937年）には修理大夫として京官に復帰し、翌年には正四位下に叙せられました。天慶2年（939年）には参議に任ぜられ、公卿の仲間入りを果たしました。

天慶3年（940年）、関東で平将門が反乱を起こすと、忠文は右衛門督兼征東大将軍に任じられ、68歳という高齢ながらも追討の責任者となりました。しかし、忠文が関東に到着する前に将門は平貞盛や藤原秀郷らによって討伐されてしまいます。翌天慶4年（941年）には、瀬戸内海で反乱を起こした藤原純友を追討するために征西大将軍に任じられますが、こちらも大蔵春実らの活躍により、忠文が戦功を挙げる機会はありませんでした。これらの反乱終結後、忠文は民部卿を兼任しました。

村上天皇の時代である天暦元年（947年）6月26日に、75歳で薨去しました。最終官位は参議民部卿正四位下兼行紀伊権守であり、没後には中納言正三位が贈られています。また、馬や鷹の名手としても知られていました。

逸話

平将門の乱鎮圧のため、老齢ながらも東国へ向かった忠文でしたが、到着前に将門が討伐されたため、その功績を認められず、恩賞を得ることはありませんでした。この処遇に不満を抱いた忠文は辞任を申し出ますが、許されませんでした。その後、忠文が亡くなると、同時期に大納言・藤原実頼の娘である述子や実頼の長男である敦敏が相次いで死去したため、忠文の怨霊が実頼の子孫に祟ったという噂が広まりました。このことから、忠文は「悪霊民部卿」とも呼ばれるようになり、その霊を慰めるために宇治に末多武利神社が創建されたと伝えられています。

また、近衛府で宿直を務めていた際には、馬寮から取り寄せた馬を枕元に立たせ、馬が秣を食べる音を聞くことで眠気を覚ましていたという逸話も残っています。

官歴

以下は、『公卿補任』に記された忠文の官歴です。

寛平2年（890年）2月27日：内舎人
延喜2年（902年）9月15日：修理少進
延喜4年（904年）正月7日：従五位下（陽成院）
延喜7年（907年）2月29日：左馬頭
延喜14年（914年）4月22日：紀伊権介
延喜17年（917年）正月7日：従五位上。5月20日：左衛門権佐
延喜19年（919年）正月28日：右近衛少将
延喜20年（920年）9月22日：兼播磨介
延喜23年（923年）2月28日：正五位下。4月29日：兼春宮大進（春宮・慶頼王）
延長3年（925年）正月30日：兼讃岐介。6月19日：止春宮大進
延長4年（926年）正月7日：従四位下。正月29日：摂津守
延長9年（931年）3月13日：丹波守
承平2年（932年）11月16日：従四位上（主基）
承平6年（936年）正月29日：大和守
承平7年（937年）3月8日：修理大夫
承平8年（938年）正月7日：正四位下
天慶2年（939年）12月27日：参議、修理大夫如元
天慶3年（940年）正月19日：兼右衛門督征東大将軍、修理大夫如元
天慶4年（941年）3月28日：兼備前守。5月19日：征西大将軍。12月18日：兼民部卿、止右衛門督
天慶8年（945年）8月15日：骸骨上表、不許。8月20日：藤季方返給表
天慶9年（946年）2月7日：兼備前権守
天慶10年（947年）2月1日：兼紀伊権守。6月26日：薨去（参議民部卿正四位下兼行紀伊権守）、贈中納言正三位

系譜

父：藤原枝良
母：息長息継の娘
生母不詳の子女
男子：藤原滋望
女子：源由道室

脚注

この記述は、以下の文献を参考に作成しました。

『公卿補任 第一篇』吉川弘文館、1982年
* 『尊卑分脈 第二篇』吉川弘文館、1987年

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